1時間の休憩。
備え付けのベッドで横になる。
不特定多数の人間がそのベッドで横になる
横になっているはずだ
実際に目の前で横になっていたとか、そこで横になっていた人間がいるという話を聞いたわけではない。
けれども枕カバーについた”たしかに人間がいたという痕跡”がそれを物語っていた。
最初の10分をコンビニのざるそばをかきこむことに充てたのと、仕事場へ戻る段取りの時間を差し引き正味45分程度。
夜の45分と、この時間の45分とでは、同じ45分でも話が違ってくる。
それは同じ体積でもアルミニウムより金のほうが重いとか、それくらい原理的に質量として違う。
この間、確かにいびきをかいて寝た。
むさぼるような、幸福のいびき。
僕はその最中、快楽をむさぼり、貴重な休憩時間の一部をむさぼり、ありあわせのベッドの感触をむさぼった。
時折自分のだらしないいびきと共に目が覚めた。
いびきのせいで目が覚めたのか、
目が覚めたからいびきが聞こえたのかの中間くらいの、淡くうつろな覚醒。
そして、意識がいくつものレイヤーによって構成されているのだとすれば、表層から何枚も剥いで剥いで剥いだ先にいある、ある感覚。肯定的な感覚があった。
それは眠りの尻尾をついに掴みとったという達成感。
たしかに自分の手で、掴み取りに行ったという歓び。
エアコンで気温を調整し、耳障りな換気扇を止めて、誰が使ったのか分からない枕ににおいと汚れを抑えるための愛用のタオルを巻き、自分だけの世界をこしらえたこのベッド。
ベッドメイキングと言うにはホテルマンにバカにされ兼ねないお粗末なセッティングだったかもしれないが、それでもこしらえたこの世界にたったひとつしかない空間。
そして何より体を横たえて目を瞑り、そしてその状態をあらゆる欲望を禁止ないし静止して「寝る」というたった一つのミッションに、文字通り「一所懸命」にコミットしつくした渾身の努力。その結果として天から降り注がれんこの歓びよ。
睡眠というオアシス。
僕たちは、このこと一つとっても、世界中の何よりも幸福な存在だと言って構わない…のか…。