朝稽古 | 千歳日記

千歳日記

この先にある未来を…

たとえどんな未来でも私は見届けてみせる

最後まで…必ず

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私はとりあえず始めてみる 派!

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形から入ると言っても、私は道具を買い揃える事も出来ず、道場や寺子屋に通う事は出来ません。


とにかく先ずは行動してみないと何も始まらないと思い、お忙しいとは思いましたが斎藤さんに『剣の稽古をつけて欲しい』とお願いしてみました。


先ずは礼儀から始まり、続いては武士道精神について語り始め…正直軽く稽古をつけてもらうだけのつもりだったので、予想外の展開に少々焦りました。


しかし、刀を手にするという意味を知る良い機会となり、実際の稽古の時には心構えが少しだけできた気がしました。


刀で斬るのではなく、全身で斬る。


単に斬るのではなく浄化する。


この一太刀で魂を浄化する。


それを頭に入れ動くだけでも、動きは以前のものとはまったく変わってきました。


息を吸う度に、冷たく新鮮な空気に身が清められる気がします。


手にした木刀は想像より重く、早くも腕が痺れ始め、普段使う事のない筋肉が悲鳴を上ています。


それでも私は休む事なく、斎藤さんの指導の元稽古を続けました。


「あんたは真っ直ぐで良い太刀筋をしているな。教え甲斐がある。」


「ありがとうございます。」


「女にしておくのがもったいないな…男であれば立派な武士になったであろう。」


「あはは…お褒めいただき、ありがとうございます。」


その言葉は喜んでいいのか悪いのか…いえ、無口な斎藤さんの口から出た言葉であれば、最上級の誉め言葉であったと思うことにします。


「珍しいね、一君が褒めるなんて。そうだな~確かに悪くなかったと僕も思うよ。男なら…か…。そうだ!いっそ石田散薬を飲んで島田さんになればいいんじゃない?給金も弾むし、君がここにいる正当な理由も出来るよね。」


「じゃあ沖田さんも石田散薬を飲んで、私と一緒に島田さんになりましょう。今以上に、近藤さんの役に立つと思いますよ。」


「くすくす…君もずいぶん言うようになったね。」


「もう慣れましたから。」


「総司、何度も言っているであろう。石田散薬は万能薬ではあるが、筋肉増強の薬ではない。そうであれば、屯所の中はとうの昔に相撲部屋になっているではないか。」


「反対に一君は変わらないね。相変わらずの石田散薬信者だ。」


笑い声を洩らすと、冷たい空気に白い息が立ち上ります。


「またお前らか。朝っぱらからつるんでるとはな。まぁ…仲良き事は美しきかなと言うがな。」


「おはようございます土方さん。今、斎藤さんに剣の稽古をつけてもらっていたところです。沖田さんは単なる見物人です。」


「賢い判断だな。総司に教えてもらうとなればお前の事だ、また出鱈目を吹き込まれて泣く羽目になるのが目に見えている。」


「嫌だな~。教えるとなったらちゃんと教えますよ。その代わり僕は一君と違って手加減しないから、とことんその体に叩き込んであげるけどね。動けないくらいになったら、石田散薬の出番だ。飲んだ後の君はきっと島田さんだから、二回目以降の稽古はずいぶんとやりがいがあるよね。」


「もう!石田散薬で島田さんにならないって言ってるでしょ!」


私たちのやりとりを眺めていた土方さんからも、笑い声が漏れました。


「まるで餓鬼同士のじゃれあいだな。総司、やっぱりお前はまだまだ餓鬼だって事だ。いい加減自覚しろ。」


「そうですよね。土方さんの言うとおり、沖田さんは子供がそのまま大きくなったみたいです。」


笑う土方さんを見上げたその時、私は不思議な感覚にとらわれました。


(なんだろ…この感じ…知ってる。)


あの時も私は沖田さんと斎藤さんと一緒にいて、その後土方さんが現れて声をかけられた…はず。


(あの時?…そうだ…あの時だ。)


私が初めてこの人達に会った夜と同じだと気がつきました。


あの時沖田さんと斎藤さんに追い詰められ、動けず怯えていたところに土方さんが現れました。


そして私の処分をどうするか、生かすか殺すかと相談し始めて…。


私は今もその三人のそばにいて、三人は私を交えて軽口をたたいている。


(変な感じ。)


「じゃあ僕が餓鬼じゃないってところを見せてあげますよ。もちろん道場でね。いいでしょ?朝飯の時間まで。それとも…年寄りに、僕の相手は無理かな?」


「んだと…てめぇなんざ、片腕で十分だ。」


「副長、俺も手合わせをお願いします。」


「ふん…二人がかりでかかってきても軽いもんだ。来い!まとめてこてんぱんにしてやる。」


でも女であり、まったくの部外者である私は、やっぱり彼らに交わる事など出来るはずもなく…。


「おい千歳、何ぼんやりしてやがる。石田散薬の用意して来い。早く来ねぇとお前抜きで稽古を始めちまうぞ。」


「はい!えっ…私も…ですか?」


「見取り稽古するんだろ?最近は暇さえあれば道場にいりびだってるって話じゃねぇか。興味がないなら、石田散薬だけ置いて戻れ。その気がないなら邪魔なだけだ。」


女であり部外者の私は、やはり彼らに交わる事は出来ない。


それでも私は、彼らの生き様をこの目に焼き付ける事が出来るはず。


「はい!お願いします。石田散薬を用意したら、すぐに駆けつけますから!」


「ふん、慌てて転ぶなよ。お前が怪我をしたら面倒なだけだ。」


「千歳ちゃん、早くおいでよ。じゃないと、僕が土方さんを倒す瞬間が拝めなくなっちゃうよ。」


「雪村、慌てなくてもいい。土方さんは総司如きに倒される御仁ではない。あんたが来るまで、軽く打ち込みをするとしよう。」


交わる事は出来ずとも、彼らは私に声をかけてくれる。


一緒に戦う事は出来なくても、彼らと共に先へと走る事は出来るかもしれない。


だったら走りだそう。


私が辿る未来へと。


形や体裁なんかどうでもいい。


今走れるのなら、とにかく走り出さなくては。


「はい!すぐに追いつきます。」


待っていて欲しいなんて、言わないし思わない。


どんなに先に行っても追いついてみせる。


それこそが今私がここにいて、今を生きる意味なのだから。


私は三人に背を向け、思いっきり走り出しました。


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