財務省の資料を検証して1 | 秋山のブログ

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MMTに批判的な財務省の資料(わが国財政の現状等について)があったので、この2週間程検証していた。ところが62ページにもわたるほとんどのページに関し考察したため、非常に長くてとても読んでいられないものになってしまったのである。そこでこの際バッサリと伝えるべき部分だけ取り上げて書き直すこととした。何回かに分けて書こうと思う。

 

この資料の目的は、財政均衡がいかに必要であるかプロパガンダをおこなうためのものである。そこに書いてあることは、用語の説明や、単なる歴史的経緯の部分を除けば詭弁に溢れており、ほぼ全てのページにおいて騙して誘導する意図をみることができる。データの都合のいい部分を切り取って主張したり、権威があると一般的には思われているものの主張を並べてみたり、不適切なレッテル貼りをしたりすることも平気でおこなわれている。データの評価や、詭弁を見破る能力に自信があるのであれば、クイズでもやるつもりで読んでみるのもいいかもしれない。

 

資料は以下のような形になっている。

P1 総論

P2~8 財政の推移:日本の債務が大きいことを印象付ける目的

P9~12 国の資産状況:資産を考えると債務が問題ないとする意見に対する反論だが、単なる屁理屈

P13 統合政府論の説明:反論のような体裁をとっているが単なる説明以上のものではない

P14~16 海外投資家と国債:債務増大を嫌う海外投資家の影響を過大にみせる印象操作

P17 公債依存の問題点:全てが間違いであるプロパガンダ

P18~22 財政健全化目標と財政収支の推移:単なる推移の説明

P23~27 成長率と金利とプライマリーバランス:成長ではなくPBの改善を推奨するためのプロパガンダ

P28 公共投資の動向:公共投資を増やすことに反対するプロパガンダ

P29 財政支出の推移の国際比較:他国と違いがないとするプロパガンダ

P30 財政に関する試算:消費税の悪影響による景気低迷予想を隠匿

P31~33 日本の経済成長:政策の失敗による経済成長の抑制を隠匿するプロパガンダ

P34~35 財政の今後の見通し:利払い費に関してプロパガンダあり

P36~37 物価上昇と財政健全化の関係:物価上昇では財政は健全化しないというプロパガンダ

P38~41 日独のハイパーインフレ:ハイパーインフレの悲惨さと当時と同じかのような印象操作

P42 FTPLの説明:理論を否定するための印象操作(もともとの理論も誤り)

P43~56 海外の事例:財政危機に陥ると大変なことを印象付けるためのプロパガンダ

P57~60 MMTについて:反対意見を述べている著名人の羅列

P61~62 財政再建と成長の両立例としてのドイツ:EUを利用した近隣窮乏化の成果

 

今回は『総論』(P1)と『公債依存の問題点』(P17)を取り上げてみよう。

それは最初の一行目から欺瞞にみちている。引用してみよう。

『振り返れば、平成時代の財政は、長年の懸案とされていた消費税の導入の実現とともに始まった。平成に入って実質的に最初の編成となった平成2年度(1990年度)予算では、15年もの歳月と多大な歳出削減努力を経て、特例公債からの脱却が達成された。』(P1)

平成という時代を総括するのであれば、以下のように修正すべきであろう。

「振り返れば、平成時代の財政は、消費税の導入という悪夢で始まった。多大な歳出削減をおこない、する必要もない特例公債からの脱却を図るなど、マクロ経済を意識しない近視眼的な財政方針が、景気を著しく悪化させ、国民を困窮させ、財政赤字を逆に増大させるというとんでもない状況に陥らせた。」

 

