岩本康志氏の持論 | 秋山のブログ

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参照基準に関して批判的な内容を書いてきたが、氏がメインで書かれた参照基準最終版は、読み通してみればよいことも多々言っており、当初持っていた先入観と比べて評価はかなり高い。それでは何に引っかかったかと言えば、実は氏のブログは数年前から何回か読んでおり、その当時からおかしいと思っていた考えが、そっくりそのまま参照基準に書かれていたことである。どうもこれは氏の持論のようだ。引用する。
経済学と経済教育の未来P283
『経済学で数学を利用する一つの理由は,思考の時間を節約することにある。(中略)言葉やグラフを適切に使うことで,数学を使わないでも同じことができるが,数学を使えば,それらを精密にかつ効率的に行うことが可能になる。』
複雑性が高い経済を対象にしていて、数学を用いることで精密にも効率的にもおこなうことはできない。できると思っているのは、数学のいろはが分っていないからである。
小学校の算数でも、それより後のどの時期の数学でもいい。テストを受けていた時を思い返してみればいい。いくつも式を作る、文章を式に変換する際に、たくさんの式、過程のうちのどこかたった一つでも誤りがあれば、正解にならないのは当然のことだろう。
こんなことを書くと、経済学では誤差を含んだ測定値しか出ない、しかしそれは物理などでも(その大きさは大きくなくても)同じであるといった反論があるかもしれない。しかしそれは単純すぎるものの見方である。物理では計算の過程で、誤差が意識されている。最低でも誤差がどのように影響するかチェックもされるだろう。例えば法則の連結(コメント欄も参照)の際も、測定誤差は結果を左右するものとして意識するのは当然のことだ。もちろん経済学でもこれをきちんとおこなえば、より真実に近づくだろう。しかしそれは、誤差の大きな経済学では大きな時間と労力を必要とすることとなる(多くの場合無視され実行されていない)。そしてまたそれは、数学を使ったからと言って精密ではないということを強く意識させることになるだろう。つまりは精密にかつ効果的に行うことが可能になったりはしないのだ。
どうしてこのような勘違いが生れたかを考えてみれば、数学を得意としない学生にとって数学は暗記科目である。数学の公式は、その発見にチャレンジしたり発見した誰かの体験を追体験したりするものではなく、信じて覚えて代入するだけの代物である(それでもセンター試験程度なら満点も容易だろう)。だから美しい公式を使った数式をたてただけで、答えを出せた気になってしまうのだろう。その公式の意味を理解していないから、例えばマンキューのように経済学上の利潤がオイラーの定理で導かれるなどという間違ったことを言い出すのだ。

実際に氏が以前おこなった考察のハイパーインフレーションの理論を例にしてみよう。

氏はマネタリーベースをGDPで割ったものを微分し、右辺に分数の微分の公式による結果を置いている。この数式自体は誤りではないが、オイラーの定理同様、そもそも現実の何かを証明するために用いることはできない。(例えるなら、A+B=B+Aを変形して、何かを求めようとしているようなものだ)

さてその式において、ハイパーインフレでは実質成長率は無視できるとしているが、これは簡単に言えることではない。例えばax+y=zという式があったとする。aが1,00000001であってもこれを簡単に1としてはいけない。他の条件等でx=-yであったとしたら確実に間違った答えが出るだろう(もちろん1にして正しい答えが出ることもある)。そもそも分数の微分の公式は極小の変化を考える時に成立する公式なのである。実に安直である。(ついでに言えば、結論を出すために、結論を前提にするのもどうかしているだろう)

『市場の信用をなくすくらいなので,この国の財政赤字は将来も持続するものとする。つまり,dはずっと一定の値をとるものと考えよう(ここは大事な想定)。』とある。まず将来持続するということには、十分な根拠はない。国の吐き出したお金を得た人間は、必ず収入を増加させるので必ずより多く税金を支払う。どの層にどのような税金が課せられ、どの層にどの程度お金がまわっていくかで左右される話であって、市場が信用しなければ国が新たに吐き出したお金を税金で戻さなくていいなどということはない。

『政府の実質債務(かつマネタリーベースの実質残高)の増加は,財政赤字からインフレ税(πm)を引いた額になる。』マネタリーベースの実質残高は、政府の実質債務とイコールでは全くない。

その次に貨幣需要関数が出てくるが、インフレ率の上昇で貨幣の流通速度が上がるという説明のもとに、マネタリーベースがインフレ率から求められる式が出てきて代入される。インフレ率と流通速度の間に、安定した関係もなければ、マネタリーベースとインフレ率の間にも強い相関はない。しかしインフレ率でマネタリーベースが規定される、及び、逆も真であるという話が既成事実化されているのである。

滅茶苦茶以外の何ものでもないことは理解できただろうか。たった一つでもやったらアウトの間違いを、これでもかと言わんばかりに繰り返しているのである。しかしおそらくは、数学があまり得意でない人間であれば、間違っていないかのように思えてしまうかもしれない(かえって難解になって、正しいかどうか判断できなくなる場合の方が多いかもしれない)。氏自身も、間違っている自覚もないのかもしれない。相当な思考が必要なところで、思考が節約できるなどと言っているのだから。

数学が苦手な学生が経済学部に多いことも、参照基準には記述されている。しかし、日本有数の大学の教授をしてこのような状況では話にならないだろう。学生は教授がやっていることを見て、それをやってよいものだと思い込む。大いに改善が必要であろう。