「そんなの知らない」
口にするだけなら容易い言葉。
本当に知らないのかと言及されれば、本当は心のどこかで知っているのかもしれないという迷いが生じる。
知らないのではなく、知っている自分を認識したくないだけなのかもしれないという思考が生まれる。
迷うことも考えることもなく『知らない』と言い切るのは、その知識が誰かから教えられて学んだものではないからだ。
自然と生ずる出来事の中で身に付いものを、知識の一部だと考えなかったからだ。
偽ったわけではない。
嘘をついたわけではない。
だが、結果として『知らない』という答は正しくないことに気付いてしまう。
気付いてしまうと、一人で勝手に気まずい気分になってしまう。
勘違いだったと、間違いだったと、自ら折れる強さも持てない。
わざと口を閉ざして、隠している事に気付いて欲しいと甘える自分が居る。
だれか気付いて。
わたしに気付いて。
あなたが気付いて。
くだらなくてつまらないことに拘って、世界を狭くしているのは自分のせい。
塞いで閉じ籠もっている処から、力尽くで引っ張り出してと心の中で呼びかけ続けている。
口に出さなければ伝わらない言葉を、胸の中で繰り返している。
届かないと知っているのに。
都合の良い夢ばかりを見ている。
それこそ、知られてしまったら言われるに違いない。
『そんなの知らない』
と。