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♪愚図ね カッコつけてるだけで
 何もひとりきりじゃできない~

と…のっけからケンカ売りまくりモードで始まるこの曲、「十戒(1984)」が発売されたのは、今から23年前の1984年7月25日。この楽曲は中森明菜さんのシングル第9弾として世に出たのだが…まぁ、コレについてはさほど深く掘り下げて説明するまでもないか…それ位有名な曲でもあり、また彼女が放った、いわゆる‘つっぱりソング’における集大成的な意味を持つ楽曲でもあったからだ。事実上、この曲こそが明菜さんのそのカテゴリー内における最後の大爆弾であり、要は明菜の‘つっぱりソング’…泣いても笑ってもこれが最後よっ!と言わんばかりの‘最終兵器’だった…ということになる。

この頃の明菜さんと言えば…それこそアイドル界においてはその頂点へと堂々と君臨。ほがらかな太陽の如く…そんな輝きを放ちまくっていた松田聖子さんに相対するような立ち位置にいた明菜さんのソレは、ナイフのように鋭く研ぎ澄まされた静光を作り出す月…まさにこの二人は80年代アイドルの勢力図における太陽と月の存在であり、他を寄せつけない圧倒的な存在感を誇示していたのである。

こんな勢いを誇っていた明菜さんの曲を早くレビューしたいのだが、その前にタイトルにもなっている‘十戒’について、ちょっとだけお勉強しておきたいと思う。

十戒とは…

●仏教における十の戒律
●旧約聖書に書かれた十の戒律

であり、旧約聖書のソレは一般的に「モーゼの十戒」と呼ばれ、モーゼがイスラエルの神から与えられたとされる10の戒律のことを十戒と呼ぶそうである。で、その内容とは…

1.主が唯一の神であること
2.偶像を作ってはならないこと(偶像崇拝の禁止)
3.神の名を徒らに取り上げてはならないこと
4.安息日を守ること
5.父母を敬うこと
6.殺人をしてはいけないこと
7.姦淫をしてはいけないこと
8.盗んではいけないこと
9.偽証してはいけないこと
10.隣人の家をむさぼってはいけないこと

こんな風になっている。要は○○をしてはいけないこと、○○をしなければならないこと…というお約束ごとが10並んだモノ…と解釈すれば分かりやすいだろうか。こう考えると明菜さんの「十戒(1984)」が何を言わんとしているのかが随分とクリアになってくるだろう。要は明菜さんのソレは冒頭の歌詞でも触れたとおり…愚図で軟な男どもに対する十戒…だったということになる。

さて、それではこの曲のレビューに駒を進めてみよう。

この楽曲は作詞を売野雅勇氏、作曲を高中正義氏という、世にもめずらしいコンビ(!)が手がけた作品となっているのが最大の特徴だろうか。売野氏と言えば、明菜さんが大ブレイクするキッカケを作った方…である事はコレを読んでる皆様も即刻ご承知のとおりだと思うが…。なんせ…

「少女A」
「1/2の神話」
「禁区」

という、初期の明菜さんの代名詞と言える様なヒット曲をガンガンと生み出した方でもあり、彼女のつっぱりソングはこの人しか…と言わしめるほどの才を発揮した方でもある。一方、作曲をした高中正義氏はロック、若しくはフュージョン界を代表するギタリストとして‘超’がつくほど有名なお方なのだが、このようにアイドルに楽曲を提供した例は非常に稀であったりもする。しかも他人に楽曲を提供すること自体がかなり珍しく…そういった意味でもこの「十戒(1984)」はそんな彼がアイドルの明菜さんへ直々に書き下ろしたという、それだけでも実に貴重な一品とも言えるのである。こんなお二人がタッグをガッチリと組んだ作品だもの…出来が悪いハズがございません^^。それどころか、これより前に存在した上記の明菜つっぱりソング群における「少女A」や「1/2の神話」等を遥か上空から見下ろしてしまうようなインパクトや攻撃性、そしてそれに加えて、明菜さんの‘月の女王’たる威厳がガチンガチンに絡み合い…いわばコレは明菜さんが軟な男どもへ投下した‘最終警告大爆弾’。そんなスゴイ風味がてんこもりの作品に仕上がっているのである。

それではその攻撃性とやらをちょっと垣間見て見ようか…。(笑)

♪過保護 すぎたようね
 優しさは軟弱さの言い訳なのよ~

キマしたね…^^;。冒頭で‘愚図’と罵る奇襲攻撃をカマし、ここでは更にその‘優しさ’とやらにナックルパートでもブチこむかのような凶暴さ。(笑)優しさを‘軟弱さの言い訳’へと置き換え、攻撃をカマしまくる凶暴加減がステキじゃありませんかぁ^^。まだ歌が始まってすぐだと言うのに…もうこの時点で頭にはしこたま血が上りまくっている感じ…とでも申しましょうか。Mっ気の多い輩にはたまらないお歌だったのでしょうか。(謎)

♪発破かけたげる さあカタつけてよ~

うおっ!「カタをつけろっ!」とキタもんだ。(笑)カタをつけろ…と言ってやはり思い出すのは…山口百恵さんの「絶体絶命」。アチラでは♪はっきりカタをつけてよ~×3した後に♪やってられないわ~とカマしておられたが…こちら明菜さんの場合は「まだまだ攻撃の手を緩めないわよっ!」と言わんばかりのトコロがソレとは違うところか。‘かけてあげる’じゃなくて‘かけたげる’になってるトコロが荒っぽくてステキだこと。要は女王・明菜が上から見下ろす図…なのね。(笑)

