リングサイドで野次を聞いた ~独善的ボクシング論 -2ページ目

リングサイドで野次を聞いた ~独善的ボクシング論

マニアの隠れ家を目指します。
中津の生渇きの臭い人はお断り。

パリ五輪がたけなわです。

東京での開催はコロナの影響もあったりしましたが、いろいろと中抜き目当てなのか余計なことで関わる人達が多くて、またIOCの守銭奴ぶりも目の辺りにして素直に楽しめませんでしたが、単純にテレビやPCの画面の中だけで十分に堪能出来てます。

まあ生観戦したい人は普通に現地に行きますしね。

さて、注目度からすると柔道なのですが、前回の東京が出来すぎということもあって、今回は苦戦を強いられてます。

そして今回、その不振から柔道からJUDOになったから勝てなくなった論や武道からスポーツになったからダメになった諭を語る方も出てきました。

これはボクシングでいうと拳闘がボクシングになってダメになったという意見に近いんですかね。確か、「狂気に生き」の中の西出兵一氏の言葉で出てきたのかな・・・

戦前のピストン堀口に代表される打ちてしやまんの試合スタイル、相手の攻撃に対して攻撃で対抗して後ろへ下がらないことが尊ばれた時代。拳闘は気力・体力・精神力の戦いでした。

しかし戦後の白井義男とカーン博士の持ち込んだ科学的なスタイルによって拳闘はボクシングに進化しました。

打ちつ打たれつから打たせずに打つへ。防御や技巧の進化。

結果、戦後に白井義男から数えて武居由樹で男子世界王者を100人輩出するまでになりました。

 

柔道が勝てなくなったのは日本が弱くなったからでも、ルールの影響でもないです。世界に広がったので単純に周囲のレベルが上がったからに過ぎません。

武道などは「道」なので個人がその心の奥底にしまっておけばいい。選手や指導者が負けた言い訳に武道でなくなったからとか、JUDOになったからということを言ってないわけで。

日本のボクシングも拳闘という概念はとっくの昔に捨て去りましたが、それでも井上尚弥という怪物を生み出しましたよ。

日本の柔道も国際スポーツですが何人も怪物を生み出してますので今のまま突き詰めていけばいいと思います。

 

武居由樹の世界王座獲得、何かと話題を振りまきつつも確実な進化が見える那須川天心、日本王座を視野に入れた左右田基光などキック畑転向組の活躍が著しい。

一昔前まではボクシングとキックは互換性がよろしくなく、期待して転向しても互いに実績を残すことが出来ませんでした。

国際式からキックに転向した西城正三と金沢和良。

キックから国際式に転向した島三男と土屋ジョー。

K1に転向した大東旭も渡邊一久も思った通りの結果は出せませんでした。鈴木悟みたいに執念でSBの日本王座を奪取した例もありましたが・・・

さて、近年、キックからの転向組としては土屋修平が日本王座、藤本京太郎が東洋の王座を獲得したのが記憶に新しいですが、先日は武居由樹が世界王座までたどり着きました。

しかも、デビュー10戦かからず、しかも決定戦などに頼らずの堂々の戴冠です。

那須川天心も4戦で世界ランカー撃破、試合ごとに課題を捻りだしてそれをクリアしていくなど目に見えて進化の速度が速い。

デビュー戦と見比べると明らかに別人です。これだけの期間でここまで変わるケースもちょっと見当たらないですね。

また、上記二人に比べると活躍は地味ですが、左右田泰臣も日本ランクを確実に上げてきて、来年には王座挑戦も視野に入ってきてます。

個人の資質もあるでしょうが、これは現在のキックの主流となるルールが変わってきたことが大きいと自分は思います。

90年代に出現したK1から派生した肘無しキックはボクシングとの互換性を高める役割を担ったのではないかなあというのが持論です。

 

①肘無し、首相撲制限有ルールが主流になったこと

いわゆるクリンチ状態の攻防が制限されることで、距離を取っての打ち合いが主流になってくる。ただ、相手のバランスを崩してコカしたり、首相撲の攻防での膝の打ち合い等が無くなってくるのでそこは寂しく感じるところ。

 

②3R制が主流になったこと

ラウンド数が減ったことでパンチ主体の試合が多くなった。

ローキックはボディブローと同じで基本はダメージの積み重ねなので極端に効かせる打撃でなければ3Rで効力は発揮しずらい。

そのため、脚が蹴りに対して耐性があれば、カットの手間を省いてパンチで攻める試合展開が多くなってきた。

 

ボクシング・キックとも揶揄される位にパンチの占める割合が増えてきたので勢いボクシングとのシンクロ率が高くなってきたのではないかと推察します。

プロボクサー人口は減少してると言われてますが、アマからの流入は増えてますし、他の格闘技からの転向→アジャストがしやすくなってくると全体のレベルは上がってくるので過剰な心配は不要なんではないかなあと個人的には思うのです。

 

 

𝐊𝐚𝐝𝐨𝐞𝐛𝐢 𝐁𝐨𝐱𝐢𝐧𝐠 𝐆𝐲𝐦. 角海老宝石ボクシングジム ...

