お菓子「唐衣(からごろも)」を紐解く | 【ブログ】裏千家 シュミネ茶道教室 || 大阪・心斎橋 || 西田宗佳

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大阪・心斎橋駅上がってスグの「シュミネ茶道教室」。
お稽古や教室の様子、茶の湯周りのことや、西田宗佳の歳時記・日常なども、生徒の皆さんに読んでもらえるよう徒然書いています。

令和3年(2021年)5月15日:投稿
 
皆さん、こんにちは!
シュミネ茶道教室の西田宗佳です。
ブログが久しぶりになってしまいました。
 
季節はすっかり初夏を迎え、風炉のお稽古が始まりました。

お茶の世界では、5月は「初風炉」(しょぶろ)と言って、「炉」(ろ)から「風炉」(ふろ)に変わる、季節の大きな転換期になります。

そんな初風炉を代表するお菓子、今日は「唐衣(からごろも)」についてご紹介します。

(これまで何度も取り上げているので、一部内容が重複します)

 


 
 
伊勢物語」に登場する「唐衣
 
この「唐衣」というお菓子は、見た目は「杜若(カキツバタ)」の花に似せて作ってあるのに、なぜそのまま花の名前ではなく、全く別の銘がついているのでしょうか?
これは、平安時代に成立した「伊勢物語」の第九段、東下り在原業平(ありわらのなりひら)が詠んだとされる歌に由来しています。

「唐衣 着つつなれにし 妻しあれば はるばる来ぬる 旅をしぞ思ふ」 

 

か らごろも

き つつなれにし

つ ましあれば

は るばるきぬる

た びをしぞおもふ

 

それぞれの句頭に「か・き・つ・ば・た」の五文字を折り込んだこの有名な和歌は、彼が都に残してきた妻をしのび、杜若(かきつばた)が咲き匂う三河国八橋(現在の愛知県知立市八橋町の辺り)で詠んだといわれています。

このお菓子は、ただ5月の美しい杜若(カキツバタ)を表現しているだけでなく、歌の冒頭の唐衣のイメージを重ね合わせ、そこから「伊勢物語」(東下り)の世界へと導いてくれる、両方の意味を併せ持ったお菓子です。

 

(~以下、ネットから拝借した解説文~)

歌の意味は、「着慣れた唐衣(中国・唐風の衣服)のように、長年連れ添った妻が(都に)いるが、私はこんな遠く(東国)まで旅に来てしまった」といった内容。

伊勢物語の中では、あくまでも主人公を「昔男」としているが、在原業平とおぼしき人物とされています。

昭和50(1975)年5月、エリザベス女王が訪日した際に、桂離宮で茶席のもてなしがありました。そのときに供されたのが、「末富」(京都の有名な菓子屋)の「唐衣」だったそうです。

茶席菓子には、珠玉の物語があります。わかりやすい事ばかりが求められる現代において、菓子職人たちは「見た目だけじゃないですよ。造形や銘の背景には深い物語があります。気付いてください。見つけてください」というメッセージを込めています。

 

↓) 三河国八橋(現在の愛知県知立市八橋町の辺り)
 
(↑画像はネットからお借りしました)

 

↓) こちらは「一日一菓」(木村宗慎先生)の図鑑から。

京都「末富」の「唐衣」です。注釈にはもちろん、先ほどの在原業平の歌が紹介されています。

 

 
↓) 昭和50年(1975年)5月のエリザベス女王来日
京都・桂離宮でもてなされた野点の席では裏千家が亭主となり、先ほどの「末富」の「唐衣」が用意されました。(女王の隣にいらっしゃるのは当時のお家元、現在の鵬雲斎大宗匠でいらっしゃいます。お若い!)
この菓子は、業平の歌の「はるばる来ぬる 旅をしぞ思ふ」というストーリーを含んでいますので、5月の杜若の季節に、遠い国からはるばる長旅をしてこられた女王をねぎらう意味でも、ピッタリだったのではないでしょうか。
 
(↑画像はネットからお借りしました)
 
 
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お菓子の「唐衣」から、さらに伊勢物語や三河の八ッ橋、杜若(または燕子花)にまつわる美術も紹介します。
 
 葛飾北斎 諸国名橋奇覧 ・ 「三河の八ッ橋の古図
(~以下、ネットから拝借した解説文~)
葛飾北斎が全国の特徴のある橋を描いた11図からなるシリーズ「諸国名橋奇覧」のうちの一枚。本図は「伊勢物語」に杜若(かきつばた)の名所として詠まれた、三河の八つ橋を題材に取った作です。当時、八つ橋はすでに存在せず、この図は想像で描かれました。今でも、杜若(かきつばた)と八つ橋のイメージはよく知られています。
 
 (↑画像はネットからお借りしました)
 

 国宝 「燕子花図」 ・尾形光琳(根津美術館所蔵)
(~以下、Wikipediaから拝借した解説文~)
 
燕子花図屏風(かきつばたず)は、尾形光琳による18世紀(江戸時代)の屏風。光琳の代表作である。国宝に指定されており、日本の絵画史上でも特に有名な作品の一つである。

伊勢物語の第9段の東下り、燕子花の名所・八つ橋では、「から衣きつつなれにし妻しあれば はるばる来ぬる旅をしぞおもふ」との記述があり、これは本作品の背景とされる。

この作品を保存している根津美術館では、毎年、年に1ヶ月だけこの屏風を見られる「燕子花図屏風展」が開催されている。

 
 
(↓)なお、十数年後に描かれた、同じく光琳の作品である「八ッ橋図屏風」(メトロポリタン美術館蔵)は、燕子花図(かきつばたず)と同様に金地に燕子花が描かれているが、橋がジグザグに描かれている。題材は同じ「伊勢物語」である。
 
(↑画像はネットからお借りしました)
 
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一つのお菓子を取ってみても、それだけ知っておいてほしい背景があり、美味しく食べるだけの「おやつ」とは根本的に違う茶席菓子の楽しみ方・味わい方があります。お菓子の取り回し方やお茶の飲み方の作法だけをただ稽古するのではなく、客として、または亭主として、もてなしの姿に対する双方の心入れや見識がなければ、何も「ごちそう」としては存在しないこととなってしまいます。
 
今週の稽古菓子が「唐衣」でしたので、みんなに口で説明してみましたが、「杜若(かきつばた)」って何か知りません、「八ッ橋」って何か分かりません、そのオンパレードでした。少しでも文化や自然に興味や造形の深い方が増えると、きっとそれが教室の豊かさに繋がると思うのですが、まだまだ…ですね。
 
風炉の季節になり、これから道具も花もお菓子も爽やかになってまいります。
 
 

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《 シュミネ 茶道教室 》

 ~大阪・心斎橋~

(裏千家: 西田 宗佳)

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