小ネタ コレステロールの罠 | 秋山のブログ

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またニュース女子から小ネタ。前回、物理学者の武田邦彦氏を取り上げた。武田氏の何に関してもまず疑ってかかり、自分で考えてみるというスタンスは、学問を志す者にとって必要なことであり、共感できる(権威者の意見や多数意見が重要でないということも正しい)。ただ、氏は思い込みが激しいように思われ、時に間違いもおこしている。

 

氏の誤りの一つが、コレステロール値を低くすると癌になるというものだ。氏の主張の根拠は、コレステロールの値が最も低いグループで死亡率が高い。そして低いグループで癌や脳血管障害による死亡が多いということである。実は、癌はともかくとして、低すぎるコレステロール値が死亡率を上げると大真面目に主張した医大助教授も10年以上前にいた。しかしこの話が市民権を得ていないのは、既に解決済みの話だからである。

理由は簡単だ。低いコレステロール値は、肝硬変や吸収障害、その他特別に悪い状態の結果であり、そのグループの死亡率が高いのもそのような状態によるものである。一方、高いコレステロールは、動脈硬化によって死亡率を増加させる。証明は簡単で、ストロングスタチンを呼ばれる類の薬は極端にコレステロールを低下させる。当然動脈硬化を減らすので大きく死亡率を低下させる。しかし癌を含めたその他の死亡が増えるかと言えば、それは全く増加させない。多くの場合で正常下限値より下がるのにである。

 

この話を出したのは、医学の話をするためではない。経済学の問題をより明確にするためである。そのこころは、何らかの要素を比較する上では、その構造を検証することが必須であるということだ。一番適当な例がインフレと失業率の関係である。本来の観察されたフィリップス曲線は賃金上昇率と失業率の関係であり、失業率が低い状況が賃金の上昇圧力になるという構造は容易に理解できるであろうし、実証も可能であろう。一方、インフレ率と失業率はデータを取れば関係は見て取れるが、賃金上昇率のような直接的な因果関係は明確ではない。それに対して直接的な関係があるように説明するために、実証不能な貨幣錯覚を持ちだして、これまたマクロでは現実と一致しない賃金低下による失業率の改善で説明しているのは、愚かとしかいいようがない。低いコレステロールと癌の発生を無理やり結びつけているのと同じパターンである。