政宗『ハハッ。顔が真っ赤だぞ』
笑いながら私の頬を指先でつつくと、政宗
は鞍(くら)に付けてある竹筒を外し、口元に
運んだ。
上を向き、水を飲むたびに上下する喉仏を、
思わずじっと見つめてしまう。
(男の人なんだなあ……)
そんな当たり前のことを考えつつ、そこに
男性ならではの色気を感じてしまい、
慌てて首を振って邪な考えを追い払う。
政宗『……何しているんだ?』
希『な、何でもない』
思わず素に戻り普段の口調で言ってしまって
から、私は口を押さえた。
希『あ……申し訳ありません』
政宗『いや。……その方がいい』
希『え?』
政宗『あんたにかしこまった口調で話される
と、何だか距離を置かれているような気が
する』
『そういう話し方の方がいい。名前も"様"
なんて付けなくていいから』
希『いい……の?』
政宗『ああ。その方が、あんたに合ってるよ』
希『分かった。……ありがとう、政宗』
(不思議。呼び方と話し方を変えただけで、
また一歩、政宗に近づいたみたい……)
竹筒を煽る政宗を、そっと横目で盗み見て
いると、こちらを向いて視線とぶつかった。

政宗『あんたも飲むか?』
希『あ……うん』
私が頷くと、政宗はニヤリと笑って、もう
一度、竹筒から水を口に含む。
次の瞬間、伸びてきた腕に肩を掴まれ、
ぐい、と引き寄れられた。
希『あっ……』
乱暴に唇が合わされ、その間から水が流し
込まれてくる。
希『ん……っ』
生ぬるい水を飲み込むと、その後を追うよう
にして熱いものが唇を割って侵入してきた。
政宗『……っ』
政宗の、少しだけ乱れた息づかいが頬を
くすぐる。
中に入ってきたものは私の舌を捕えると、
逃がさないというように執拗(しつよう)に
絡みついた。
希『ふ……っ、ん……』
初めて経験する濃厚な口づけに、頭の芯が
クラクラ揺れる。
(息が、苦しい。でも……抗(あらが)えない……)
政宗『希……』
いったん離れた唇が甘い声で私の名を呼び、
再び押し付けられた。
私は誘われるように小さく唇を開き、それを
受け入れる。
肩の辺りに政宗の重みを感じたと思ったら、
力の抜けた身体は草むらに押し倒された。

政宗『……』
艶めいた眼差しに至近距離で見つめられ、
息が詰まる。
政宗『……抵抗しないのか』

A.嫌じゃない
希『嫌じゃない……から……』
消えるような声で答えると、政宗が私の
首筋に唇を落とした。
希『あぁ……』
思わずこぼれてしまった声はそれと分かる
ほどに甘く、私は羞恥(しゅうち)できつく瞼
を閉じる。
政宗『フッ……敏感なんだな』

B.無言で頷く
私は顔が熱くなるのを感じながら、無言で
頷いた。
政宗『あんたが従順だと、まるで別人みたい
だな』
揶揄(やゆ)するように言って、政宗が私の
首筋に口づける。
希『あっ……!』
身体の芯が甘く痺れ、私は思わず小さく声を
上げた。

C.目を逸らす
政宗の視線に耐えられず、私は目を逸らした。
(どうしよう……なんて答えれば)
政宗『何も言わないなら……了承と取る
けどな』
私が迷っている間に、政宗はそう呟いて私の
首筋に唇を押し付ける。
希『あっ』
反射的に跳ねた身体は、政宗の手によって
押さえつけられた。

希『ん……、あっ……』
政宗の舌が、私の首筋の感触を確かめるよう
にゆっくりと這(は)う。
力強い掌(てのひら)が着物の上をまさぐる
ように動き、私は厚い胸板の下で身体を
捩(よじ)られた。
(もしかして、このままここで……?)
すべてを受け入れようと、目を閉じた瞬間。
政宗『……やめた』
希『……え?』
不意にそう呟いて動きを止めると、政宗は
私の上からゆっくりと身体を起こした。
希『どうして……?』
(私いま、抱かれてもいいと思ってた……)

一抹の寂しさを覚えて政宗を見つめると、
彼は私の手を掴んで地面から引き起こし、
真剣な瞳で私を見据えた。
政宗『言っただろう?あんたの方からオレの
元に来させてやるって』
『今のあんたはオレに流されてるだけだ。
まだオレに対する気持ちが足りない』
政宗が私の頬に触れ、間近で瞳をのぞき込む。
揺るぎないその隻眼(せきがん)から、私は目
を逸らせなかった。
政宗『オレはただあんたを抱きたいんじゃ
ない。身も心も、オレのものにしたい』
『いつかあんたがオレを求めて……オレなし
じゃいられなくなったら、そのときは抱いて
やるよ』
希『……っ』
ニヤリと笑い、私の頬に軽く口づける。
その仕草が自信に満ちあふれていて、私は
思わず反発したくなった。
希『だ……誰があなたみたいな男に』
政宗『おっ。ようやくいつもの調子が出て
きたな』
どこか嬉しそうに笑うと、政宗は私の身体に
ついた草を乱暴な手つきで払う。
希『痛っ。ちょっと、女性に対する礼儀を
知らないんじゃないの?』
政宗『あんたのことは、これ以上ないほど
丁寧に扱ってるつもりだけどな』
フン、と鼻を鳴らして政宗が言い放つ。
(確かに……もし、私のこと、ただの遊び相手
だと思ってるなら、さっきあのまま抱いてた
よね)
私の身も心も自分のものにしたい、と言った
政宗。
(それはきっと、私の気持ちを尊重しようと
してくれているから……)
(私のこと……本気で好きで居てくれてる
って、思ってもいいの……?)
胸が高鳴るのを感じながら、私は心の中で、
政宗の広い背中に問いかけた。


4話予告
『オレは会いたくて仕方なかったけどな』