♪軟な生き方を 変えられない限り
 限界なんだわ 坊や

そろそろなんとかしないと…女王様の堪忍袋の緒がブチ切れ寸前だぞ!といった状況か。時限爆弾がチックリチックリ…爆発寸前な風情をしこたま演出する歌詞とメロ。女王様に‘限界’なんて言わせちゃイケません。(笑)そしてついに…

♪イライラするわ~~~~~~~~~~~~

ホレ、キタっ!(笑)ついに明菜女王様が炎をお吹きになってしもうた。もう、知らないっ!自分で‘ケジメなさい’(笑)
70年代の百恵さんを始めとして80年代にも数多くの‘雄叫びソング’が存在したことは以前にもこのブログのここで記事にしたことがあったが、その中でも‘決定盤’と言えそうなのがこの「十戒(1984)」ではないだろうか。イライラする…これは私達の日常においてよく使う言葉だと思うが、こんな言葉を歌詞として…しかも曲の最後の‘〆’として持ってきてしまう売野センセイのセンス。これには脱帽!!さすがでございます。過去記事でも扱った三原順子さんの♪馬鹿げているわ~も迫力充分ではございましたが、明菜さんのコレはそれをも上回る凄みが満載のようで^^…大きなビブラートが特徴の、いわゆる‘明菜女王様の雄叫び唱法’が芽吹き出したのもこの頃…と記憶する。(笑)

そしてこれを唄った明菜さんのビジュアル面も非常に大きな印象が残る…たしか衣装は2パターンだっただろうか。最初のは真っ黒バージョンで、裾が大きく広がったドレスに胸元には十字架のアクセントがあしらわれたモノ。で次のは最初のとほぼ同デザインのモノだったが、今度はお色がキンキラキンの金!「賞レースの金色(最高峰)はアタシが頂くわよ!」と言わんばかりの…それはもうハデハデバージョンだったのである。ショートにして可憐に振舞った‘宿敵’に対して、明菜さんのソレはロング一辺倒。しかもデビュー時よりも更に長めのレイヤードカットになり、それを振り乱しながら唄う「十戒(1984)」は、まさに女王様のご乱心…といった趣きでムセかえっていたのである。そしてこの曲に付けられたフリツケもインパクト抜群!最後はなんとあの‘イナバウアー’をも思わせる形でのフィニッシュ…80年代には色々な面で時代をリードした明菜さんだが、彼女にはどうも20年先を見据えることの出来る先見の目があったようでもある。(笑)

この曲はオリコン1位、61.1万枚を記録して大ヒットと相成った。この60万枚超えって数字自体が他のアイドルとの違いをまざまざと見せ付けてるトコロでもある。この頃の明菜さんはまさに絶頂期。前年度(1983年)の好調加減を更にヒートアップさせ、1984年に発売した全てのシングルを50万枚超えへと導いている。また、太陽の女王として君臨した松田聖子さんとの女王決戦も印象に残った年度でもあった。そのバトルを下記に一覧表としてまとめてみたのでご覧頂きたい。

イメージ 2 「北ウイング」オリコン最高2位 61.4万枚イメージ 3「Rock'n Rouge」オリコン最高1位 67.4万枚
イメージ 4 「サザン・ウインド」オリコン最高1位 54.4万枚イメージ 5 「時間の国のアリス」オリコン最高1位 47.7万枚
イメージ 6 「十戒(1984)」オリコン最高1位 61.1万枚イメージ 7 「ピンクのモーツアルト」オリコン最高1位 42.4万枚
イメージ 8 「飾りじゃないのよ涙は」オリコン最高1位 62.5万枚イメージ 9「ハートのイヤリング」オリコン最高1位 37.6万枚

「サザン・ウインド」でやや右肩下がりになったものの、その後の「十戒(1984)」で60万枚の大台に乗せ以後も60万枚ペースを保った明菜さんに対し、この年度の聖子さんはやや苦戦気味。年頭の「Rock’n Rouge」では化粧品のCM ソングとのタイアップで70万枚に届こうか…とう大ヒットをカマし、太陽の女王としての意地を見せつけたものの…以後の作品ではそれぞれが50万枚割れをしてしまうという弱さも垣間見せることになった。前年度の1983年に「ガラスの林檎/SWEET MEMORIES」の両面ヒットを達成(オリコン最高1位、85.7万枚)し絶好調だっただけに、この年度の失速はちと手痛いモノとなってしまったか。しかも賞レースにおいても聖子さんはこの年度に実施された全ての賞番組で辞退していたのだ。おそらくは歌よりも‘他’にキモチが囚われていた時期であったと推測され…そういった意味でも1984年は明菜さんが真にアイドル界の頂点に達し、かねてからそこに君臨していた‘太陽の女王’をその座からズルリと引きずり落とした年度…とも言えるだろうか。と言っても40万枚超えのヒットを連発した聖子さん、デビューから4年も経過しているというのに…この勢いはスバラシすぎます^^。

太陽の女王と月の女王…この二人は1984年の大晦日…ついに‘あの’ステージで‘女王はドッチだ’決戦を公衆の面前で繰り広げることになるのである。しかもお互いのパートナー(当時)を従えて…。

☆作品データ
作詞:売野雅勇 作曲:高中正義(1984年度作品・ワーナーパイオニア)