財政赤字と医療費 | 秋山のブログ

秋山のブログ

ブログの説明を入力します。

「スタンフォード大学で一番人気の経済学入門マクロ編」から。

同じような話で恐縮だが、とりあえず全章完遂させていただきたい。

 

第10章も第8章と同じ財政赤字の話である。

相変わらず恒等式の誤謬だ。P124『財政赤字がふくらんで政府の借り入れ額が大きくなれば、残る3つのうち、少なくとも1つはかならず変化します。つまり、「貯蓄率が上がる」か、「民間の設備投資が減る」か、あるいは「海外からの資本流入が増える」(すなわち、経常赤字が拡大する)ということ』などと書いているが、マクロにおいては貯蓄は常に、財政赤字と設備投資と経常赤字によって決定される(それがなければ国民の貯蓄はゼロサムである)ものである。財政赤字と設備投資に負の相関がある時期の例を持って、クラウディングアウトの理論が正しいなどとも主張しているが、不況で需要不足の状態にあれば、当然税収が少なくなっている上に、財政政策もおこなうであろうし、設備投資も少ないというのが、正しい理由だろう。クラウディングアウトはゴミ理論である。現実には財政政策で赤字を拡大すれば、その後設備投資が増える。

財政赤字によって貯蓄が増えることを筆者は、リチャードの等価定理を出して否定している。リチャードの等価定理は、P124『財政赤字が増えると、人びとは貯蓄に励むはず』だからというものであるが、この理屈はもちろんナンセンスである。人びとの努力は貯蓄に関してマクロ的には何の意味も持たない(P134に貯蓄のインセンティブを上げようとした話がでているが、上手くいかなかったのは当然である。義務化も何の効果も出ない)。しかし、設備投資や経常収支がどう動くか一定ではないので、綺麗に財政赤字の変化と貯蓄の変化が一致するわけではないが、ある程度は一致する。それに対して筆者は、たまたまの一致だと主張している。ひどい判断だ。

経常赤字と財政赤字に関しても、一致しない明確な例をあげながら、P128『明らかに結びついて』いるなどと決めつけた上で、P128『つねに歩調を合わせるわけではない』などと書いている。結びついている根拠は希薄または存在しないとするのが、科学的な思考の素養がある人間にとっては当然の判断だ。

 

日本において財務省官僚がとにかく財政赤字を問題視する背景には、この現実とは真逆とも言えるような考えの影響があるかもしれない。

 

さらにこの章で全く聞き捨てならないのは、財政赤字の最大の要因が医療費や社会保障費にあるという件だ。

需要が飽和に達し、次の分野に需要を探しにいくという経済が発達するメカニズムを考えれば、医療というのは産業として都合のよい受け皿である。医療費が増大した分、国民の収入も増大し、GDPも増加する(お金は循環するので、本来は何の問題も起きない)。これが政府の財政とは関係のない話であれば、まさに成長産業であろう(関係があっても本当は正しい)。これを主流派経済学者や財務官僚が目の敵にするのは、国が関与する構造になっており、財政赤字のもとになりうるからである。

医療は、搾取された所得の再分配先として最も相応しいものの一つだろう。この数十年の経過を見れば、日本でも米国でも搾取の度合いが強まって、米国なら資産家、日本なら内部留保を貯めた企業など、搾取しているところから取り上げてこなければ、十分に利用することができないようになっている。ところがトリクルダウンなどと馬鹿げたことを言って取り上げるのを減らしてしまったり、インフレを抑制してそれらの資産が拡大するのを助けたり(インフレ税による取り上げの抑制)しているわけだから、赤字が拡大するのは当然のことだ。

日本の財務省の場合がさらに愚かなのは、この費用を消費税のような下から取る税によって賄おうとしたことである。医療そして経済を破壊するだけで、解決するワケがない。間違ったところから取るのも、金額を減らしたり支払いを抑えたりする(質や生産量が上がったのならば、総額は増えなくてはいけない)のも、強力な反成長戦略である。