この資料の最大の誤りは、お金を使えば無くなってしまう資源のように考えていることである。そのため現在いろいろなものに使われた未来何も使えるものがなくなってしまったといったイラスト(P17)が書かれている。しかしお金は借り入れによってのみ発生する経済のための道具であり、もともと一定の量が存在する資源などでは決してない(資源と表現するのは誤り、もちろん『共有地』と見なすこともナンセンス)。すなわち今使いすぎたからといって将来使えなくなるなどということは決してないのである。社会全体のお金の量が負債の量と常に一致することからも、それは証明可能な事実だ。『厳しい状況を後世に押し付ける格好になっている』とか、『将来の世代はツケを負わされ』とか、『財政資源は枯渇してしまう』とかは、全くありえない。今後いつの時代であれ、政府債務残高がどのくらいあろうが、債務残高とは全く関係なく経済を見ながら適切な税金を徴収し、政府の事業に関して支払いをおこなえばよいだけのことである。国の経済に関する仕事は経済の調整であって、家計のように生活を営んでいるわけではなく、清算する必要はないのである。政府にとってはする必要のない返済や均衡化をおこなうことは、今の世代も将来の世代も不幸にする愚行だ。『先人たちや、新たな時代そして更にその先の時代の子供達に、』申し開きできないのは、財政均衡に拘って、経済の成長を抑制し、現在の国民に苦痛を与え、先人が築き上げた日本を衰退させ、技術の進歩を妨げ、将来のためのインフラ整備等もおこなわせなかった、平成の財務官僚とそれに手を貸す御用学者である。

 

財政拡大を求める声に対して、『フリーライダーの圧力』(P1、P17)などという表現を用いていることは、糾弾されてしかるべきだろう。それはレッテル貼りという幼稚な詭弁を弄したことが一つであり、もう一つはフリーライダーなどという話が全く見当外れであるということだ。財政政策は不景気であれば当然のおこなうべきものであることは言うまでもない。また、ほとんどの国民は決して低くない税や社会保険料を支払う義務を果たしているのであるから、国が供給すべきものを供給するように要求するのも当然のことだ。それをタダ乗り扱いするのは、法律で裁かれるレベルの侮辱であろう。『受益と負担の均衡を図ることが』税財政運営の要諦だなどという主張は一見もっともらしい。しかし収入と支出の均衡とそれは別のものである。現在の日本において財政を均衡させれば(返済や利払が全く無かったとしても)、受益と負担は均衡しない。『フリーライダーの圧力』に晒されて、その圧力に負けて政府債務が拡大したかのようなもの言いをしているが、新自由主義に騙されて法人税減税、消費税増税等々、上げればきりがない程の失策を繰り返した結果が、失われた30年と政府債務の拡大である。ほとんどの国民において、以前に比べて生活のための費用が上がっていながら、収入が低迷し、さらに税の負担も大きくなっている状況をして、どこがフリーライダーの圧力なのだろうか(科学や技術の進歩により時代が進むにつれ以前より楽で豊かな生活がおくれるようになっているはずにも関わらず)。

 

財政資源の枯渇などあり得ない話であるが、根拠があるかのように問題点として説明されている。『国債費(元本償還費と利払費の合計)が歳出に占める割合が高まり、他の政策的な支出への予算配分の自由度を狭める』(P17)とか、『必要性が高い政策の実現を妨げるとともに、機動的・弾力的な財政運営の手をも縛る』(P17)などと書いているが、これは財政を均衡させなくてはいけないと考えるから起こることであり、そのなものは無視すればいいだけなので、何の根拠にもならない。ましてや例えば地震などの突発的な事象に対して、機動的な運営が必要であるにも関わらず財政均衡を優先するような官僚や政治家がいるとするならば、さっさとクビにするのがよいだろう。ここの部分は、ちょっと難しい表現を使えば、詳しくない人なら騙されると思っているのかもしれない。国債保有者はよいが、そうでない層に関しては、増税等の負担増のみもとめられて『望ましくない再分配を起こす可能性』があるなどという話は、増税等が将来必要になることもありえないということだけでなく、富の再分配こそ税の役割であるという原則を理解できておらず、話にならない誤りである。

 

それから公債依存の問題として『将来世代は抱えるリスクが増大』(P17)としてあげている内容は、将来世代の話ではなくて、財政支出によって起こるとされている仮説を並べているだけである。そしてこれらは全て考慮に値しない間違った理論(財政政策に反対するために主流派経済学者が主張した屁理屈)である。全くエビデンスはなく、エビデンスによりむしろ否定されているもの(『クラウディングアウト』『非ケインズ効果』『財政への信認低下による金利上昇』)、および単なるトートロジー(『中央銀行の信認の低下』)である。