会話らしい会話がないにも関わらず
彼は飽きずに 私を毎日車で待っている。
少しも飽きることなく。
まして、どことなく、
停滞した空気を楽しんでいるかのような奇妙な余裕さえみえる。
少し異例で、私だけは午後からの出勤だった。
私の仕事場へ行くには彼のいる作業場を通り抜ける必要があった。
必然的に彼の昼休みが終わる頃にそこを通り抜けていくことになる。
誰かがいるのは知っていた。
何となく新参者の私は彼のいる方向に顔を向けるともなく
「おはようございまぁ~す」と
会釈をしながら、明るく愛想を振りまいておいた。
これが彼の目にとまっていた。
一緒に帰るようになって1ヶ月が過ぎた頃、
彼は助手席にいる私の距離を
疎ましく思ったのか、こう呟いた。
「俺の部屋に来ても この距離に居れる?」
くどいが、たいして会話という会話がなかっただけに
問いが理解できなかった。
「部屋がこの車くらい狭いなら必然的に
そうなるんじゃない?」
私は、発作的に自分を守るような、
愛想のない返事をしていた。
当然、彼から何かしらの返しがあるわけでもなく
また相変わらず奇妙な空気感を漂わせながら、
車とは思えない、
一端のカフェのような音楽空間を保ちながら、
邪魔なはずのエンジン音が微妙なスパイスを効かせてくる。
軽く溜息が出た。
「音楽のせいだ。こんなの変だ!!
本当は居心地が悪いはずだ。音楽が心を操作してるんだ」
心を二分する空気に、混乱していた。
何とか理由をみつけようとしていた。
しかし、次の瞬間、そんな試行をいとも簡単に砕いてみせる。
http://www.youtube.com/watch?v=WDdleGysNys
そうきたか!!
Radiohead のLast Flowers…。
憎たらしいほど、演出してくる。
もともと音楽好きの私の脳を完全に
新しい心地よさで
支配しようとしていた…