半狂乱 猫事件 | 千歳日記

千歳日記

この先にある未来を…

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テンパるとどうなる? ブログネタ:テンパるとどうなる? 参加中
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『てんぱる』とは『余裕がなくなる』『慌てて動揺する』『焦る』など、気持ちに余裕のない状態を表す新しい俗語のようです。


私が『てんぱる』とどうなるか。


石田散薬を飲んだら牛になると言われ、解毒剤はないのかと叫んだり、本当に牛にならないのかと詰め寄ったり…


はぁ…ろくでもない事しかしていませんね(溜め息)


やはり落ち着く事はとても大切です。


集団行動の中で焦ったり混乱すると迷惑がかかりますし、非常時の場合は混乱が感染して、未曾有の事態に陥る場合もありますから。


特に人を束ねる長たる人物は、常に冷静でいられるという事も必要だと思います。






先日の事です。


その日は井上さんの巡察に同行していました。


屯所へ戻ると、なぜか屯所の中が妙にざわついています。


「おや、どうしたんだろうね?まさか、また沖田君が何か悪戯をしたんじゃないだろうね。」


「まさか。沖田さんはそんなに子供じゃないですよ。」


「そうだね。」


笑いあいながら中に入ると…あちこちの襖が破れ、部屋の中は酷く荒らされていました。


「なっ…なんで?」


「もしかしたら…鬼が襲来してきたのかもしれない。雪村君、君は部屋にいなさい。誰が来ても絶対に開けたり、部屋から出てはいけないよ。」


「そんな!井上さん、私も戦います。」


「何を言ってるんだい!彼らは君を攫おうとしているんだよ。君の事は我々が必ず守り通す。いいね。」


走り去る井上さんの背中を見送りながら、私は大きな溜め息を一つつきました。


「はぁ…私ってなんだか厄介事ばっかり起こして、迷惑かけてるだけみたい。せめて…自分の身は自分で守れるようにならないといけないな…。」


言われた通り襖をしっかりと閉め、部屋の隅で息を殺してじっとしていました。


すると…


「あ~れ~誰か!誰か来て頂戴!」


「伊東さん?あの伊東さんが苦戦してるなんて…もしかしたら皆…」


嫌な予感が脳裏を過ぎります。


私はいても立ってもいられなくなり、井上さんの言いつけを破って部屋を飛び出しました。


(致命傷を負わせられなくても、一瞬の隙さえ作ればなんとかなるかもしれない)


私は小太刀に手をかけ、伊東さんの声が聞こえた方へと急ぎました。


「伊東さん!」


「ゆっ雪村さん!?助けて頂戴!」


しかし真っ青な顔の伊東さんのそばに、風間さん達の姿は見当たりません。


「風間さん達はどこへ行ったんですか?」


「風間?この非常事態に何おっしゃってるの!」



にゃ~



「えっ?」


私の足元に、やわらかくて温かい何かが絡み付いてきました。


「出たわーーー!!!猫!猫!いや~!私猫は苦手なのよーーー!!!」


伊東さんは顔面蒼白、額に青筋、そして金属を切り裂いたような甲高い声を上げ、私へと迫ってきました。


そして抱きつかれるんじゃないかと思うくらい強い力で腕を掴まれました。


「きゃあー!」


思わず大きな叫び声を上げてしまいました。



いきなり茶色い物体が伊東さんに向かって飛びついてきました。


(猫?なんで屯所に猫?)


「きゃーーーー!!!やめてーーー!!!猫は大っ嫌いなのよーーー!!!」


伊東さんは叫び声を上げながら腕を振ったりぐるぐる回ったり…とにかく私の混乱ぶりなんて足元にも及びません。



しゃー!



伊東さんの仕草に猫はひどく驚いて、急ぎ足でその場から逃げ出してしまいました。






この日屯所の中にいた猫は二匹。


『一』と呼ばれていた首だけ白い黒猫は、一番組の隊士が明日里親を探すという約束で屯所の中に招き入れたそうです。


騒ぎの間『一』は始終大人しくしていた様子で、今も私の腕の中で静かに眠っています。


ではもう一匹、伊東さんに飛びついた茶色い猫はというと…


「黒猫が『一』と言うならば、この茶色の猫は『総司』だな。名は体を表す。」


「違いねぇ…。」


「ったく…『総司』って名前の奴はろくな事をしねぇ。くそ!総司!責任取りやがれ!」


「嫌だなぁ、土方さん。土方さんの部屋を荒らした犯人は猫の『総司』で僕じゃないですよ。僕は捕り物に参加してたんだから。」


「沖田さん!貴方何おっしゃってるの!同じ名前同士の連帯責任でしてよ!貴方…私の部屋をめちゃくちゃにして、猫をけしかけて…そんなに私が憎いとおっしゃるの!」


(そうですね…そうかもしれません。私も正直言って、あのきゅうりぱっくを伊東さんめがけて投げつけたい気持ちになる事が多々あります。だからもし本当に沖田さんの仕業だったとしても、その気持ちはわからなくもないです)


なんて言葉は口が裂けても言えません。


「伊東さん、沖田さんはそんな事してません。その猫はきっと屯所に迷い込んでしまっただけです。勝手のわからない場所でたくさんの人に囲まれて…きっと混乱してしまっただけです。だから猫を責めないでください。」


「勝手も何も、猫は勝手気ままに生きる生き物じゃないの!きゃー!雪村さん!私に猫を近づけないで頂戴!」


この伊東さんの混乱ぶりはなかなか治まる事はなく…落ち着かない雰囲気のまま翌朝を迎える事となりました。






伊東さん


貴方のおっしゃる通り、武士道精神や立ち振る舞いに作法、世の中の情勢を知る事は非常に大切だと思います。


でも


平常心を保つ修行も、とっても必要だと思いました。