花曇 | 千歳日記

千歳日記

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各地で桜が開花したと瓦版で見かけるようにってから数日が経ちました。


寒い春から一気に暖かい春へと変わり、桜の花はこれ以上は待ちきれないと思ったのでしょうね。


気がつけば満開の時期を迎えていました。


でも、私なんだか間が悪いみたいで…私が非番の日は雨か曇空なんですよね(苦笑)


先日井上さんの巡察に同行した日も、空は厚い雲に覆われていました。


「雪村君、ちょっとだけ寄り道をしてもいいかね?実は土方君から使いを頼まれていてね。」


「はい、大丈夫です。」


私は黙って井上さんについていきました。


(なんだろ?お使いって。)


やがてたどり着いたのは…


「わぁ~桜並木…すごい…」


満開の桜が私達を出迎えてくれました。


「綺麗に咲いてますね。」


「あぁ、なんとか間に合ったようだ。おや…葉が出ている木もあるね。う~ん…この桜達も強い風や雨に当たれば直に散ってしまうだろう。」


井上さんは桜の花を見上げながらそう呟きました。


「どうしてですか?」


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「花を良く見てご覧。全体的に白っぽい花と花の中央が赤くなっている花の二種類あるだろう?開花したばかりの桜は全体的に白い色をしている。しかし散る時期が近くなるにつれて、花の中央が徐々に赤く染まっていくんだよ。」


「最期が近づくと赤く染まる…か。桜の花って、なんだか武士みたいですね。」


「どうしてだい?」


「ちょっと物騒な例えかたですが…武士の魂でもある刀がたくさんの人の血を吸い続け赤く染まり、最期を迎える時はその身を潔く散らして行く。でも、花が散ったら最期じゃないんです。散ってしまっても…後には鮮やかな葉が顔を出します。そしてまた次の年も変わらず花を咲かせる。高潔な魂は肉体が朽ち果てても消える事はなく、一度掲げた誠の心も…きっと生まれ変わっても変わる事はない。…そう思ったんです。」


井上さんはうんうんと頷きながら、ゆっくりと口を開きました。


「【花は桜木 人は武士】花の中では桜が優れていて、人の中では武士がもっとも優れているという意味だがね、桜は古くから人に愛され、そしてその姿を武士の理想と重ねてきた。雪村君の言うとおり、桜は武士の魂に似ているのかもしれないね。」


私は井上さんの言葉を聞きながら、ぼんやりと桜の花を眺めていました。


「…はっ!井上さん、道草を食べてる場合じゃないですよ。土方さんに頼まれた用事を早く済ませなくてはいけません。」


「あぁ、大丈夫だよ。土方君に頼まれた用事は無事に済んだよ。」


「?」


「土方君から頼まれた用事は『雪村君に桜の花を見せる』事だったんだよ。彼なりの気遣いだろうね。」


「そう…なんですか…」


(帰ったらお礼言わなきゃ…私…いつも迷惑ばかりかけてるのに)


私はもう一度桜を見上げました。


薄曇の空の下でも美しく艶やかに咲く桜の花。


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人を魅了し続け、心を捉えて離さない、美しい桜の花。


あの夜、私が寒空の下で見た美しい桜の花も…いつかこの花のように赤く染まり散っていく。


そしてその魂も心も消える事なく…新しい命へと繋がっていくのだろう。