河童談 | 千歳日記

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河童は日本の妖怪、伝説上の生き物です。


『かっぱ』は『かわ(川)』と『わらは(童)』の変化形『わっぱ』が複合した『かわわっぱ』が変化した言葉です。


河太郎とも呼ばれています。




よく知られている姿は子供のような体型、全身が緑色、頭頂部にお皿がある姿です。


お皿が割れたり乾くと力を失う、又は死ぬとされ、口は短い嘴、背中に亀の様な甲羅、手には水掻きがあるとする場合が多いです。


このような姿の河童を『亀人形態』といいます。


絵に描かれる事も多く認知度に高いこの河童の姿は、意外と目撃証言が少ないのだそうです。


もう一つ『類人猿形態』と呼ばれる河童がいます。


文字の通り全身が猿のように毛に覆われ、口は嘴ではなく牙があり、頭はお皿ではなく窪みに水を溜めています。


その水が乾くと死ぬ、または衰弱するといった点は同じです。




河童は河や沼に住むとされ、泳ぎが得意。


悪戯好きだが悪さをしないと伝えられる場合もありますが、多くは水辺付近を歩いている人や泳いでいる人を水中に引きずり込み、溺れさせたり尻小玉を抜いて殺すなどといった悪事を働きます。


尻小玉は肛門付近にある架空の臓器の事です。


抜かれると腑抜けになると言われていますが、架空の臓器ですから抜かれる事はありませんね。


…たぶん。




相撲が大好きで子供を相撲によく誘うようです。


しかし河童は大人より力が強いです。


そして相撲に負けた子供は尻小玉を抜かれる…河童と遊ぶとなると、まさに命がけですね(汗)


しかし仏前に供えたご飯を食べた後に闘えば、子供でも負けないと言われています。


ふぅ…お供え物を口にする事は、ばちあたりではないでしょうか?


取り組みをする前に一礼すると河童もお辞儀を返し、頭の水が零れて力が出せなくなるそうですよ。


…礼儀正しい点を逆手に取り弱らせるなんて、それは卑怯以外の何者でもありません!



つい…河童の味方をしてしまいました。




好物はきゅうり。


きゅうりを巻いたお寿司をかっぱ巻きと言いますよね。


きゅうりを好むとされる理由は、河童が水神の零落した姿であり、きゅうりは初なりの野菜として水神信仰のお供え物に欠かせなかった事が理由です。


他に魚や果物を好むようですが…きゅうりが先頭にあるという事は、きゅうりが一番好きな食べ物に違いありません。


やっぱり…きゅうりに執着する辺り、あの人の正体は河童なのかもしれない…。




義理堅く、恩返しとして魚や薬の製法を提供する民話も多く存在しています。


薬の製造…石田散薬もしかしたら、河童から受け継いだ製造方法で作っているのかもしれません!


石田散薬については父様も詳しい事はわからないと言っていたし…河童から受け継いだ相伝の製法とか…。


そうだ!時間のある時に土方さんに聞いてみましょう。












何故私が河童について語っているかと言うと…


先日、山南さんの部屋に夕餉を運びに行った時の事でした。


襖の外からいつも通り声をかけると、珍しく山南さんが顔を出しました。


「雪村君、先日の夕刻近くに何か騒ぎがあったようですが…伊東さんと何かあったのですか?」


「あっ…すいません、煩かったですね。」


「いいえ、ちょうど眠りから醒めた時刻だったのでね。まどろみの中で伊東さんの金切り声に混じって、君の声が聞こえた気がしたのですよ。」


羅刹となった山南さんは私達とは違い、朝眠り夕刻に目を醒まし、夜に活動をしています。


あの日…山南さんが変若水を口にしてしまったあの夜に、山南さんは死んだとされました。


だから山南さんの存在を知っているのは、あの夜山南さんと一緒にいた私と、近藤さんと土方さん、数人の幹部、そして山南さんと同じ『羅刹隊』の人たちだけです。


「あっ…あの…私…伊東さんを河童と間違えてしまって…。」


「河童?伊東さんが?」


私はきゅうり泥棒事件の事を、全部山南さんにお話しました。


「…ふふっ…伊東さんが河童…それはそれは…気の毒だね…しかし河童…。」


珍しく山南さんは笑っていました。


「土方君が『鬼』で、私も変若水のおかげで偽りの『鬼』、そして伊東さんが河童…これは可笑しい。しかし残念だ。どうせなら私は別の生き物に変化すればよかったね。」


「山南さん、そんな事おっしゃらないでください。山南さんは山南さんです。それに皆さんは今も山南さんのお力を必要としています。だからこうやって…今もここにいらっしゃるんじゃないですか!」


「そうですね…さしずめ私は鵺(ぬえ)かな。鵺は夜に鳴く、得体のしれない生き物だ。」


「鵺…ですか?」


「鵺の体はいろんな生き物を接ぎ当てたような姿をしてる。何者でもなく、何者にもなれない。私も人の姿をしていながら人でなく、鬼と言われながら鬼にもなれない。」


「そんな!山南さんは山南さんです。」


しかし浮かぶ笑みは、いつもの自嘲した笑みではありませんでした。


「鵺の正体はごく一部の者だけが知っている。その者達が本当に私を必要としているのなら…それはそれでいいのかもしれない。」


山南さんは静かに膳を受け取り、私に背中を向けてしまいました。


これ以上かける言葉もなく、私も一礼をして背を向けたその時


「雪村君、これを貸してあげましょう。河童対策にどうぞ。河童はシダの葉で頭を撫でると、人間に化けるらしいからね。悪さされる前に熟読しておくといい。」


こうして私は山南さんから『妖怪全集』をお借りしたのでした。











「礼儀正しい辺りは合ってる…お相撲は…伊東さんはしないよね?前に相撲大会があった時『まぁ!なんて野蛮なんでしょう!大衆の前で肌を曝け出した上にぶつかり合うなんて!信じられませんわーーー!!!雪村さん、こっちにいらっしゃい!』って叫んでたし。体臭が生臭いか…。う~ん…生臭くはないよね。河太郎…甲子太郎と似てる。」


「雪村さーん、いらっしゃるの?」


噂をすればなんとやら…伊東さんのお出ましのようです。


襖を開け声のする方に目をやると、魚とみかんを手にした伊東さんが庭にいました。


「うふふふふ~今日は魚とみかんを手に入れましたのよ。特別に貴方にも食べさせてあげる。美肌を健康を保つためには、ちゃんと栄養を摂らなくてはね。体調の自己管理も武士の心得の一つなのよ。」


それは筋が通っているような…一部関係ないような…。


(河童の好物はきゅうりと魚と果物…。お呼ばれした後もう一度じっくりと妖怪図鑑を読んで、真剣に河童対策に取り組んだ方がいいかもしれない。)


とりあえず、今は悪さをするために呼ばれたのではないのでしょう。


私はため息を一つつき、素直に部屋を出て行ったのでした。