「・・・分かったよ。」



半ば呆れ気味に佐久間さんが折れた。



私は基本、いい奥さんを演じている。



しかし、この帰省に関してだけは、

毎年だけど、譲らなかった。



年に数回帰るけど、またこの町に戻る時は、

何ともいえない憂鬱に襲われる。



最近では、こういった本当に小さな言い合いが、

頻繁に起こるようになっていた。



加奈が産まれた当初、子供の前で喧嘩をしない、

というルールを作ったにも関わらず、

最近は守られていない。



加奈の顔がいつもと違い曇っている事に、

私は気付かないでいた。





「今年はいつ行くの?」



この日、私はあかねちゃんとランチに来ていた。



「終業式が終わったら、そのまま行くんだよ。」



「へぇー早いね。

愛ちゃん、好きなんだねー地元が。」



「そりゃそうだよーこんな町、私は好きになれない!」



「あ、ひっどい事言うねぇ?」



「だってー。でも、あかねちゃん居ないから寂しいよ。

帰った時はいつも。」



「あら、じゃあトマトジュース、届けなきゃね。」



「来ないくせにー。」




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寒い。



冬は、オシャレの幅も広がるし、

女がかわいく見える季節という理由で、嫌いじゃない。



しかし、この町の冬は、嫌いだった。



雪が降った日には、50センチ近く積もる事もあり、

この日も外には雪がちらついていた。



「愛ちゃんさぁ、今年はいつ行く?」



夕飯を食べ終え、テレビの前で何やら踊る真奈を尻目に、

佐久間さんは言った。



「どこへ?」



「実家だよ、いつ行くの?」



「あ、私は27日から行くよ。」



「27日?早いね?」



「んー早く行きたいし。

加奈と真奈の保育園が終わったら、

そのまま行くから。」



飛び跳ねる真奈とは逆に、加奈は大人しくジュースを飲み、

私達の会話を聞いているようだった。



「もう少し遅くできないの?

俺、仕事収め30日なんだけど。」



「えーやだよ、絶対に無理。

佐久間さんは後から来ればいいじゃん。」



「何だよそれ、有り得ないだろ。」



「私はもうそう決めてるの。

ねぇー加奈。」



「うん。」



加奈に振ると、加奈はよく分からない、

といった表情をしつつも答えた。



加奈は私が大好きだったから、

基本、こういう時は味方になってくれる。




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「良くない理由が見つからないよー。

あははっ!」



本当に、子供のような笑顔。



正人の見た目は確かにオッサンだけど、

この時だけは、年下の可愛い弟、

という感じに思えた。



結局、何も変わっていないまま、帰ってきてしまった。



それどころか、もう少し、

正人に甘えていたいとすら思ってしまった。



私は、正人に何を求めているんだろう。



何を、期待しているんだろう。



それからというもの、私はちょくちょく、

加奈と真奈のお迎えの帰りに、

正人のいるコンビニへ顔を出していた。



加奈と真奈もすっかり正人だけでなく、

他の店員さんとも仲良くなっていた。



正人に迷惑が掛からないように、

ちょっと話すだけで、長居はしなかった。



加奈と真奈が変に家で佐久間さんに話すのも、

私としてはマズイ事。



早いもので、季節はもう12月、

正人と知り合ってから三ヶ月くらいは経っていた。




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・・・ますます分からない。



何を考えて、何を期待して、何を求めているんだろう。



それが引っかかったまま、

しばらく正人と世間話をしていた。



「さて、そろそろ帰ろっか。」



言い出したのは、正人だった。



私から帰ると言い出さなかったのは、

これが初めてかもしれない。



帰りの車の中、私はモヤモヤしたまま、

見慣れた町並みを眺めていた。



加奈と真奈の事を考えながら。



「正人、あのね。

私・・・今の家庭を壊したくないの。

加奈と真奈とずっと一緒にいたいの。

でもね、それじゃ正人に悪いの。」



「何が悪いの?」



正人の方に目をやると、

本当に何が悪いんだろうという、

純粋な表情をしていた。



「すっごいわがままで勝手な事を言うけど、

正人はずっと私の友達でいてくれるの?」



「はは、もちろんだよ。」



「そうじゃなくて!」



笑って答える正人に真剣に言った。



「彼女と結婚しても、彼女がやきもち妬いても、

私がどこで何をしていても、

ずっとずっと、私の友達じゃなきゃ駄目なの!」



一呼吸おいて、正人はゆっくり口を開いた。



「もちろんだよ。

愛ちゃんが望む限り、ずっと友達でいるよ。」



「正人はそれでいいの?」




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「・・・ん?どういう事?」



「だから、私といても、正人にいい事ないんだよ?」



「それは前々から知ってるけど?」



「本当に下心ないの!?」



「・・・まぁ、友達だし。」



「彼女いるから?」



「・・・まぁ、いるね、確かに。」



「わかんない、正人が何でそこまでしてくれるのか。

私には分からない。」



「・・・俺にも、よく分からないよ。」



「え?」



「・・・俺、今の彼女とは、恐らく結婚すると思うんだ。」



「そういえば、正人の彼女の事、全然知らない。

教えてよ。」



「んーあんまり話したくないけど・・・。

付き合ってもうすぐ三年くらいになるのかな。

親もお互い公認で、来年には結婚すると思う。」



「へぇー。」



「勿論、彼女は俺にはもったいないよ。

綺麗で、優しいし。」



「綺麗なんだ。

優しいんだ。

へぇーへぇーそれで?」



「でも、愛ちゃんの事、いっぱい考えるよ。

この先、何にもならないって分かってても、だよ。

不思議だよね。」



「・・・私がいなくなったら、どうする?」



唐突に聞いてみたが、正人はいつもの笑顔で、

さらりと答えた。



どこまでも探しに行くよって。




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