日本の医療制度 | 扶氏医戒之略 chirurgo mizutani

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身近で関心は高いのに複雑・難解と思われがちな日本の医療、ここでは、医療制度・外科的治療などを含め、わかりやすく解説するブログです。

(4) 医療費の抑制と経済誘導
改定の一方の当事者である厚生労働省の保険局は医療費の抑制を、他方の医師・病院団体の代表は供給者間のバランスの維持を重視してきました。具体的には、ある「診療行為」の回数が不適切に増えたと双方が判断した場合には、厚生労働省は医療費を抑制する見地から、医師・病院団体は当該行為を多く実施している医療機関が突出して利益を受けているという見地から、点数の引き下げに合意を得てきました。
このような政策目標に沿って点数が改定されるため、出来高払いでありながら、診療報酬によって統制できるのは、「価格」の面だけで、「量(回数)」はできませんので、以前に説明したように、「価格」を統制すると、医師・医療機関は収入を確保するため量(回数)を増やす可能性があります。しかし、回数が増えた分だけ「価格」をさらに下げれば、相殺されます。
・技術料の改定例:MRI
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2000年 頭部:1660点/全身:1780点/四肢:1690点
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2002年 頭部:1140点/全身:1220点/四肢:1160点
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2006年 部位を問わず1.5テスラ未満1080点、以上1230点に
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2008年 1.5テスラ未は1080点~、以上1300点に↑
特殊MRI撮影(管腔描出1530点削除)
造影剤使用250点は同じ、心臓撮影加算300点を新設
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2010年 1.5テスラ未満は1000点に↓、以上1330点に↑
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例えば、上の表はMRIの点数改定の動きを示しており、2002年度の改定でMRIの点数が3割さがっています。その後、2006年度より新しいタイプの1.5テスラ以上の画像精度の高い機器と、それ未満の機器の間に点数格差が導入され、両者の格差は拡大しました(ただし、機器の購入値の相違を反映するほどではありません)。また点数を下げることのほかに、請求するうえでの条件を厳しくする(例えば、CTスキャンの読影については何回行っても月に1回しか請求を認めない)ことによっても対応しています。
このように選択的に点数を下げることによって医療費を抑制するだけでなく、分野ごとのバランスを維持するうえでも役立ってきました。両者には相乗効果があり、もともとシュアの大きかった開業医の配分枠を維持することは、医療費を抑制するうえでも貢献することになります。
診療報酬の改定は、医療費の抑制とバランスの維持だけではなく、当面の政策目標を達成するためにも行われてきました。例えば、2006年度の改定において、全体としては3.16%下がりましたが、産科・小児科分野の医療に対応することが政策課題でしたので、両分野の点数は引き上げられました。
つまり、診療報酬は医師・医療機関に対して、医療費の抑制とバランスの維持という「ムチ」だけではなく、あるべき方向に向かわせるための「アメ」の役割も果たしています。そして、日本の医師は狭い分野の専門医として養成されましたが、必ずしもそれにこだわらず、またこだわれない状況に置かれてきたので、診療報酬の経済誘導によって操作されやすかったといえましょう。
なお、米英ではP4P(Pay for Performance,実績に応じて支払う)が導入された際、医師は自分の行っている診療内容に対して経済誘導がなされることに反発しましたが、日本ではP4Pとして認識していませんが、実は長年行われてきました。

(5) 薬価の引き下げ
医療機関は薬を購入する際、値引き率の最も大きい卸より購入します。そのため、薬の市場価格は、ほとんどの場合、公定価格である薬価よりも低いです。こうした「薬価差」を縮小するため、診療報酬改定の際に銘柄の8割は引き下げられます。銘柄ごとの引き下げ幅を決めるために国が行う調査が「薬価調査」であり、診療報酬を改定する前年に実施されます。
この調査により把握された、銘柄ごとの販売価格と量を加重平均して市場価格を計算します。そして、薬価差として認められる許容限度幅(R <リーズナブル>)ゾーンと呼んでいます)は市場価格の2%です。例えば1錠100円の薬価がついている薬剤の平均市場価格が90円であることが調査により明らかになれば、許容される利益幅は約2円ですので改定後の薬価は92円に下がります。
2%のマージンでは、改定後にさらに値引きが行われても、保管などに要するコストを下回っている可能性があり、それが医薬分業(調剤を医療機関と独立した薬局で行う)を促進する原動力となりました。実はRゾーンの幅は1992年には15%あったのが、徐々に縮小し、2000年に現在の2%になりました。こうした縮小に呼応して2005年には調剤薬局で調剤される処方箋の割合が、院内処方を上回りました。なお、薬価差は2009年においても約8.0%であったことが2010年度における薬価の引き下げ率から推測されます。
薬価の引き下げは、医療費の抑制に貢献しましたが、製薬企業としては新製品を出して、薬価が下がる構造にあるので、開発・販売に躊躇してしまう可能があります。実は、こうした引き下げが、日本におけるドラッグラッグ(欧米と比べて薬剤の承認の遅れ)の要因として挙げられています。そこで、2010年度の改定において、「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」が導入され、あらかじめ登録した薬剤の薬価差が、全体の平均以下にとどまっていれば、引き下げを行わず、薬価を維持する制度です。その代わり、メーカーとして指定された未承認薬及び既存薬の適用の拡大を行うための治験を進めることが条件となっており、怠った場合には過去に遡って薬価が引き下げられます。
なお、薬価は薬価調査の結果によってだけではなく、「再算定」によって新薬の売り上げがメーカーの提示した予測以上であった場合、また適用範囲が広がった場合にはそれぞれ引き下げられ、さらに先発品(ブランド)としての特許が切れて、後発品(ジェネリック)が発売された場合も下げられます。
さて、薬価差以外にも、薬価には3つ問題があります。その第1は、いくら薬価を下げても、当初設定された薬価が欧米と比べて高すぎる、という批判です。その原因は、日本では新薬の承認プロセスがこれまで比較的甘く、同じような薬効であっても新薬として認められ、しかも比較的高い薬価がつけられたことにありました。しかし、現在では新薬としての承認基準と薬価のつけ方が厳しくなったので、むしろ参照されるアメリカ、イギリス、フランス、ドイツにおける高い価格に引きずられて高い薬価がつけられる場合もあります。
第2は、日本は先発薬の薬価が高く、また使用割合が高いことです。諸外国では先発薬の特許が切れると後発薬が参入して価格は急速に下がりますが、日本ではあまり下がりません。また、2008年における後発品の割合は数量ベースで20%(ドイツ64%)、金額ベースで7%(同23%)にとどまっています。後発品の割合を高めることが政策課題となっていますが、後発品に対する信頼は必ずしも高くなく、また仮にドイツのように後発品の数量ベースの割合が高くなっても金額ベースでは低い水準にとどまっているので、今後、新薬が増えれば期待していたほどの医療費は抑制されないかもしれません。
第3は、出来高払いで費用が補償されている限り、たとえば医療機関に薬価差による利潤がなくても、少しでも有効の可能性があれば、薬剤が処方されることです。その際、薬の量だけでなく、価格も問題であり、同じような薬効でも、新薬や先発薬であれば割高になります。この問題を解決するためには包括払いにする必要があり、その問題点については次回で述べます。
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