『シルバービュー荘にて』ジョン・ル・カレ (ハヤカワ文庫)を読んで
イギリスのスパイ小説の土台を作った大作家、
ジョン・ル・カレの遺作としてハヤカワさんが翻訳発行してくれました。
一言でいうと、
イギリスの諜報部が国益のためにかつて利用していた有能なスパイの活動を阻止するお話です。
その過程で、一人の何の関係もない青年が巻き込まれ、物語の大半はその青年の目線から進みます。
主人公レベルに頻度多く登場してくる男性が3人いますが、いずれも人生において苦みを背負っていて、リアリティを感じます。
なかでもそのうちの一人は、生い立ちや境遇から本人ではどうしようもない運命のようなものを背負って生きている。
そして、ピュアで、人にやさしく、正義感に燃えているために、多くの障害や災難の犠牲になってしまっています。
この彼と、もう一人の主人公とのやりとりが、ものすごくせつないです。
ラストシーン、最後の一行でまた驚くべき事実が伝えられるので、またぞっとします。
ジョン・ル・カレの話の展開の仕方はとても心地よいです。
いらない自然描写はほとんど少なく、けして饒舌ではないのですが、それでいて登場人物の心の奥底がなぜか伝わってくる。
それでいて展開のスピードがちようどいい感じがします。
アメリカの小説家・ロス・マクドナルドの一群の探偵小説群(リュウ・アーチャーシリーズ)に似たテイストかもです。
ジョン・ル・カレの作品を読んだのは初めてでしたが、さっそく次の作品も手に入れました。
また読み終えたらUPします。
『慈雨』(柚月裕子 集英社文庫)を読んで
定年退職したばかりの元警察官が妻とともに「四国八十八カ所」巡りをするお話。
彼は16年前に起こった、幼女殺人事件の捜査の結果に鬱屈を抱えて人知れず自責の念を強く抱いていた。
そんなさなか、当時の事件と酷似する幼女殺人事件が発生。
彼の自責の念は最高潮に達する。
16年前の犯人は現在刑務所に収監中であるはずなのに・・・。
元刑事が16年前に果たせなかった思いがこの事件を呼んだのか?
全てを捨てて、人間として、そしてプロフェッショナルとしての責任を全うする決意を固めた男。
そのことを知らず、純粋に寄り添う妻。
そして、捜査を担当することとなった若手警察官の複雑な心境。
初老の夫婦の心の絆を四国八十八カ所の遍路を舞台に、やがて明らかになる衝撃の事実に到る。
『スリー・カード・マーダー』(JLブラックハースト 三角和代訳)を読んで
読むのがつらくなるほど、日本語翻訳された文章がわかりずらかったのが哀しい。
え?っと思い、「これどういう意味なの?」と思い何度か読み直した部分もある。
それと、意味が通じないところがあった。誤訳なのではと思った。
たとえば文庫本のP241の8行目
「~彼女について調べるように頼んだ」とのくだりがあるが、
この「彼女」とは誰なのか?ここで調べる対象となるのはルカマンシーニで、男性なのだが。
100歩譲って、調べる上で関係性が出てくるはずである、セアラ(女性)のことかなと考えたのだが、
P253において、その「調べた結果」を報告するくだりがあって、そこには、はっきりと
「マンシーニは・・・」と書かれている。
いったいなんなんだろう。
これって、物語的には大事なところだし、そもそも手の込んだ密室殺人ものなので、読者は一字一句慎重に読んでいるはずなのに。編集者も翻訳者も多忙だからなのだろうか?
もしかしてAIを下準備で活用して、翻訳したのかな、と思うほどであった。
他にも、日本語として微妙におかしくなるところがあって( 「していた」を「しておった」的に九州弁になる箇所)びっくりした。
やっと読み終えてほっとしている。