講演ネタ インフレの起き方 | 秋山のブログ

秋山のブログ

ブログの説明を入力します。

今回はインフレがどのようにして起こるか説明します。
それでは先ずミクロの視点で、モノの価格がどのようにして決まるか考えてみましょう。
需要と供給のバランスによって決まるというのが新古典派経済学における答えです。しかしこれは正解ではありません。需要や供給の変化によって価格に変動する圧力がかかるのはその通りですが、それは価格形成の一部しか捉えていないのです。需要と供給のみによって価格が決まるのは、情報と参加者の主観のみによって価格が決まる為替や株式などの債券市場だけです。他の生産物や労働の市場に関しても同じように成り立つはずというのは信仰に過ぎず、現実を観察すれば一致しません。
経済学においては古来より、モノを生産するコストが価格形成に重要であるという考えがあり、独占性などの要素によって決まる利潤を上乗せしたものが価格となるという理論もあります。こちらも一部を捉えたものですが、需給バランスによるとするよりも現実により近いでしょう。
この理論から考えてみれば、コストの増大となる原料費の上昇がモノの価格上昇の原因となることが分かるでしょう。例えば原油価格の上昇などはそうですね。また、モノの買い占めなど、競争が働かなくなっている状態もモノの価格を押し上げます。供給力不足に関しても、その状態は作れば売れるので、価格競争で安く売る必要はなくなります。
モノを買う側の視点も重要です。価格が上昇したモノを買うためには、他のものを我慢するか、収入が増えるかしなくてはいけません。収入が下がったりすれば、モノの価格に対する下降圧力になりますし、現状維持でも価格上昇に待ったがかかるでしょう。
さて、次は経済全体を俯瞰するマクロの視点で考えてみましょう。
 
観察される現象として、マネーストックが増加とその2年後の物価の上昇がよく相関していたことが知られています。マネーストックが先行するので、マネーストックの変化が物価上昇の原因であると考えた人もいましたが、それは単純すぎる考えです。モノを買う主体は消費者であり、銀行からの貸し出しが増え、お金が増えることによって初めてより多く支払うことが可能になるわけですから、マネーストックの増加は物価が上がるための要素と考えるべきでしょう。実際、物価の上昇率と賃金の上昇率もよく相関し、同じような動きが観察されます。
これが分かると、過去におこった各国のハイパーインフレや、スタグフレーション等々、説明困難な状況が全て説明できますし、それらから様々な知見も得ることができます。
日本の終戦後のハイパーインフレを説明してみれば、当時戦時中に国が借り入れによって民間企業に支払った莫大な金融資産を、国民や企業が持っていました。また、銀行による貸し出しも積極的におこなわれ、信用創造でマネーストックはどんどん増大していきました。そこに著しい供給力不足があり、物価はあがっていったのです。大量の金融資産の流入と信用創造によってモノを買うためのお金の量は莫大に増加し、そこでモノの取り合いが起こったのですからハイパーインフレに当然なるでしょう。
途上国のハイパーインフレにおいては、物価の上昇に合わせて公務員の給与の引き上げがおこなわれた例もあります。逆にペルーのハイパーインフレ対策においては、治安回復により供給力の増大を図ったことや、輸入による供給増が効果を発揮しました。
逆にハイパーインフレなど早々おきないことも分かるでしょう。借り入れの増加程は物価は上昇しません。また、借り入れが増えて消費者の収入が増えても、買いたいものがあまりない状況だったり、十分にモノを供給できる状況であれば、それは債券購入や貯蓄にまわるだけで、モノの価格を上げません。
米国のスタグフレーションでは、原油価格の高騰によって、貨幣の循環からの外国へのお金の流出と、原油に関連する生産物のコストの増大が同時におこったために、不況がおこっています。まず物価が上昇しましたが、それに見合った経済活動を支えるだけのお金が貨幣の循環になかったためと考えられます。
このことから分かることは、原油価格の上昇や独占などの要因に基づく強制的なインフレがおこって、貨幣量の増加や、消費者の収入の増加がおこらなければ、経済が十分に機能するためのお金が足りなくなり、不景気になるということです。すなわちどのような形でおこったインフレなのか区別することは重要です。そして、このような状況の時に金利を上げてインフレを抑えることが、いかに愚かが分かるでしょう。
ポイントをまとめてみますね。
 
◆ポイント
  • 銀行からの貸し出しが増えることで、人々の収入が上がり、物価が上がる余地が生まれます。
  • 実体経済において循環している貨幣の量の範囲でしか大凡物価は上がりません。
  • 金利が上がるなど、貨幣の循環からお金が失われれば物価上昇は抑制されます。
  • 市場における競争が働いている状況は、物価の上昇を妨げます。
  • 収入が増えても買いたいものがなければ、余ったお金は預金になったり債券市場に移行します。
  • 国の外部の要因や、独占、買い占めなど市場機能を逸脱した価格の上昇もあります。
  • 物価が上がることで、相対的に実体経済に必要な循環している貨幣の量が足りなくなれば、不況が起きます。
  • 物価上昇の機序は様々あるので、しっかり区別をつけて考えることが重要です。