真夏の暑い中、行ってきました後楽園。

高山涼深の欠場でタイトルマッチが一つ流れたのは残念でしたが、バルコニーが西側だけでも復活してたのでヨシとするか。

当日券4400円があるのも有難い。今は最低でも6000円という興行が当たり前になってるのでね。

2020年2月27日以来のバルコニー。あのときのメインは長浜陸vsクドゥラ金子だった。コロナ禍があの後に始まって大変だったけど、戻ってきたなあと実感。(実はもっと前からバルコニーを解放した興行もあるのだけど、自分が来場した興行では今回が初になります。)

さて、試合をば。タイトル戦が一つ飛んでも7試合あります。

 

1.東日本新人王予選Sバンタム級4回戦

※阿部一力(大橋)vs八谷洋平(RK蒲田)

右の阿部に対して左の八谷。阿部が1Rから好調に試合を組み立ててた矢先に2R、八谷が左ストレートでダウン奪取。

リングサイド最前列で笑みを浮かべながらも目が笑ってない様に見える大橋会長にプレッシャーを感じたのか、阿部も奮闘。

着実に3,4Rを獲って3-0判定勝ち。

阿部は3戦2勝(1KO)1敗。八谷は4戦2勝(1KO)2敗。

 

2.東日本新人王予選フェザー級4回戦

※山川健太(大橋)vs北本慶伍(三迫)

北本、でかいなというのが第一印象。そして試合は豪快。

山川を飲み込む様な北本のパワフルな豪打が冴える。右のストレートが結構、いいアングルで決まり早くもダメージは明白。

2R、北本が左からつないでの右ストレートでダウン奪取。起き上がったものの暴風雨の様な連打でレフェリーストップ。タイムは2R1:55、北本TKO勝ち。

北本は2戦2勝(2KO)、山川は6戦4勝(3KO)2敗。

大橋会長、苦笑してたが目は笑ってない様に見える。

 

3.東日本新人王予選ライト級4回戦

※山口聖矢(大橋)vs本多俊介(E&Jカシアス)

MONSTERの親友にして元Jリーガーの山口だが、長身の本多のジャブに入って来れず攻めあぐねる。それでも内懐へ入って左右フックを振るう。2Rまではやや本多優勢。

3R、本多が右ストレートを打ち下ろすと山口が痛烈なダウン。

ここは立ち上がったものの、本多が連打をまとめていく。ここでストップがかかってもおかしくない位だった。

しかし、山口がこの後、左フックでダウンを奪い返す。フラフラな本多が辛うじてゴングに助けられるものの、場内、逆転への期待も膨らむ。

4Rはそれでも本多が山口を攻め立てて終了。判定は2-0で本多。う~ん・・・ここまで一番場内沸かせた試合だが、レフェリングがどうしたものかという感想が先だった。

本多は5戦5勝(2KO)、山口は3戦2勝(1KO)1敗。

 

4.日本ユース・Sバンタム級王座決定戦

※金城隼平(REBOOT)vs平井乃智(石田)

右の平井に左の金城。

金城がリードの右手を前に出して距離を測りながら左を振っていくというスタイルで序盤からペースを掴む。

3R、金城が後半に右フックでダウン奪取。その後も試合のペースを譲らずにラウンドを重ねていく。

7R、金城の連打に平井がダウン寸前。ここはストップかなぁと思ったが、そのまま続行でゴングに逃げ切った平井。

そして8R、金城がやはりコツコツとパンチを当てていき、ラウンド終了間際でダウン奪取。レフェリーがそのままストップ。

金城が最終8R2:56TKO勝ちで王座獲得。

新王者の金城は3勝(2KO)、平井は13戦8勝(1KO)5敗。

ちょっと最後は倒れる前にストップで良かったのではないかなあ。概してこの日のレフェリングはあまり良くないという感想。

 

5.アジア最強ライト級トーナメント準決勝8回戦

※齊藤陽二(角海老宝石)vsウー・ユンハン(中国)

