春です。
新たなスタートの時期です。

ある意味戦友と呼べる友が一人、先日旅立っていきました。
淋しいなぁ、めでたいことなのに。

おたがい、さよならは言わないことにしました。
彼は、きっとまた会うでしょう、と
私は、あえていってらっしゃいと言うね、と

そう言わないと、笑ってはなむけの言葉を言うことなど
とても
難しくて。

長い腐れ縁が、これからも腐れつつ続くものであれと。
春の空を、見上げました。
のんこの話では、ハルは元気で新しい生活を楽しんでいるという。
新しい恋をしているのか、は、聞けずじまいだった。
だが、今も変わらずに夢に向かって進んでいることにとてもほっとした。

一方で、見ないように意識するほどに視界に入る手と唇が、この上なく僕好みで色っぽかった事が焼き付いている。


家に帰ってからの僕のそわそわ感の原因が、ハルの事なのかのんこの事なのかはもうわからなくなっていた。

懐かしい話、昔の恋。
その裏にある、僕の知りえない側面を垣間見たという思い。
これらは僕の心をこんなに掻き乱す。

…きっと、今の僕は普通じゃないんだ。
のんこにどきどきしているのは、きっとハルの話が醸し出す吊橋効果かなんかだ。
そうに違いないんだ。

僕は、意地でもそうなんだと思うことで、精一杯の自己防衛をしていた。


ハルに対する気持ちは恋愛感情を伴うものではなくなって久しい。
ただ、ハルが僕以上に僕のことを引きずっていたことは知っていた。自惚れているかもしれないが、そういうハルが新しい恋をできる状態になったなら、僕の心に残る彼女への負い目が軽くなる気がする。
それに、やはり大切な人であることには変わりないのだ。

そう思いながら、一方で今日初めて話した対して知らない女の子に、心ときめかせている自分もいる。

我ながら、がっかりするような気持ちの動きに嫌悪感さえ抱く。
なのに、この気持ちを否定しきれない。


明日、彼女の前でどんな顔をすればいい?

どんな顔が、できる?
あれは確か、だいぶ大学生としての生活に慣れてきた頃だったと思う。
サークル、講義、アルバイト探し…活動範囲もかなり広がり、友達や顔見知りも増えてきた。
そんな頃だった。

時々講義で見かける女の子が、僕に話し掛けてきたのだ。
僕と同じ、隣接する町の出身だという。久しぶりの地元の話に盛り上がっているうちに、彼女はためらいがちにこう言った。

「私ね、ハルと仲いいんですよ」

不意に出てきた名前が、自分の以前の恋人だと気付くまでにしばし間が開いてしまった。
そして、気付いた途端に僕は動揺して少し青ざめていたらしい。申し訳なさそうな彼女の声に、首を振るのがやっとだった。

無理もない。
幼かったなりに真剣に愛し、幼さ故に傷付け合ってしまった人。

今更連絡のしようはないけれど、今でも気掛かりな、人。

僕は青い顔のまま、薄く作り笑いをした。
心臓が痛いくらいに激しく打っているのがわかった。

苦しい。


しばらく経って、やっと跳ね回る心臓の動き以外のことも 認識できるようになってきた僕の目に。
ひどく切ない目をした彼女が映った。

心臓が、さっきと違うモーションで跳ねた。

やっとの思いで聞けば、この友人―のんこ、と呼ばれていたという―は、よくハルから僕のことを聞いていたのだそうだ。
一緒に何回か撮ったプリで、顔も知っていた、と。

ハルとの事が頭を駆け巡り続けているのに、僕の目はのんこのぷくんとして血色のいい唇と、やわらかいラインを持つ手を交互に見ている。

思考が分裂するにも程があるだろう。
第三の僕が、僕自身を醒め切った目で見下ろしている。

最低だ。