あの日貴女は『私でも花を咲かせる事が出来ますか?』と私に問いましたね。
私は貴女に『出来ますよ』とは答えませんでした。
花を咲かせる事は受け取った側の仕事であり、水をまきそっと見守る時間も必要だと、ただそれだけを伝えました。
何故だかわかりますか?
やまとうたは ひとのこころをたねとして よろずのことのはとぞなりける
和歌は人の心を種として、そこから無限に広がった言の葉という意味の歌です。
時を越えて和歌が…歌が今もなお愛され続けているのは、その中に詠んだ人の心が、思いが、魂が込められているからだと私は考えます。
息吹が吹き込まれた言葉には、大きな力があります。
冷たい感情が吹き込まれれば、それは時として武器になり
あたたかな感情が吹き込まれたそれは…誰かを支える大きな力になる。
貴女が私を見つけてくれたあの日、貴女は私に一粒の種を与えてくれました。
そして私に言葉という水と、あたたかい何かを与えてくれました。
種は私の心の中で芽吹き、そして今…美しい桜色の花を咲かせました。
もし貴女が私の言葉をあたたかいと感じるのなら、きっと貴女もあたたかな言葉を紡ぐ事が出来るでしょう。
人は自分が感じた事のある痛みしか理解出来ないのなら、自分が嬉しいと感じた事も理解出来るはずです。
自分がされて嬉しいと感じたから、相手にも同じように手を伸ばす。
貴女はここに来たなりの何も知らない私に、声をかけてくれました。
私の抱える思いを共有しようと、私に手を伸ばしてくれました。
だから今、私の心の中に桜色の花が咲いているのです。
あの時…貴女なら出来ると知っているから…ありきたりな言葉は贈らなかったんです。
不要でしょ?
『きっと出来ます』
そんな言葉がなくても貴女は自分で答えを出せるから、いつかきっと出せるから。
私に花を贈ってくれた貴女に、私はありきたりな言葉しか贈れなくてごめんなさい。
『ありがとうございます』
貴女に会えた事を私は幸運だと思い、そして誇らしく思っています。