うちのオヤジは背が高い
 
おまけに顔はヤクザ顔だ
 
高校時代、校門の前にはいつもヤクザが来ていて
 
卒業したらウチの組に…と、スカウトされたと言う
 
どんな高校生だよ…
 
 
 
 
ヤクザにはならずに何年か東京で働いた後にオフクロと結婚
 
馴れ初めを聞くのは気持ち悪いから聞いた事がないのだが
 
寿司屋でデートした話は記憶に気色悪く残っている
 
子供が好きなのに子供に好かれず
 
自分の子供とはどう接していいのかわからず
 
イライラしている事が多く
 
怖いイメージは倍々ゲームで蓄積された
 
「たまにはタカを連れて遊びに行ってきて」とオフクロに言われ
 
オヤジは俺を嫌々な顔をしながら車に乗せた
 
「お父ちゃんと出掛けるの嬉しい♪」とオヤジに気を使って言った
 
ふて腐れたオヤジの機嫌を子供なりに直そうとした
 
無口で乱暴な運転で到着したのはパチンコ屋だった
 
オヤジは自分の隣の空いている席に俺を座らせた
 
チューリップに玉が入ったり電飾がピカピカ光ったりするのを
 
俺は隣で見ていた
 
怒られるのを覚悟で言ってみる
 
「お父ちゃん、俺もやりたい」
 
オヤジは無言のまま大きな手でパチンコ玉を握って
 
二回程、俺の前にあるパチンコ台の皿に乗せた
 
嬉しくてオヤジに向かってニコッと笑った
 
オヤジはあごをしゃくって「パチンコやれ」とサインを出した
 
見様見真似でバネをはじいて玉を飛ばしてみるが
 
幼稚園生のガキが上手くできるわけもなく
 
間もなくして玉は無くなった
 
「お父ちゃん、またちょうだい」
 
オヤジは大きな溜息をついて「うるせぇなぁ」みたいに顔をしかめた
 
それは怖い顔だった…俺は店内を探検した 
そうすると足元に落ちている玉を何個か発見した 
コレを拾えばまたちょっと遊べるかもしれない
俺は一生懸命に落ちている玉を拾っていた
ちょっとオヤジの存在を忘れた瞬間…
いきなり背後から頭をパシッと叩かれた
オヤジだった…
『汚い事するな!だから連れて来たくなかったんだ!』
そういうと俺をつまみ上げ車に乗せて帰宅…
俺を降ろすなりまたパチンコ屋に行ってしまった
かなり俺が小さい頃の話らしいが
俺は決して忘れない出来事だ
オヤジに好かれてないような予感をこの頃は強く感じていた

泣いていると優しくしてくれるのがお婆ちゃんだった


究極のマイナス志向のお婆ちゃん


その部分のDNAが確実に俺の中に受け継がれていて


俺の激しいマイナス思考は周りの人からも


『どうしてそんなにマイナスにだけしか考えないのか分からない』


と、言われるほどだ

 

 

 

 

お婆ちゃんのふくらはぎは異常なものだった


異様に血管が太くウネウネと皮膚の下にあった


子供の頃、それを見て


『お婆ちゃんの足、どうしてこんななの??』


と、聞いた


5人の子供をおんぶして育てて


二人の孫(俺と弟)もおんぶしてきたから


だからこんな風になったのかもしれないね


…イヤミっぽくでは無く、優しい言い方でそう答えてくれた


 

 

 

両親が共働きだったので


俺はお爺ちゃん、お婆ちゃんに育てられたのと同じだった


自然に、お爺ちゃん子お婆ちゃん子に育ってしまって

 

母親はそれに対して嫉妬していたんだと知っていた


直接言われた訳ではなく、幼心に肌や空気でそれを悟っていた


遠足や学校の行事には母親よりお婆ちゃんが来ている事が多かった


授業参観が体育だった時にお母さんとダンスをしましょう…と言うのがあって


その時もお婆ちゃんが来ていた


みんなお母さんが来ていてダンスも上手にしていたけど


お婆ちゃんがダンスをした時、回りの子供たちがクスクス笑っていた


大好きなお婆ちゃんが一生懸命ダンスをしているのに笑われた事と


どうして俺のお母ちゃんは来てくれないのかと言う気持ちがミックスジュースになって


俺の気持ちを満たしてしまっていた


遠足があって親子レクがあって


その度にミックスジュースが俺の気持ちを悲しい気持ちで満たしていた

 

 

 

 

お婆ちゃんは仏教徒でいつも仏壇に手を合わせたり


お寺で説教があると聞きに行ったりしていた


仏様と言うものを俺は見たことがないが


きっとお婆ちゃんみたいに優しい人なんだろうなと思ってた


でもお婆ちゃんより優しいものなどいるわけないと思っていた


それくらい優しいお婆ちゃんに育てられた





どたばたコント一家を一言では説明できないので
 
代表的なエピソードと一緒に家族を紹介していこう
 
 
 
 
まずは…魚屋のお爺ちゃん
 
俺は大好きだから悪い人ではないのだが
 
とにかく喧嘩や争い事に好かれているタイプで短気
 
酔っ払って家に帰って来たかと思うと
商売道具の包丁を持ってまた出て行こうとする
 
慌てて家族が止めて理由を聞くと、一緒に飲んでいた人と喧嘩して
 
頭に来たから殺しに行くと言う…
 
 

