大切なもの | 千歳日記

千歳日記

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成り行きではありますが、私は自分の身一つでこの新選組の屯所に留まる事になりました。


特別に部屋を与えられ、眠るための布団と備えつけられていた文机、そして土方さんからいただいた紙と筆と硯だけが今の私の持ち物です。


外出する機会がまったくないわけではありませんが、男装をしている以上可愛らしい装飾品や小物を買うわけにもいかず、『捨てられずに溜めてしまうもの』なんて私の手元には何一つありません。


…あっ!ありました。


この日記です。


まだ書き始めてまもないけれど、この日記をいただいた日から私の時間が動き出したような気がしています。


私以外に読む人などいないけれど、この日記に書かれた言の葉は、私がその時間、その瞬間を生きて何かを感じた証です。


だからいつかこの日記を処分しなくてはいけない日が来ても、きっと私は捨てる事が出来ないと…そう思いました。


パラパラと日記をめくっていくと、中から小さな紙が零れ落ちました。


「あっ…いけない。」


慌てて拾い上げようとすると、少し強い風が吹いて小さな紙を舞い上げ、廊下へと放り出してしまいました。


「ん?何だこれ?」


「永倉さん!拾ってください、早く!庭に落ちると雨に濡れてしまいます。」


「あ?あぁ…何々…『棚にこっそり大福入れて置いたから、後で一緒に食べようぜ。 平助』『市場で桃を見つけたぜ。剥いてやるから勝手場で待ってるぜ 永倉』って…これは俺の書いた書きつけじゃねぇか!」


「そうです。皆さんからもらった書きつけです。落としてしまってバラバラに…あぁ~。」


「おっと、風が強くなってきたな。よっ…と…よし!これで全部だと思うぜ。」


廊下に散らばったすべての書きつけをかき集め、永倉さんは私に差し出しました。


「ありがとうございます。」


「あのよ…千歳ちゃんもしかして…俺らが千歳ちゃんに宛てた書きつけを…なんだ…捨てずに全部取っておいてんのか?」


「はい。なんだか捨てるのが惜しくて。たったひと言ですが、これが私に向けられた言の葉だと思うと、なんだか嬉しい気持ちになってくるんです。」


書きつけを綺麗に束ね、再度日記に挟み込んだ途端


「ふ~ん…。あっ!ちょっと待った!千歳ちゃん、ちょっと待ってろ。」


永倉さんはそういい残し、どこかに向かって走り出してしまいました。


「どうしたんだろう?何か忘れ物かな?」


言われた通りその場で待っていると、何かの箱を手に永倉さんが戻ってきました。


「ちょうど良かったぜ!棚にあった菓子箱、ほら…これに書きつけを入れたらいい。日記に挟んだままじゃあ、またバラバラに零れちまうからな。それから、ほら…日記は紐で綴じて本に仕立てよう。土方さんの発句集みてぇにな。日記も書きつけも、千歳ちゃんの大切なもんなんだろ?大切なものはちゃんと保管しとかないと、いつか失くしちまう。」


「あっ…ありがとうございます。」


捨てられずに溜めているもの…私にもありました。


土方さんからいただいた日記。


まだまだ紙面は白紙だらけでも、月日を重ねる度にきっと私の言の葉で埋め尽くされていく。


そして何の変哲のない書きつけ。


それはたったひと言だけでも、その言の葉は確かに私へと向けられたもの。


何もないんじゃない。


これから作っていくんだ。


捨てられないほど大切な何かを…この場所で…皆と…きっと。