たいていの物事には始まりがある


俺の町を流れる大きな川の『北上川』にも始まりがあって


ずっとこの川を上っていった山奥の奥の岩から染み出した小さな雫が


この大きな川の始まりなのだ


当然のことながら俺にも始まりがある


母親の胎内からオギャーと産み落とされた瞬間からなのか…


いやいや…本当はもっともっとずっと前


オヤジとオフクロが生まれた時や


もっとずっと先から俺が生まれる準備はされていたのに違いない


お爺ちゃんが戦争で若い頃に死んでいても俺はいないわけで


そう考えてみると面倒臭いのだが、きっとずっと前から


俺は俺であるために準備されてきたのに違いないのだ

 

 

 

 

お爺ちゃんの生まれる前から話を始めたのでは


この今の俺にたどり着くまでに何年、この日記を書かなければならないだろう…


なのでオギャーと生まれる前後辺りから書くのが相応しいのではないかと思う

 

 

 

 

1970年2月14日


岩手県のクソ田舎に俺は生まれた


竜宮城なら絵にも書けない美しさと歌われるのだが


俺の生まれた村には書ける物が何もないほど本当に何もない田舎だった


当時の村には産婦人科なんて物は無く


どこかの診療所みたいな場所で生まれたらしい


両親ともに22歳の時の長男として俺は生まれた


生まれた瞬間の話として

 

産婆さんが生まれたばかりの俺を抱っこして


『あ!!指が5本ついてるわよ~~』と、ジョークで言ったらしいが


モウロウとしているオフクロは理解できずに気を失いかけたと


一緒に酒を飲む度に自慢げにオフクロが語るネタの一つだ

 

 



気性の荒いお爺ちゃん


マイナス思考のお婆ちゃん


ヤクザの鉄砲玉みたいなオヤジ


背の小さいオフクロ


オヤジの弟のヨシヒロおじちゃん


この5人が暮らす家に俺が加わった


さぞかし盛り上がった出来事だったのだろうなと想像できるのが可笑しい


ずっと女の子が生まれてくるのだと信じて


自己暗示もテレパシーも使ってお腹の中に願いを届けていたオフクロ


しかしどうやら胎内は圏外だったらしく俺は股間に可愛い物をぶら下げて出てきた


…きっとガッカリしただろうに


そのせいか、俺の名前を付けるのはお爺ちゃんになった


喧嘩好き

 

争いごとが大好き

 

血生臭いことめっちゃLOVEなお爺ちゃんは


いかにも男らしい名前を付けてくれた


いや…付けやがった

 

本名を晒すのは抵抗があるので


ツヨシという仮名にしておこうか…

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで俺は生まれてきた


第一回目はこんな所でやめておこう