はろうぃーんの夜 | 千歳日記

千歳日記

この先にある未来を…

たとえどんな未来でも私は見届けてみせる

最後まで…必ず

あともう少しで神無月も終わりです。


出雲に集まった神様達は、今頃帰り支度をしている頃でしょうか?


皆さまはもうご存知だと思いますが、今日は【はろうぃーん】というお祭りの日です。


元々はケルト人の宗教的行事です。


秋の収穫を祝い、亡くなった家族や友人の霊を尊び偲ぶものが、後にキリスト教に取り入れられ次第に今の形に変わっていったようです。


現代の日本では『かぼちゃのお菓子を食べる日』に変換されたようなものですが(苦笑)、日本人は季節の節目や他民族の祝い事に上手く食文化(特にお菓子)を取り入れる民族だなと、私は関心しています。


はろうぃーんと言えば


『お菓子をくれないと悪戯しちゃうぞ』


と言いながら子供達がお菓子をおねだりに来るそうです。


新選組の屯所には、お菓子をおねだりするような子供はいません。


しかし悪戯と言えば…一人だけ心あたりがありますよね?











「千歳ちゃん、悪戯されるのとお菓子をくれるの、どっちがいい?」


部屋で静かに日記を書いていると、案の定沖田さんが現れました。


「こんばんは、沖田さん。お言葉ですが、沖田さんは悪戯をしているわけではないと私は思いますけど?」


「へぇ…悪戯じゃなかったらなんだって言うのかな?」


にやりと笑う沖田さんをじっと見上げながら、私は口を開きました。


「私に対しては『からかっている』、土方さんの句集は『拝借した』、違いますか?」


「くすくす…さすがだね。言う事が違うな。やっぱり面白いや。」


「お褒めいただきありがとうございます。」


私は丁寧に包んだお菓子の袋を、沖田さんに差し出しました。


「今日は【はろうぃーん】というお祭りの日だそうですね。夜になったら『お菓子をくれないと悪戯するぞ!』と叫びながら子供がお菓子をねだりに来るとか…そう土方さんから教えていただきました。」


「あのね…僕は子供じゃないんだけどな。」


冷たい視線が私を見下ろしています。


(うっ…目が笑ってない…正直怖い。)


あの夜に見た彼の姿を思い出し、背筋に嫌な汗が流れました。


(怖くない…怖くない…。私は沖田さんが本当はどんな人なのか、ちゃんと知ってる。だから…怖くない。)


私はお菓子の包みをさらに突き出し、沖田さんの目を真っ直ぐに見据えて言葉を続けました。


「土方さん曰く『図体だけがでかくなった餓鬼』ですよね?それから甘いものが大好きです。これは先日いただいたお給金で買ってまいりました金平糖です。沖田さんお気に入りの金平糖ではありませんが、負けず劣らず美味しいと思います。」


一瞬目を見開いて、ふっと気が抜けたような笑い声を洩らし、私の手から包みをそっと取り上げました。


「土方さんから見れば僕はいつまで経っても『餓鬼』扱いなんだな。剣では絶対に負けてないけど。君の給金なんてたかがしれてるのに…どうせなら自分のものを買えばよかったんじゃない?」


「私が今ここにいて、わずかでもお給金をもらえたのは、新選組の皆さまのおかげです。だからこのお給金は、皆さまのために使おうと決めていました。ほんのわずかですが、日頃の感謝と毎日お世話になっているお礼です。」


「ふう~ん…謙虚だね。」


「居候ですから。」


沖田さんの大きな手が、私の頭を数回ぽんぽんと軽く叩きました。


「そろそろ『新選組鬼副長の小姓も兼ねている居候』でいいんじゃない?よくやってると思うよ。たまに邪魔だけどね。」


軽く手を挙げ、部屋を後にする沖田さんの背中に向かって私は叫びました。


「沖田さん、ありがとうございます!そのお菓子、沖田さんのためだけに包みましたから、ちゃんと食べてくださいね。」


振り向くことなく立ち去るその背中を、私は見えなくなるまでずっと見つめていました。


「…沖田さんには渡せたし、斎藤さんにはお昼に渡したし…あとは土方さんだ。お茶と一緒にお持ちしようかな。」


斎藤さんには好物だと聞いた最中を、土方さんには紅葉を模ったお菓子を用意していました。


沖田さんのために用意したお菓子ですか?


先ほど説明した金平糖ですよ。


あぁ…それともう一つ。


近藤さんのためと体を張り、限界までがんばっている沖田さんのために、石田散薬を添えました。


最近風邪気味だと聞いていましたし…三日分もあればきっと治りますね。


なんと言っても石田散薬は万能薬ですから!


いえ…『石田散薬は万能薬』だなんて、まったく本気にしているわけではありません、


しかし実際に石田散薬を飲んで病が治った事があるので…あながちそうではないとは言い切れないのです。


ふぅ…あの時は大変でした…。


その時の話はいつか、機会があればいたしましょう。


私は今から、土方さんにお持ちするお茶の準備に取り掛かりますので。


では、皆さまも楽しいはろうぃんの夜をお過ごしください。


ちなみに


初めて飲んだ石田散薬の感想は『牛になりそうな気持ち』でした(笑)