書きつけと石田散薬 | 千歳日記

千歳日記

この先にある未来を…

たとえどんな未来でも私は見届けてみせる

最後まで…必ず

先日から何通か文や書きつけをいただきました。


当たり前ですが、恋文ではありませんよ(苦笑)


書きつけは誰でも見られるようなものですし、文も必ず誰かの目に留まります。


万が一恋文が私宛に送られてきたらすぐに検問に引っかかって、先日土方さんと斎藤さんが煙にまかれ犠牲になった焼き芋事件の時に、落ち葉と一緒に焼かれて捨てられていますから(笑)。


文や書きつけをもらうたび、私は思います。


「ここにいてよかった」と…。


あんな目にあって、不自由を強いられて、それでも本当によかったのかと…そう思われますか?


幸せは苦難があってこそ、この身に感じられるものです。


確かに私の立場は非常に微妙で…正直言って皆さんも扱い困っていると思います。


九月のあの日、土方さんからこの日記をいただいてから、少しずつではありますが【関係】が微妙に変わり始めた気がします。


私は新選組幹部でも隊士でもありません。


ただの傍観者です。


彼らの進む運命に、私は大きな影響を与える事は出来ません。


ですが、彼らは私の運命に大きな影響を与える事は出来ます。


止まったままだった私の運命の歯車が少しずつ少しずつ…音を立てて動き出しています。


自惚れなのかもしれません。


それでも、今まで見えなかっただけで…


違う


自ら目を塞いで見なかっただけなんです。


手を伸ばせばいつでも手に入れられたのに、怖いからと…ずっと蹲っていただけなんです。


だから手を伸ばしてみた。


なにか掴めるかもしれないと。


形あるものは手に入らなくてもいい。


すぐに失ってしまうかもしれない。


それでも自ら手を伸ばす事で、自分の中に新しいものが生まれればいい。


だから何度も迷い、戸惑い、後悔しながらこの手を伸ばしてみました。


その伸ばした先にいる人が、私の手を取ってくれた。


その先に人が手を伸ばしていた事に、やっと気がつけた。


私はずっと立ち尽くしたままで、自ら運命を切り開こうとする努力をしなかった。


それに気がつけたから私は今「幸せ」で、「ここにいてよかった」と素直に思えるのです。











少し部屋を離れていた間に、また書きつけが一枚置いてあります。


そして書きつけに添えられた包みには、嫌な感じがしますが見覚えがあります。


書きつけに目を通し、包みの中身を確認すると、つい…ため息と苦笑が漏れました。


差出人は斎藤さんです。




雪村へ


昨日体調が悪いと洩らしていた故、石田散薬を置いていく。白湯で飲むといい。

石田散薬は万能薬。明日になれば体も軽くなっているだろう。

それから、石田散薬で牛になる、島田さんのような巨漢になるという話は総司の作り話…出鱈目(でたらめ)だ。

総司の戯言をいちいち信じるな。

それが本当なら、屯所はとっくに牛舎や相撲部屋になっている。

だから安心して飲むがいい。


斎藤




いっそそれが本当なら、この苦い薬を飲まなくてもいい理由になるのですか…


「せっかく好意でくれたんだから、飲まなきゃ…駄目だよね?」


飲まずに放置して、飲まなかった理由を斎藤さんに問い詰められても困るので、気は進みませんが勝手場から白湯をもらってきます。


万が一私が牛になったり、島田さんのような巨漢になったら…日記はしばらくおやすみしますね(笑)