投機的市場への貨幣の流出 | 秋山のブログ

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経済に関する文書を読んでいると、自分の本来の分野(医学)で五月蝿く言われている利益相反の明示に関して実に甘いと感じることがある。どういうことかといえば、例えば製薬会社から支援を受けている学者ならその製薬会社の有利になるような発表をする可能性は高まるだろう。だから支援を受けているという状況等を明示して、その点に関して読み手に注意を促すことは重要である。読み手も十分意識して読まなくてはいけない。私の場合を例にとれば、私が医療費増額を主張したら、そこの部分に関しては、通常より何倍も慎重に是非を検討する必要があることになるといったことだ。
経済学の問題な点は、その論文等の発表が直接政策等を変化させるためにおこなわれるということだ。学問を発達させ、間接的にその効果を発揮するわけではない。それゆえか利益相反への興味は低く、モデルの現実との一致も実証されることの重要性もないがしろにされているように思える。証券会社に勤めだした途端に意見を変えた経済学者や、官公庁の御用学者など、同じことを自然科学分野でやれば非難の的となって日の目を見ることは二度とないだろう。実際医学では、地位を失った例はいくらもある。

前置きが長くなったが、証券や株式に関して経済学の教科書にその実態を説明する項目は、あまり見かけない。「ざっと学べる本」にもそんな項目はない。しかし経済の循環において貨幣だけ考えていれば片手落ちなのである。また、性質がかなり違うものであり、貨幣の知識をそのまま流用するのは間違いのもとである。そこには証券等を扱って商売している人間による悪意があるように思える。例えば、配当や金利(マクロ又は平均又は基準)が高いことによって、経済において何かいいことがあるかのような、もしくは低くするとなにか害があるかのような話がばらまかれているが、しっかり検討してみれば正しいと思われる話はない。私が検討した限りにおいてはただの一つもである。

貨幣は、生産と消費のループを繋ぐ有益な道具である。古代より借りたり返したりを繰り返し、循環しながら実体経済を支えてきた。この循環とは別の流れが投機の市場だ。この別の流れの作用を理解しなくては、経済の理解は完成しないだろう。

日本は、長い不況の状態にあります。この不況の原因は、復習になりますが、実体経済の貨幣の循環が上手くいっていないからです。消費者の収入が縮小する傾向にあれば、生産能力があっても消費意欲があっても購入できるモノの量は減ってしまいます。その結果当然、最大限モノを供給する必要がなくなるので失業も増えるでしょう。
消費者によって支払われた貨幣は、賃金等の形で消費者に払い出されますが、その一部が循環から外れ仕舞い込まれます。それは企業がタンス預金をするわけではありません。その行き先は、(新規発行でない)株や証券、先物、為替等の投機的市場です。これらの市場に流入した貨幣は、実体経済から離れて循環します。もちろんこの循環から戻ってく貨幣もありますが、昨今そのバランスが大きく狂っています。それはピケティがデータにより証明した通りです。
これを改善するためには、当然投機的市場に対する理解が必要であるはずです。

株や債券の流通市場、先物市場や為替市場では、需要と供給のバランスによって価格が変動します。また、価格によって需要、供給は変化し、速やかに均衡します。しかしこの均衡によって決まる価格は、客観的な要素は低く、ケインズが嘗て美人コンテストと喩えたように、主観的な多数意見に支配されています。上がると考え買おうとする人が多ければ上がり、下がると考え売ろうとする人が多ければ下がるのですが、均衡する前に行動できた人が利益を得ることができます。つまりこの売り買いによって得られる利益は、全て別の誰かの損失によるものであり、市場でおこなわれているのは、多数決ゲーム且つゼロサムゲームということです。さらに理解しておかなければいけないことは、この市場での価格の変動はランダムなものでは決してなく、参加者が多くなれば安定するなどということもないということです。大きな価格変動こそ投機家の望むものであり、その変動の大きさによって小規模な参加者が破綻することが彼らにとって最も美味しい状況となります。




●投資と投機

投資と投機の違いを調べてみれば、保有期間の違いを主にしたスタンスの違いで説明していることが多いですが、どれだけ長期的に保有するのであっても、保有しているだけでは、経済に対して直接的なよい作用はありません。購入に関しても、銀行融資と同等のよい効果が期待できるのは、新規発行の時だけで、それ以外は所有者が変わるだけです。
ファンド等が優れた経営ノウハウを持っていて、それによって生産性の改善が図れるならば、投機筋と目されるものでも投資と表現してもよいかもしれません。もちろん単なる資産の切り売りや、減給リストラによるコストカット、独占寡占の発生による生産性の増加であるならば、マクロ経済の視点からはデメリットしかないので、注意する必要があるでしょう。
マクロ経済にとって有益なのは、事業をおこなうための新たな投資(所謂直接投資)であって、債権等を売り買いする投資ではありません。流通市場でおこなわれる投資は投機と表現する方が分類としてすっきりするように思われます。

●株価の上昇

株価の上昇に関して、間違った理解が常識化しています。株価の上昇が景気の上昇を意味するという話や株価が上昇すると景気が上昇するという話がありますが、どちらも誤りです。
まず、個々の会社の株価の上昇と、株価全体の上昇を混同してはいけないことを理解しなくてはいけません。個々の会社の場合は、当然業績に対応して(これも主観的なものです)、株価が上昇します。しかし株価全体の動きは、より有利な市場への貨幣の移動によるものです。
株価の上昇は、担保価値を上げたり、証券等を新規発行する際の期待度を高めたりすることによって、新規の融資等を有利にする作用はあります。しかしその効果は、金利の低下よりさらに微々たるものです。実体経済の循環から貨幣が失われるデメリットを打ち消すほどの作用はありません。
また、貨幣の流入によっておこった株価の上昇は、貨幣の流出によって速やかに元に戻る性質のもので、本質的な価値が上がったわけではありません。その辺りも、間違って理解されていることであると思われます。

●為替

為替を決定する要因として、購買力平価やその国の実質金利、経常利益等があげられています。確かにデータ上相関がないわけではありませんが、それらによって決定されていると考えるのは誤りです。実貿易で作られてきた為替を基準として、金利等の情報に基づき多数決ゲームをしているということに過ぎません。すなわち決められた為替は全く主観的なものです。