私が城に戻ると、蹄の音を聞きつけた
家臣が庭に出てきた。
家臣『希様、お館様からご連絡がありました』
『最近、伊達政宗と思われる人物が、この
領内に出没しているようだ、と』
希『えっ……』
思わず足を止めて、家臣の顔を凝視して
しまう。
家臣『どうやら領内を探っている様子です。
どうか充分お気を付けてくださいませ』
希『そ、そうなの……怖いね。分かった』
政宗『実は、信長がこのところ気弱になって
いて、近々引退するという噂があってな』
『それがどうかを確かめにきたんだが……』
政宗に初めて会ったときの言葉を思い出す。
(そうだ。あの人は父上の敵。親しくしていい
はずなんかないのに……)
分かりきっていることなのに、私は故意に
そこから目を逸らしていたような気がする。
(どうして私は、政宗に会ったと家臣に言わ
ないんだろう?)
自分の行動を信じられない気持ちで思い返し
ながら、無意識に自分の唇を指先でなぞる。
その途端、口づけられた感触がよみがえって
きて、私は慌てて首を振ってそれを
打ち消した。
数日経って、私はまたあの場所に出かけた。
(別に、政宗に会いたい訳じゃない……)
(ここに来ていることが噂になってるって、
忠告するだけだから)
そんな風に、自分に言い訳しながら。
政宗『よう。今日はオレの方が早かったな』
いつもの場所に立っていた政宗は、私が
現れると無邪気に微笑んでみせた。
その表情を見た途端、私も知らず知らずの
うちに笑顔になってしまう。
政宗『その笑顔……オレに会えて嬉しいん
だろ?』
希『ま、まさか』
政宗『オレがいるって期待して来たんじゃ
ないのか?オレのことが気になってる証拠だ』
希『そんなはずないじゃありませんか』
私が顔を背けて手綱を木に結んでいると、
政宗はまた懐から包みを取り出した。
政宗『ほら』
当たり前という風に差し出される包みを、
私は仕方なく受け取る。
中から出てきたのは、螺鈿(らでん)細工の
かんざしだった。
希『いただけないと申し上げたはずです』
包みを押し戻すと、政宗は僅かに眉をひそ
める。
政宗『本当におかしな女だな。普通、女は
こういうものをやれば、喜んでオレに身体を
捧げるのに』
選択A.呆れる
希『一体、どれだけの女性にこうやって口説
いてきたんですか?』
政宗『さあ……いちいち数えていないからな』
真顔で考え込んでいる様子からすると、どう
やら冗談を言っているのではなさそうだ。
はあ、とため息をつくとら政宗はどこか
嬉しそうに私の顔をのぞき込んだ。
政宗『何だ?やきもちか?』
希『呆れてるんです』
選択B.怒る
希『私を、これまでの遊びのお相手と一緒に
しないでください』
政宗『それは、あんたを特別扱いしろって
ことか?』
希『そ……それは……』
政宗『安心しろ。あんたのことは遊びなんか
じゃない』
『そうじゃなければらこんなに何度も会いに
来たりしない』
真剣みを帯びた声音に、心音が高まっていく
のを感じてしまう。
選択C.無視する
希『……』
私は政宗を冷たくねめつけると、ふいと顔を
背けた。
政宗『おい、無視することはないだろう』
希『くだらないお話に付き合うつもりはあり
ません』
政宗『まったく……あんたみたいな可愛げの
ない女、相手にするのはオレくらいだぞ』
希『頼んでいませんけど』
希『それより……噂になっていますよ』
政宗『噂?何がだ?』
希『このあたりに伊達政宗が出没している
ようだと』
政宗『何だ、そんなことか』
拍子抜けしたように、政宗は肩をすくめる。
希『そんなことって……織田の兵士に見つ
かりでもしたら、大変なことになります』
『あまり頻繁にいらっしゃるのはやめた方が
よろしいのでは……』
言葉を切って政宗を見ると、その顔には堪え
きれないという感じの笑みが浮かんでいた。
政宗『あんた、オレを心配してくれるのか?』
希『べ、別に……』
政宗『でも、織田の兵士に密告したりはして
ないんだろう?』
『話そうと思えば、いくらでも話せるはず
なのに』
希『それは……』
政宗『認めろよ。あんたはオレのことが気に
なって仕方なくなってる』
『だからこうやって、オレに会いに来る。憎
まれ口を叩きながらもな』
希『あっ……』
腕を掴んで引き寄せられ、あっという間に
強い力で抱きすくめられる。
希『は、離してください!誰があなたみたい
な、軽薄な男のことなんか……!』
政宗『……少し黙れ』
もがく手首を掴まれ、強引に唇を塞がれる。
初めての口づけよりも深く唇を重ねられ、
私の身体から力が抜ける。
希『ん、んっ……』
角度を変えて、何度も貪(むさぼ)るように
口づけられて、私は頭の中がぼんやりして
くるのを感じていた。
(この人は父上の敵なのに……女好きでどう
しようもない男なのに……)
そう考える頭と裏腹に、私の身体は政宗を
受け入れてしまう。
やがて私は思考することを放棄して、全身
を政宗の力強い腕に委ねていた。
3話予告
『もっと気持ちよくなることでもするか?』