序盤から近い距離で打ち合う両者。ウーが手数で上回るも、一発のインパクトは齊藤。ボディが決まる度に場内どよめく。

2Rに早くもウーがボディを打たれるのを嫌がる仕草を見せる。

3Rにはウーが足を使って回り込みながらサイドからパンチを打つが齊藤は構わずボディ一択。

そして4R、終了間際に齊藤の物凄いボディが炸裂してウーがしゃがみこむ様にダウン。そして悶絶。10カウント。

4R3:07で齊藤のKO勝ち。

決勝に駒を進めた齊藤は13戦8勝(8KO)3敗2分。

ウーは6戦4勝(1KO)2敗。

 

6.アジア最強ライト級トーナメント準決勝8回戦

※今永虎雅(大橋)vsマービン・エスクエルド(比国)

先日のダイナミックで帝拳ホープの金子が伏兵のフィリピン人に1RでKO負けしたこともあり、不安が払拭出来なかったが杞憂に終わった。

1Rから金子の動きが切れてる。横へ回り込むステップ、上下の打ち分けの見事さに場内感嘆。

エスクエルドも尾川と判定まで粘った選手なので金子も苦戦するかと思われたが、試合は早くも一方的になる。初回終了間際に右フック、左ストレートが炸裂してエスクエルドがグラつく。

2R、身体ごと突っ込んできたエスクエルドにボディを合わせるがタイミングがずれて背中の辺りに命中。キドニーブロー?と思ったが、ダウン宣告。起き上がったところにボディを決めてダウンを追加して試合終了。

見事な勝利だが、1度目のダウンの裁定は・・・う~ん・・・

抗議が無かったからいいのか?なんだかな。

金子は6戦6勝(5KO)、エスクエルドは22戦17勝(11KO)4敗1分。

 

7.日本バンタム級選手権10回戦

※富施郁哉(ワタナベ)vs増田陸(帝拳)

高山の防衛線が中止になったので単独の日本タイトル戦がメイン・イベント。両者サウスポー同士。

増田の左の強打に臆せずに富施が積極的に出ていく。打ち下ろしの左を食らいつつもワンツーで応戦。終了間際に富施の左が好打した様に見えたがペースは増田に傾く。

2R以降は富施が圧力を強めていく。左をねじ込み、右フック。

増田はちょっとディフェンスが良くない様に見える。ここらへんはやや富施が有利か。

3R,富施のパンチで増田が右目上から出血。富施が明確に試合を創りつつあったが、4R、富施の連打に下がりながら増田が右フックを叩き込みダウン奪取。

起き上がった富施だが、レフェリーが顔を覗き込んで試合を止めた。やや早めのストップと見る向きもあったが、試合後の富施の記憶は途絶えていたらしい。何かとこの日のレフェリングには不満があったが、最後の最後で良い裁定を下してくれた。

4R2:21、増田のTKO勝ち。

日本王座を獲得した増田は6戦5勝(5KO)1敗。

初防衛に失敗した富施は18戦14勝(3KO)4敗。

 

増田はバンタム級ウォーズに介入しても良いかもですが、堤に一度負けてるのでまずは日本王座の防衛線で実績を創って欲しいですね。この階級は他にも同門の那須川もいますし、凄い階級になってきたものです。

試合終了は20:45。しかもこの日はドームで野球もライブも無し!試合後は途中からホールに駆け付けた太陽と海さん、達人先生とその知人お二方を交えて会食。いろんな話が聞けて面白かったです。やはり21時前終了が理想だよなあ。

 

先日行われた七夕決戦。井岡一翔vsフェルナンド・マルティネスはいろいろ考えさせられる試合だった。

試合の予想としてはマルティネスがプレッシャーをかけながら前進して左右フックを振り回し、井岡が左ジャブで止めつつ、細かなステップでいなしてポイントをピックアップし判定勝ち・・・

と予想してたのだが、結果は外れてしまった。

井岡は基本、アウト・ボクサーではあるのだが、結構自分から距離を詰めてのインファイトに活路を見出す試合もあり、接近戦も上手い印象がある。例えばシントロン戦であり、パリクテ戦であり。ただ、本格的なゴリ押しをされるとペースをなかなか握れなかったりする。これはフランコ1とかかな。

マルティネスは過去の相手の中でも一番の圧力を持ったファイターだが、それでもフランコとの2戦を経験した井岡が捌くのではないかと思ってた。

 

