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長雨だったり、暑い日が続いたり…夏は過ごしにくく辛いです。
私は暑いのが苦手なんだなと…改めて思いました。
父様探しの効率を上げるため、極端な天候の日は巡察には同行せずに屯所の中で雑務をこなしています。
今日は空いた時間に山南さんからお借りした本を読んでいました。
「ふぅ…少し難しかったけど面白かった。夕刻だから…山南はもう起きているかな?返しに行ったついでに違う本を貸してもらおう。」
山南さんの部屋の前で軽く声をかけてみましたが返事がありません。
「…寝てる?」
襖越しに気配を探ってみましたが、どうやら今日は出かけてしまったようです。
「千歳君、どうした?」
「こんにちは、近藤さん。山南さんにお借りした本が読み終わったので、お返しするついでに別の本をお借りしようと思ったのです。でも、お出かけになられた様子。仕方がないので夕餉の準備に向かおうと思っていました。」
「そうか…うむ…そうだ!俺の本でよければ何か貸し出ししよう!」
「いいのですか?」
「あぁ、構わんとも。」
お言葉に甘え、私は近藤さんから本を借りる事にしました。
「さぁ、好きな本を手にとるといい!俺は読みつくしたからな。」
本棚にある本は私が読んだ事のない本ばかりで…正直どれが面白いのか見当がつきません。
躊躇している私の姿を見て、焦る近藤さんの声が響きました。
「いや…すまん。俺が持つ本は軍記ものばかりでな…千歳君が好む本は無いかも知れぬ。」
「いえ、読んだ事がないからこそ読む価値があると思います。近藤さんさえ良ければどの本が面白いのか、お薦めなのか、あらすじ等を聞かせてくれませんか?」
「そっそうか、そうだな…まずは…」
近藤さんの語り口調はまるで紙芝居や芝居を見ているようで、その活き活きとした姿を見ていると自然と笑みが零れてしまいました。
「近藤さんは本当に軍記ものがお好きなのですね。」
「うむ、戦い抜いて天下を取る。男なら誰でも憧れるであろう。」
「近藤さん達は京の街を守るため戦い、功績を挙げ、名実ともに立派な武士となる。実はすでに手に入れておられますから、後は世間に広く認められる事ですね。」
「あぁ…皆のためにも必ず実現させなくてはな。皆の苦労が報われるよう、俺は力を尽す。長年の夢を叶えるためにな…。」
近藤さんの思いは穢れがありません。
真っ直ぐで歪み無く、一点の曇りもない。
だからこそ…土方さんは『鬼』となり、沖田さんは『修羅』になる事を望んだ。
この少年のような穢れ無き心を、夢を守るために。
彼が無心で夢を追い続ける事が出来るように。
私は近藤さんが選んでくれた本を一冊手に取り、静かに立ち上がり頭を下げました。
『近藤さん、お忙しい中ありがとうございました。今晩から早速読んでみます。ふふっ…今宵は私も近藤さんと同じ夢が見れるかも。楽しみです。」
「ははっ、そうか!ならば千歳君が窮地に陥ったなら助太刀いたそう!」
「はい!近藤さんが味方ならば心強いです。」
近藤さんと私は顔を見合わせくすくすと笑い合いました。
夢は見るもの。
夢は追い続けるもの。
夢は長い歳月をかけてでも叶えるもの。
今宵、私は彼らが夢を叶える夢を見よう。
あの青い空を共に翔け抜ける…穢れ無き夢を見よう。