たまたま帰宅したような気がしていましたが、ずいぶん病状は切迫していたんですね。医者が目を離せない状況なのに、「一晩家の布団で寝たい。そして、弟子達の落語会を見届けたい。」という師匠の強い希望で、帰宅が実現したという菊江さんの話に、寝床で飲んでいた磯七さんや熊五郎さん、咲さんも、うつむいて涙をこらえています。
自宅で寝ている師匠の部屋に、そっと入ってくる小草若さん。だいぶ窮屈そうですが、やっぱり言葉より、寄り添った体のぬくもりだけで、気持ちが伝わる事もあるんですね。ここまできて、やっと素直になれた2人は、何を思って一晩過ごしたんだろうと思うだけで、観ている方も、あれこれ頭の中にいろんなことが浮かんでは消えていきます。
そして、落語会の朝、糸子さんに火打石を打ってもらいながら、弟子達がひとりずつ師匠と目であいさつしながら出かけていく様子のなんともいえない雰囲気。重苦しいような空気を、喜代美ちゃんがにっこり笑ってちょこんとおじきをしてなごませてくれました。
小浜では、正平くんと正典さんと小梅さんが茶の間で話しています。「そういえば、きょうが落語会だったね。」喜代美ちゃんが創作落語は自信作と言っていたという話をした後、小梅さんは、「あんたもそろそろ正太郎ちゃんに見せられる自信作を創りや。」と正典さんに言います。
自信作・・・簡単に言われてもなかなか難しいところですが、喜代美ちゃんのがんばりは正典さんにもいい刺激になるような気がします。
その後、師匠の容態が急変し病院へ運ばれたと、楽屋の小草若さんの携帯にお医者さんから連絡が入ります。「やるだけのことはやってみるが、覚悟だけはしておいてください。」
えーっ、これから高座が始まるというときに、携帯って罪ですね。落語会が終わってから泊まったらよかったのにとか、観てる方もぐるぐる考えてしまいましたが、やっぱり小草若さんは、病院に駆けつけようとして、走り出します。
「落語会をめちゃくちゃにするつもりか!」と追いかけて止める草々さんに、「高座はまた何回でもできるけど、おやじはたったひとりだから。」と振り払って行こうとしますが、「行きたいんなら、お前の分も俺がやってやるけど、それでほんとにいいのか。」と草原さんが声をかけます。
このところの草原さんは、落語家をあきらめて実演販売をしていた頃に比べると別人かと思うほどしっかりしてきて、師匠がいなくて方向が違ってしまいそうな時に、すごく的確な突っ込みをして、みんなを我に返らせてくれるなあと感心します。四草さんは例によってクールに、「自分と同じ過ちを繰り返すんじゃ、師匠は死んでも死に切れん。」とつぶやきます。
いったんは行こうとして、入り口でへなへなと座り込む小草若さん。あの後悔の日々を過ごした師匠を思い出しながら、行かなくてよかったと、観ている方も力が抜けました。
そこに、二番太鼓が聞こえてきます。「師匠の事を心配しながら演じているとわかったら、お客さんは笑えなくなる。そのことを悟られるな。」と草原さんは喜代美ちゃんに釘をさします。
いよいよ高座に上がった喜代美ちゃんは、さっきの泣きべそがうそのように、しっかりとした口調で話し始めます。もともと師匠と自分がやることになっていた師弟落語会だったのが、師匠が病気になって、代わりに誰かやってくれといったら、兄弟子が我も我もと手を上げて、何をやるかと問えば「地獄八景」とは洒落にならない。そんな師匠に師事しようと思ったきっかけは落語のカセットテープ。徒然亭に訊ねていって弟子になるのを断られてから、あれこれあって、いつのまにか弟子になっていた・・・という話を、小気味よく生き生きとした笑顔で語り、会場は爆笑の渦です。観ている兄弟子達は、最初心配そうだったのが、話に引き込まれて笑いながら、創作落語の仕上がりにびっくりしています。
この最後の喜代美ちゃんの落語の部分がすごく気に入ってしまって、この部分ばかり、何度も何度もリピートしていました。語り口の面白さもさることながら、喜代美ちゃんの表情がとっても生き生きとしてひきつけられるものがあります。ただ女優として演じる事の他に、落語として面白いと言う事を求められて、貫地谷しほりさんは大変だったと思いますが、この胸のすくような仕上がりは、相当気合が入っていたんじゃないかなあと感じました。
ほんとに、1番好きな場面は?と聞かれたら、真っ先に思い浮かぶほど、心に残るシーンでした。
そして、「ちりとてちん」特有の現象なんですが、笑いながら、涙が止まらなくなるのです。