誤算としては

①思ったよりボディが奏功してないこと

序盤からボディを好打して一瞬、マルティネスの動きがあからさまに落ちたので後半効いてくるのかと思ってたが、あまりに早い段階から綺麗に決まったので、警戒されて後半には上手く対処されてしまった気がする。ここはマルティネスの対応を称賛すべきだろうか。

フライ級までならレベコ2みたいにある程度、短いラウンドで効かせる即効性もあったがSフライで格別のフィジカルを持つマルティネスが相手だったから本格的に効く前に対処されてしまったのかなあ。

②顔を跳ね上げられるシーンが多かったこと

実際は井岡の芯を外したであろう受け方が上手かったので、思ったほどダメージは無かっただろうがジャッジの印象はやはり良く無かった様に思う。時に攻勢を取っても結構、これで相殺された様な気がする。

あとは左ジャブでマルティネスを止めきれなかったとか、後半に足を使うのはマルティネスだったりするのでこれも意外だったと言いますか。

 

今後、井岡はどうするのか。バンタムで5階級制覇を狙うみたいな展望記事もありますが、ミニマムから上げてきてSフライでは水増し感もあるのでバンタムでは今以上に苦戦を強いられる気がする。

Sフライでマルティネスに再戦を挑むのが現実的な気がする。

WBOの田中恒成に挑もうと思えば、田中陣営も再戦を望んでるので二つ返事でまとまりそうな気がしないでもないが、以前にこの階級で完勝してる井岡が納得しそうな選択肢では無い気がする。このまま引退の可能性もあるだろうが、とりあえずは身体を休めてからにして欲しい。

一極集中という言葉がありますね。

一か所に力や権利が集まってしまい、他はその恩恵を受けることが無いわけですが、最近の業界ではいろいろとその功罪が表れてる様に思います。

 

1.帝拳・大橋への有力選手の集中

特にトップアマが極端にこの2ジムに集まってる様にも思います。以前なら三迫や角海老、協栄といったところへも程よく分散されてたのである程度、キャリアを積んだ有望株同士がその節目節目で対戦する楽しみもあったのですが、同門となると・・・

また、アマ経験が豊富な選手は対戦を断られることが多々あるのでキャリアの前半がフィリピンとか韓国、タイ人ばかりだと萎えますね。

サウジのプロモーション対抗戦みたいにこのトップアマ同士で帝拳vs大橋の対抗戦とか出来ないものですかね。

 

2.世界王座の独占

これはバンタムの4王座を日本人が独占というのもありますが、大手が良く使う手法として先輩王者が後輩のために王座を返上→後輩が決定戦で戴冠のパターンです。

例えば最近の例でいうと・・・

井上尚弥がWBAバンタム返上→決定戦で拓真が戴冠

中谷潤人がWBOSフライ返上→決定戦で田中恒成戴冠

※田中も帝拳系列に参加したということでもありますね。

昔は王座を陥落した先輩王者のために後輩が挑むというパターンが多かったと思うのですが、勝負の世界で誰も傷つかずに王座を禅譲するのはタライ回し以外に他ならないです。

世界王座の4団体認可で選択肢が増えたことの弊害でもあるのですが、国内でもWBO-APやユースの認可等で従来の日本王座やOPBFをすっ飛ばすのは感心出来ないです。

価値暴落中のOPBFはともかく、日本王座は雑に扱って欲しくないなあ・・・

 

昨今の国内情勢は確かに帝拳と大橋に権利、権力が集中してるわけで健全とは言えない状況ですが、では他のジムはどうなのか。

トップアマが上記二ジムを選択するのは最高の練習環境と結果を出せた場合のプロとしての見返りが期待出来る事でしょう。

それは金銭面であったり、マッチメイクであったり。

このニジム以外でそれが期待出来るジムはほとんど無い。

選手育成だけでなく、要所要所でステージを上げてくためのマッチメイク(選手招聘力)、相応の舞台を提供(興行力)する力が無ければ選手も魅力を感じないだろう。

むしろ下手に勢力が分散されてるよりはどこかのジムやプロモーションが大きな力を持って引っ張っていかないとamzon primeやNTTドコモみたいな大口と繋がりを持ったりは出来ないだろうし、ましてや東京ドームで日本人のタイトルマッチがメインで興行を行うということも出来なかった様にも思う。

 

ただ、力を持ったところが自分のところの選手可愛さに独裁を始めてしまうと業界のまとまりも悪くなっていく。

帝拳、大橋がイニシアチブを取りつつも、要所でそれに対して明確に対抗出来る業界内の対抗勢力(良い意味で)が出てきてくれれば良いのであろうが。

そして、それは3150では無いはずだ。絶対。