希『あの、これは…?』
私は目の前に差し出された花を、困惑して
見つめた。
政宗に視線を移すと、いつもの余裕に満ちた
表情ではなくて、僅かに目を逸らしている。
政宗『今日は土産がないんだ。だから……
途中で咲いている花を摘んできた』
『すまないな、こんなものしかなくて……』
どこかぶっきらぼうな言い方だけど、その頬
はほのかに染まっていた。
(もしかして、照れている……?)
A.からかう
希『あなたみたいな方でも、こんな贈り物
ができるんですね』
からかうように言うと、政宗はムッとした
ように唇を尖らせた。
政宗『いらないなら、はっきりそう言えば
いいだろう』
希『冗談ですよ』
B.素直に受け取る
私はもう一度花に目を落とし、それをそっと
受け取る。
希『可愛い花……』
政宗『そうだろう。あんたに似てると思った
んだ』
希『え……』
C.遠慮する
希『で、でも……』
政宗『遠慮するな。オレが持って帰っても
枯らしてしまうだけだし』
希『そうですか?それじゃあ……』
更に突き出された花を、私は両手を受け取る。
希『ありがとうございます。嬉しいです』
自然とそんな言葉が口をついた。
政宗『え?』
希『これまでいただいたものの中で……一番
嬉しいです』
何の変哲もない、白い小さな花。
けれど、私の目にはそれがどんな貴重な宝石
よりも輝いて見えた。
政宗『どうしてこんなものが?』
希『だってこの花は、私のことを想いなが
ら、私のために摘んでくれたものでしょう?』
『政宗様の想いが込められているって分かる
から……』
手にした花に顔を寄せると、爽やかな香りが
鼻孔を満たした。
政宗『本当におかしな女だな……』
『あんたが相手だと、どうも調子が狂う』
ぽつりと呟いて、政宗は何かをごまかす
ように自分の髪を乱す。
これまでの強引さからは想像できない姿に、
私の中に新鮮な感情が芽生えた。
(この人のこと……もっと知りたい)
そう思ったと同時に、私は口を開いていた。
希『あの、政宗様。今日はお時間はあるん
ですか?』
政宗『ああ……今日はそんなに急がないが』
希『それなら、遠乗りに行きませんか?』
私の言葉に、政宗は一瞬意外そうな顔を
して、それから口元に笑みを浮かべた。
政宗『そうだな。あんたと一緒に馬を走ら
せるのは楽しそうだ』
希『それじゃあ、行きましょう!』
しばらく2人で馬を駆り、私たちは小さな川
のほとりにたどり着いた。
木の幹に手綱を繋ぎ、木陰に座って休憩する。
政宗『それにしても……あんた、本当に馬が
好きなんだな』
希『はい。この馬も、私が自分で世話をして
るんですよ』
政宗『へえ……そうなのか。女はそういう
ことは嫌がると思っていたが』
『まあ、あんたに普通の女の常識は通用しな
いっていうことだな』
政宗は草をはんでいる馬に向けて、そっと
掌を差し出す。
馬はその匂いを嗅ぐと、甘えるように顔を
擦りつけた。
希『あ……』
政宗『ん?どうかしたか?』
希『いえ……。この馬が私以外の人に懐く
のは珍しいので』
政宗『そうか。本当に利口なんだな』
希『どうしてですか?』
政宗『主人が誰なのかはっきり分かっている
ということだろう』
『そういう馬は確かに扱いづらいが、戦場
でとても頼りになる』
希『政宗様の馬も立派ですよね。黒い毛が
とても綺麗……』
政宗『そうだろう?こいつとはもう長い付
き合いなんだ』
政宗『こいつも気位が高くてな。オレ以外
は乗せようとしない』
そう語る政宗の笑顔は子供のように無邪気
で、本当に馬が好きなんだと分かる。
希『ふふっ。きっと性格はご主人様に似たん
でしょうね』
政宗『主人って……オレのことか?』
希『はい。政宗様も、そうそう人に従う性格
には見えません』
政宗『なかなかよく分かってるじゃないか』
会話が途切れると、爽やかな風が2人の間を
吹き抜け、木々の梢を揺らした。
(不思議……この人と、こんな風に話ができる
なんて)
(強引で傲慢(ごうまん)で、どうしようもなく
嫌な人だと思っていたのに…)
いつの間にか、心の距離が近づいた気がする。
会話の合間に訪れる沈黙すらも、どこか心地
いい。
政宗『いい天気だな。暑いくらいだ』
政宗が空を見上げ、額に手をかざす。
希『そうですね。水浴びしたら気持ちよさ
そう……』
政宗『一緒に浴びるか?』
希『え……』
政宗『それとも……もっと希持ちよくなる
ことでもするか?』
希『な、何言ってるんですか!』
意地悪く笑って私を見つめる政宗は、明らか
に私の反応を楽しんでいる。
そうと分かってはいても、私はやっぱり、
顔を赤らめて声を上擦らせてしまう。