 
こんな場面を何度も見て来た俺だが
 
いつもナイスタイミングで家族に阻止されて、事件は未然に防がれた
 
 
 
 
若い頃、村の消防団に入っていたそうだ
 
近所の火事に、いち早く駆け付け消していると
 
少し遅れて来た消防署のポンプ車が後ろから水をかけ始めた
 
「俺が見つけた火事に手を出すな」とポンプ車に向かって水をかけたらしい
 
消防団と消防署の喧嘩が始まり、そうこうしている間に
 
火は近くにあったドラムカンに引火&爆発
 
…嘘だろそんな話
 
しかし、その時の証拠だという火傷の痕はお爺ちゃんの額にしっかり残っていた
 
 
 
 
相撲やプロレスが大好きで
 
流血試合も鼻息を荒げて見ている
 
今の時代、残酷な映画は年齢制限をかけるけど
 
当時はお構いなしに流血場面を放送していた気がする
 
プロレスは裸のオッサンの喧嘩だとしか思えなかった
 
怖くて俺は泣いていた
 
男のくせに泣くなと怒られてまた泣いた
 
俺は泣いてばかりいた

ほとんどの人がそうであるように

俺には赤ん坊の頃の記憶がない

大きくなってから聞かされた話でしかそれを知らない




おっきい猫が家にいて喰われるかと心配した

…の様な有り得ない話から

あんまり目が大きい子だから「山トンボ」みたいな子だって言われた

…みたいなチッチキチー話

しかし俺の回りにはチッチキチーな話が多い

俺は生まれた時から頭には全く毛がなかったらしい

「ツルンとむいた芋の子(里芋)みたいだった」と

当時の生えなさっぷりをみんなは振り返る

この状態は俺が一歳になっても変わらず、心配したお婆ちゃんは

近所からおまじないを聞いて来て試した




その日の夕方、オフクロが家に帰ると家中がニンニク臭かった

ただいまと抱き上げた俺から強くニンニク臭は出ていた

見ると禿げた頭が真っ赤になっていて臭い

お婆ちゃんが試したおまじないは、おろしたニンニクを頭と足の裏に塗る…

というものだったらしい

ニンニクの強い刺激で頭と足の裏は赤く腫れ、しばらく病院に通ったらしい




まじないが効いたのか、生える時期だったのか

やがて生えて来た髪の毛

35際になった今もフサフサ生えている




俺が一歳三ヵ月の春

弟が生まれた

ただの弟じゃない

とんでもない弟が生まれたのだった




7人という大家族になり

どたばたコントみたいな毎日が始まった

 


たいていの物事には始まりがある


俺の町を流れる大きな川の『北上川』にも始まりがあって


ずっとこの川を上っていった山奥の奥の岩から染み出した小さな雫が


この大きな川の始まりなのだ


当然のことながら俺にも始まりがある


母親の胎内からオギャーと産み落とされた瞬間からなのか…


いやいや…本当はもっともっとずっと前


オヤジとオフクロが生まれた時や


もっとずっと先から俺が生まれる準備はされていたのに違いない


お爺ちゃんが戦争で若い頃に死んでいても俺はいないわけで


そう考えてみると面倒臭いのだが、きっとずっと前から


俺は俺であるために準備されてきたのに違いないのだ

 

 

 

 

お爺ちゃんの生まれる前から話を始めたのでは


この今の俺にたどり着くまでに何年、この日記を書かなければならないだろう…


なのでオギャーと生まれる前後辺りから書くのが相応しいのではないかと思う

 

 

 

 

1970年2月14日


岩手県のクソ田舎に俺は生まれた


竜宮城なら絵にも書けない美しさと歌われるのだが


俺の生まれた村には書ける物が何もないほど本当に何もない田舎だった


当時の村には産婦人科なんて物は無く


どこかの診療所みたいな場所で生まれたらしい


両親ともに22歳の時の長男として俺は生まれた


生まれた瞬間の話として

 

産婆さんが生まれたばかりの俺を抱っこして


『あ!!指が5本ついてるわよ~~』と、ジョークで言ったらしいが


モウロウとしているオフクロは理解できずに気を失いかけたと


一緒に酒を飲む度に自慢げにオフクロが語るネタの一つだ

 

 



気性の荒いお爺ちゃん


マイナス思考のお婆ちゃん


ヤクザの鉄砲玉みたいなオヤジ


背の小さいオフクロ


オヤジの弟のヨシヒロおじちゃん


この5人が暮らす家に俺が加わった


さぞかし盛り上がった出来事だったのだろうなと想像できるのが可笑しい


ずっと女の子が生まれてくるのだと信じて


自己暗示もテレパシーも使ってお腹の中に願いを届けていたオフクロ


しかしどうやら胎内は圏外だったらしく俺は股間に可愛い物をぶら下げて出てきた


…きっとガッカリしただろうに


そのせいか、俺の名前を付けるのはお爺ちゃんになった


喧嘩好き

 

争いごとが大好き

 

血生臭いことめっちゃLOVEなお爺ちゃんは


いかにも男らしい名前を付けてくれた


いや…付けやがった

 

本名を晒すのは抵抗があるので


ツヨシという仮名にしておこうか…

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで俺は生まれてきた


第一回目はこんな所でやめておこう