企業減税で国民に恩恵はない(日本の場合) | 秋山のブログ

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二重課税に関していろいろ拾い読みしていたら、日経の記事「企業減税、国民に広く恩恵」という記事を絶賛しているブログを見つけた。はっきり言って間違い以外の何ものでもない。しかし折角見つけたものなので、どうしてこのような間違いを犯すのか検討してみることにした。

引用する。
『経済成長の理論によれば、長期的な成長を決める要因は生産性(全要素生産性)と資本と労働である。生産性を向上させ、資本と労働の量と質を高めれば、成長は高まる。したがって、成長政策は経済の供給サイドに働きかけるものでなければならない。』
目いっぱい供給がおこなわれておりしかも需要がそれに一致している状況から成長するために必要なことは、確かに資本と労働の量と質を高めることだ。しかし現時点では現実的に大きな需要不足であり、いつの時点であれ需要が供給に追いつく保証はない。過去を振り返れば需要が供給力に追いついている良好な時期は存在するわけで、だからと言ってそのような状況が通常であるわけでも、必然であるわけでもない。「長期的な」という言葉は、長期間観察すればそのような状況もあるということを、長期間では大方そうなるという風に勘違いしたものである。(現状でより必要なのは、需要を増やす、つまりGDPギャップを埋めることだろう)

また引用する。
『規制緩和が成長政策の中心となる』
単純に考えれば、規制が少ない方が企業は確かに動き易い。だからと言って緩和すればいいというものではない。例えば負の外部効果である公害。規制しない方が全体でみた場合はマイナスの方が大きい。規制を導入した方も、そういうことを考えて作ったわけだから、企業が動き易い程度の根拠で、規制緩和を持ち上げるのは間違いだ。

また引用する。
『日本の税構造は、他国と比べ法人税に依存する度合いが高い』
2つの意味で間違った考え方だ。先進国同士でも、利益の分配の構造は全く異なる。割合が2倍だから高いというのは、単に高いことをアピールするための意味のない主張だ(現時点では法人税率は米国の方が高いようだ。また、賃金を抑えて法人の利益を増やすほど所得税でなくて法人税の割合が増えるだろう。その場合は再分配の観点からもっと法人税率をあげるべきとなろう)。もう一つ、他国が皆やっているから正しいとは限らない。総論的な話ではなく具体的にも、例えば米国共和党がおしているトリクルダウンは害悪ばかりでよい効果は全く見られていない。間違ったことを真似してよいことなど何もないのである。

また引用する。
『法人税の減税は、①留保利益の増加を通じて企業の投資が増加する②税引き後利益の増加によって株式投資の魅力が増して増資が容易になり投資が増加する③投資増加で新しい資本設備が導入されて生産性が向上する、などの経路を通じて長期的な経済成長を高める』
留保利益が増加しようがしまいが、企業が投資を増やすということは生産を増やした分消費されるあてがあるということだ。株価の上昇によって担保能力が上がってより投資しやすくなるという話も、消費のあてがあってこその話だ。現状は内部留保したり、株価が上がらなくても十分な需要しかないのである。

引用。
『実証分析を見てみよう。1970~97年の70カ国のデータを』
いったいどんな計算をしてそんなことになるのか実際の論文を読んでみたいところであるが、この短い一文だけで(70ヶ国ということであるから)論文の結果が日本に当てはまらないことがわかる。途上国の場合は、先進国とは違って需要不足がないもしくは少なく、技術や設備の向上で生産性を格段に向上させる余地が大きい。ペルーの例で分かるように、途上国では大きな利権を海外資本に与える以上の恩恵があるが、米国の法人税減税ではそのような効果は発揮されなかった。日本でもしかりである。これは記事の後ろの方にかかれている日本や米国で法人税パラドックスが見られなかったことにも符合する。
(2008年OECDのイエンス・アーノルドの論文では、法人税増税が成長に悪影響で、消費税等は影響しないという話になっているようだ。これはそのうちカラクリを調べてみたい)

引用。
『高い法人税は低税率国への利益移転という点でも問題がある』
不届きな企業はそれなりに目に付くが、実際は法人税による移転は実証上それほどおこっていない。税を逃れるために企業が国を変えることは、元いた国に対しての敵対行為であり、何らかの便宜をはかる必要などないだろう。それを『節税』などと表現してはいけない。ましてやタックスヘイブンに関してはほぼ犯罪である。これに関してだけは日本は米国の最近の動きに全面協力すべきだろう。
高い税だと出ていき易いので下げるなどということも本末転倒である。

引用。
『マイケル・デベロー教授はOECD加盟20カ国の40年間のデータを分析した。その結果、これらの国で法人税率が低下した一方、法人税収のGDP比は増加』
途上国に関しては法人税の減税が成長に結びつく場合もあるが、昨今全世界でおこってきたことは、労働者の賃金の低下である。それを法人の利益にまわせば成長とは関係なく法人税収は増えるだろう。論文を検討しなければ明言はできないが、そんなところだと思われる。

引用。
『法人税減税で大企業や裕福な個人株主を優遇し、一方で社会保障経費の削減、消費税増税で一般庶民を苦しめるのはおかしいという議論があろう。しかし法人税減税で成長が高まれば、社会保障制度の持続可能性が高まる』
成長が高まって一般庶民に恩恵があるというのであれば、それは苦しめる以上の恩恵でなければ意味がない。つまり、マイナスの方が明らかに大きいにもかかわらず、プラスもある(日本の場合それ自体もあやしい)ということを持ってプラスだと言い張っているのだ。

どうしてこの谷内満氏は、私の今回書いたことに気付かないのだろうか。米国や日本では成長にあまり結びつかなかったということも知っている。少し考えれば法人税減税をおこなった70ヶ国と何が違うのか容易にあげることもできるはずだ。
結局、氏の経済学は、メカニズムを解き明かして現実に役立てる類のものではなく、政治家や官僚が打ち出した政策を、それがいいものであるかのように(それが真実であるか嘘であるかを問わず)国民に説明するためだけのものなのだろう。
ポイントを引用する。
『 ・実証分析は法人税減税の成長促進効果を示唆
・高い法人税は低税率国への利益移転も生む
・法人税減税による税収増に過大な期待は禁物 』
法人税減税の成長促進作用の根拠はそれほど強固ではない。日本や米国ではそうならなかった事実もあり、何故ならないかも分っている。
低税率国への利益移転は、国々が協力し合って殲滅すべきことである。
法人税減税による税収増は、日本の場合は過大な期待どころか期待自体すべきではない。また、法人税減税による税収増に期待できないくらいなら、国民に恩恵は乏しい。