追悼、舟越桂さんにお願いしたいことがありました。 | メグミ(ルク)の部屋

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2024年4月1日

昨日の新聞に、彫刻家の舟越桂さんが亡くなったという記事が出ていました。

72歳だそうです。切ない。惜しい。もっと新しいものを見せてほしかった。

 

本当のことを言うと、舟越さんはクスノキの木彫だったけど、

原田雅彦さんの銅像の原型を、造ってほしかった。

羽が生え、高いジャンプをする原田選手の像を、見たかったんだよなあ・・・

 

思えば、伊集院静さんも73歳だった。

これをまだ若いと思う年齢に、いつしか自分もなっていました。

毎日、新聞のおくやみ欄を見ていた、祖父の気持ちがわかるようになってしまいました。

 

2012年7月22日、須坂版画美術館で舟越桂さんの講演会がありました。

ヒロミはそこに参加しています。

質問コーナーがあったんです。最初は誰も手を挙げなかった。

後悔しています。お願いすれば、原田雅彦さんがモデルの彫刻を、造ってもらえますか?

そう聞けばよかったんだ。(怒られそうで、聞けなかった)

その年の7月の、とんでもないスケジュールが手帳に残っている。

第1週は千葉館山に出張、翌週から17日までバルセロナに行っていて、

18日に職場の監査、

そしてまた26日から東京に遊びに行っている。

さすがにブログには、「舟越桂さんの講演会に行ってきた」

としか記録が残っていません。

 

でも同じ手帳に、そのときの様子がメモってあります。

「舟越桂の版画」という展覧会でした。

 

3~4年に1回、版画の制作をしている。86年から、ロンドンで制作を始めた。

銅板・・・割りばしに、画びょうで始めた。

父から、エッチングは面白いから気をつけろ、自分の力以上に力が出てしまうからと言われた。

アメリカの工房からも誘いがあった。去年はロンドンで新作を制作した。

 

スフィンクスというテーマ。

作品は、人物の周りに、その人が生きていくうえで大事にしているものを並べる。

パーツは、個別に作る。

スフィンクスは、人間のやること為すことをずっと見続けている存在。

そこに、自分の顔のパーツを埋め込む。

震災後、テレビを見過ぎて鬱の状態になった。(彼は岩手の出身)

1点しかできなかった。その後、なんとか5点作ったが、苦しかった。

彫刻の、胸が下に向かって垂れている。今までは上がっているイメージだった。

スフィンクスにガラスで作ったパーツ、オカピという動物を重ねる。

単体で、ひっそり暮らしている美しい存在として。

 

「戦争を見るスフィンクス」は、珍しく表情がある。

泣いて、怒っている。

スフィンクスだけでなく、誰もが人のことを見続けている。

エジプトにもあり、ギリシャ神話にもあり、その時代によりいろんなスタイルで登場する。

僕なりのイメージ・・・人間の男と女と動物の耳。

いつかⅩ線で見られるときのため、金を貼る。

接着は自転車のゴムで縛る。首は突っ張り棒で固定。

 

ロンドンでの版画制作、ドライポイント、エングレーヴィング、銅板を彫る。

ずっとモデルなしでやっていたが、カフェで出会った人に頼んでみた。

僕でよければと、とてもいい笑顔で、写真を撮らせてもらった。

木版・・・浮世絵師とのコラボをしたが、水彩画にしか見えなかった。

外国ではあまりほめてもらえなかった。反応がない。

わあすごいと言われてうれしかった。

 

リトグラフ・・・石。女性の肌を気づかれずに触るような・・・

刷り終わったら、また削って使う。

版画をやるためにハワイに行ったら、ほんとにいいところでした。

版画は立ってやる。とても勤勉。

彫刻は座ってやる。工房で作品を作るのにお金がかかる。

その期待に応えねばならない。

 

若いころ、現代美術には関心がなかった。デュシャンとか。

イヴ クラインの女の人の体に青い絵の具を塗って、本当にあれがアートなのか?

否定すると、父も否定することになってしまうのか?

でも知るうちに、この人たち、俺よりも命がけでやっている、と思った。

 

自分は生きている以上、明日も変わっている。

作品も変わっていくべき。自分の試せることを少しでも試していきたいと。

男女のいっしょになったスフィンクスなんか、作るとは思っていなかった。

それを嬉しく思っている。

 

女の人は、モデルなしには作れない。

20年ぶりに作ったのはお腹の大きい女性だった。

(それはきっと、「月に映る月蝕」)

(文責:ヒロミ)

 

メモはここで終わっています。

舟越さんの作品の人物たちは、静謐感が漂い、それは穏やかなものが多いのですが、

意志の強さなのか温かみなのか、遠くから、バッハの音楽が聴こえてくるようなそんな作品でした。

切ないです。

ご冥福をお祈りします。