ポール・オースター『ムーン・パレス』(新潮文庫 柴田元幸訳)を読んで
面白かった。
一人の子供が大人になる「成長小説」。
時代は1950年代後半~1970年代前半。
舞台はニューヨーク。ニューイングランドやシカゴなどがいくつか点在するが、基本的にメインはニューヨーク。
早くに母を失い、父は生まれる前にいなくなったという主人公の青年の魂の変遷が出会った人たちの影響を受けて激しい浮き沈みを見せ、悲惨な時は本当に悲惨で、しかし、その悲惨な生活の中に人生の真理が潜んでいるようにも感じられる。つまり主人公に私はすっかり感情移入してしまった。
彼のその時その時の心情独白がとても味わい深く、「なるほど、その気持ちわかる」的なことがとても多かった。
多くの年長の縁者が次々に死にやるせない思いになるが、それもまた人生の摂理なのだろう。
『横浜フリューゲルスはなぜ消滅しなければならなかったのか』(田崎健太さん著 ㈱カンゼン)
総括)
私が心から愛したサッカーチーム。
本屋でみつけて即買いし、一昼夜で読んでしまいました。
読後感は複雑です。悲しみが反復されました。
田崎健太さんの渾身の一冊。
文体)
文章が簡潔でスラスラ読めたのが良かったです。こんなに読みやすい文章はそうそうお目にかかれないなと。
感想)
すべては「人」であるなと思いました。
登場人物の一人ひとりについて、簡潔ではあるがその生い立ちから当時に到るまでを略歴的に書かれているので、人物理解の助けになりました。その結果、上記の結論に至りました。
所属するクラブが消滅するといった時に誰がどういう行動をとったかを、20年たった今だから聞ける、書ける、話せる内容を丹念に集めて、全体を構成してくれているので、一ファンとしては全く知らなかったことばかりでした。
登場人物の中で魅力的だったのは、サンパイオを筆頭に、楢崎、前田浩二etc...。
やはり最後は「人間性」。
ヴィム・ヴェンダース監督作品役所広司主演『Perfect Days』を観て
2024年4月30(火)に下高井戸の下高井戸シネマで観ました。
最後に映画館を訪れたのはいつ頃だったか覚えてないくらい昔ですが、この映画は前評判を見て「考えさせられる映画だ」と直感し、観に来ました。
役所広司がいい。
演じるのは区役所の公共トイレの清掃委託を受けている会社に勤める独り身の初老(60代前半)の男。その日常(まさに朝起きてから、眠るまで)の孤独な暮らしを追う映画。
見ているうちに、自分の暮らし(時間の使い方)に似ているところもあるな(自分もほぼ同世代で単身赴任中なので平日は一人暮らし)と思ってたら、主人公が夜寝る前に少しづつ読んでいる本の背表紙が見えて愕然としてしまいました。それ、今私が同じように毎晩読んでいて、なかなか進まない本ではありませんか?(フォークナー「野生の棕櫚」)
彼の暮らしぶりと仕事ぶり、そして人との接し方にはとても共感を得ましたが、途中に小さな出来事(若い相棒がやめる、相棒の彼女から好意をもたれる、姪が家出して泊まりに来る、それを妹が迎えに来る、飲み屋のママさんが知らない男と抱き合っている所を目撃してしまうなど)が出てきて、それらがすべてちょっとづつツッコミどころがあって、結果物語が破綻の域にまで達しそうではらはらしてしまいました。
また、いかにも「日本」を意識するような外国人監督の眼差しが少し鬱陶しいい、結局、何を描きたかったのか、ラストまでわからない物語でした。
そして、とても残念だったのが、スポンサーからみだから仕方ないのかもしれませんが、掃除するトイレがいずれもアーティスティックな斬新なものばかりで、これって「クールジャパン」的な良さを世界に発信するコンテンツなの?って一気に鼻白んでしまったのでした。さらにパティ・スミスの曲など、聴けたのはとてもうれしかったんだけど、なんだか、観る人(60代)に阿(おもね)ているように感じちゃったのです。
役所広司ほか演者たちの人間ドラマがとてもよかったので、そのうちのどれかひとつでもいいから、最後まで見せてもらいたく、あいまいな終わり方が残念だったのでした。