1985年4月25日に徳間ジャパンより「テディボーイ・ブルース」でデビューした石野陽子さん。石野さんと言えば、言わずと知れたあの70年代の代表的なアイドルだった石野真子さんの実妹でもあり、デビューに際してはやはりこの点が随分とクローズ・アップされたものだった。特技はフィギュア・スケート。デビュー前には欽ちゃん関連の番組でその腕前を披露するなどして、愛嬌を振りまいていたものである。
そんな石野陽子さんが同年8月25日にシングル第2弾として発売したのが表題の「雨のチャペル通り」。
作詞を売野雅勇氏、作曲を芹澤廣明氏が手がけた作品で、マイナーよりのアイドルポップスに仕上がった。このコンビは中森明菜さんの「少女A」や桑田靖子さんの「脱・プラトニック」などに代表されるようなツッパリ系の作品を多く輩出していたが、この曲はそれとは全く無縁の可憐な雰囲気が漂うアイドルポップスになっている。
陽子さんのデビュー曲だった「テディボーイ・ブルース」はサックスが怒涛のようにガンガン入りまくるオールディーズ風のロックンロールスタイルといった風情で、チェッカーズの一連の作品に似た作り。それを歌った陽子さん自身もこのテの曲にはお決まりのポニーテールに裾の大きく広がったチェック柄の真っ赤なスカートに身を包み、肩をツイストさせながら歌っていたと記憶する。そして緑色?だったかな…そんな色合いのカーディガンを腕を通さない形で羽織っていたが、ズレ落ち防止のためなのか、それがきっちりと肩口に縫い付けてあったのが妙にヘン(! )で印象的だったもの。(笑)しかも、その曲の雰囲気がいまひとつ陽子さんのキャラに合ってなかった感じもありありで?実際、TVでの歌披露では緊張の為かとっちらかってしまう場面なども多々見られ、陽子さんの歌唱力が楽曲に追いついていない感が否めなかった。せっかく真子さんの妹さんが歌手デビューするというのに勿体無いな…と思っていたところ、この第2弾の「雨のチャペル通り」でその汚名(!?)を返上してくれた形と相成ったワケなのである。
この曲のテーマは片想い。チャペル通りと呼ばれるゆるやかな坂を描く舗道。その舗道をいつも駈けてくる男の子。名前も住所も何も知らないという、そんな男の子に恋した女の子の切ない気持ちを綴っているのがこの曲の歌詞である。
これと似たようなテーマの曲で思い出すのが、キョンキョンこと小泉今日子さんがデビュー曲として歌った「私の16才」だ。この曲の歌詞の少女も、意中のあの人が通るいつもの道で待っている…という似たようなシチュエーションなのだが、こちらの彼女は「雨のチャペル通り」の彼女のように窓越しなどで我慢せず、直に、しかもあいさつもすでに取り交わす仲にまで持ち込んでいるのだ。しかも「恋の芽生え」という花言葉を持つという、赤いリラの花なんかを髪に挿して待ってたり…とかなり積極的なご様子。(笑)
♪あぁ 恋した日暮れは
雨の気配こわい
雨の気配こわい
♪窓 前髪あずけて
あなたが 坂をかけて来るの待つの
あなたが 坂をかけて来るの待つの
♪白い息はずませて 毎日この時間
名も知らぬ恋人が 舗道通るの
名も知らぬ恋人が 舗道通るの
さすがは売野センセイ...お言葉使いがお上手のようで。前髪を窓にあずけるとか、名も知らぬ恋人がとか...やっぱりこういう歌詞はいかにもあの頃ちっくな歌謡曲のノリ。でも言葉としては昨今流行の楽曲よりうんとこさっと良いのである。
曲に関してばかりではなく、石野陽子さんの歌唱にも目を向けてみようか…。
彼女の歌唱法はかなりか細く弱々しい印象がある。声質的には実姉である真子さんにかなり似ているものがあるのだが、真子さんのそれをもっと細くしたような感じで力強さは全くない。なのでデビュー曲のようなビートの効いた曲よりもこういった切なげな曲の方が声質的に合っているようにも思う。そういった意味でもこのような楽曲は彼女に向いていたように思うし、現にオリコンでも最高54位、1.3万枚を記録、新人歌手としてそこそこの面目を保てるような結果は残していたのである。新人賞レースでもこの曲は盛んに歌われていたので記憶にうんと留めている方も多いことだろう。
実は今、住んでいる国のとある場所にチャペルストリートという通りがある。ここは東京で言えば表参道とか代官山みたいな最先端のおしゃれなショップが立ち並ぶ通りなのだが、この曲のレビューを書くにあたって参考になることがあるかもしれないという突発的な思いつきから、実際にその通りを改めて訪れてみることにした。場所が場所なので行き交う人々もかなりオシャレで、しかもハイセンスなショップがずらりと並んでいる通り。とにかく人が多くて「雨のチャペル通り」の曲の雰囲気をゆっくりと堪能できる風情は薄かったのだが、その通りの中ほどに古いチャペル?か何かを改造して営業しているカフェがあり、その周辺に関してはこの曲のサビでも唄われている…
♪チャペル通りは 雨模様
切ない胸に 鐘の音(ね)が
切ない胸に 鐘の音(ね)が
♪チャペル通りは 雨模様
うつむくことしかできない 雨
こんな情景の風情を味わえそうな雰囲気をしこたまに残していた。季節が晩秋から冬にかけてなら、なおさらハマるのかもしれない。まぁ、たまたま名前が同じというだけでこの通りをモデルにして書かれた歌詞…というワケではないのだけれどもネ。
うつむくことしかできない 雨
こんな情景の風情を味わえそうな雰囲気をしこたまに残していた。季節が晩秋から冬にかけてなら、なおさらハマるのかもしれない。まぁ、たまたま名前が同じというだけでこの通りをモデルにして書かれた歌詞…というワケではないのだけれどもネ。
石野陽子さんの歌手活動は89年頃まで続き、シングル7枚、アルバム1枚を発売。中には「グッバイ・ブルーサーファー」というなかなか出来の良い曲も残しているが、いかんせん歌でのヒットが出なかったのは残念しこたまである。アイドル時代の代表作はTBS系のドラマ「セーラー服通り」だろうか。当ブログの「アイドルレビュー」に登場した松本典子さん同様、志村けんさんのバラエティ路線で活躍を見出し、知名度も得た。現在は芸名を以前の漢字から平仮名の「いしのようこ」に変更し、現役バリバリ続行中のようこさんなのである。
☆作品データ
作詞:売野雅勇 作曲:芹澤廣明(1985年度作品・徳間ジャパン)
作詞:売野雅勇 作曲:芹澤廣明(1985年度作品・徳間ジャパン)