モデル達にとって絶大な存在であるスティーヴン・マイゼル。そしてマイゼルにとって切っても切り離せない存在であるモデル。
マイゼルは言わずと知れたファッション界の天才フォトグラファー。ファッションフォトの第一人者として1980年代からトップ中のトップを走り続けています。そしてモデルの発掘・教育に関しても才を持っている方。
めったに、と言うかほとんどメディアに出ることがなければインタビューにも応じないことでも有名。で、そんな希少価値の高いマイゼルのインタビューを見つけてしまったので(しかもモデル関連だったので)ご紹介したいと思います。あ、私個人は一番好きなフォトグラファーは、と聞かれて「マイゼル!」と即答するほどではありません。
因みに…今まではそんな風に書いてこなかったのですが、この訳ではマイゼルの言い回しを「女性口調」とさせて頂きました。
えぇ、そうなんです。ご存知の方も多いと思いますが、マイゼルっていわゆるオネェなんですよね。80年代のマイゼルの撮影風景を収めた映像をみたことがあるのですが、まぁそりゃ100%でしたよ。(何が100%なんだか)しかもテンションMAXで面白い。まぁ、はたから見たらフォトグラファー界随一のイケメンですけどね。
French Vogue in the March or April issue 2004.
Interviewed by Ingrid Sischy
Translated by Mia (thank you for nanker phledge on tfs)
Ingrid Sischy(以下I.S):では、あなたの好きなテーマについて話しましょうか…。
Steven Meisel(以下S.M):モデル。そうね…。
I.S:その話題に移る前に、読者に向けてそれとない話をしておいた方がいいと思うんだけど。初めてモデルに魅かれたのはいつ?
S.M:実はそのことについて、あなたを呼ぶ前に考えていたのよ。
I.S:つまり、あなたが私の電話を切る前ね。
S.M:(笑) そうね…雑誌の中のモデルに魅かれたのが初めてだったと思うわ。
I.S:ハイスクールのとき?それとも美術学校時代?
S.M:いえ、違うの、小学校のときよ。ほとんど行っていなかったけどね!(笑)多分、10歳くらいのときかしら…。
I.S:嘘でしょ!私なんてInterview誌で働くまでモデルが何なのか全然知らなかったっていうのに!何があなたをそんなに惹きつけるの?
S.M:モデル自体がアイディアなの…子どもの頃はしょっちゅう絵を描いていたのよ。
I.S:何を描いていたの?
S.M:本当に幼いうちに美しさの魅力と言うものについて気付いたんだと思う。子どもの頃はおもちゃなんかで遊ばずに、モデルを描いていたの。特に女性のね…。
I.S:なるほど、誰を描いていたの?
S.M:家族。よくVogueやHarper's Bazaarなんかからインスピレーションを受けて描いていたわ。すごく小さいときからファッション雑誌を読んでいたの。それが写真としてなのか、女性の美しさに惹かれたのかわからないけど、多分両方だったんでしょうね。当時は夢を見ていたの。それが今こういう形になってる…。
I.S:夢?
S.M:その時代の上流階級の女性達への憧れ。グロリア・ギネスやベイブ・ペイリー…彼女達は上流社会と美しさとを同時に体現しているようなものだったわ。本当に彼女達は素晴らしかった。
I.S:実生活でそれは誰だったの?
S.M:母ね、確実に。きっとみんなもそう思ってたと思う…。
I.S:あなたのお母さん、エリザベス・テイラーに似てると思ったんだけど。
S.M:私もそう思う!(笑)彼女は本当に美しいのよ。姉も似ているの。
I.S:美術学校で習ったの?
S.M:57番街のハイスクールでアートとデザインは学んだ。アートに関しては定期授業と4~5個の講座を取っていたの…。でもマリファナを吸ってない時か、プロテストに行くときに受けるくらいだったわね(笑)
I.S:その頃は雑誌のモデルを描いていたの?それとも実生活の誰か?
S.M:雑誌の中。
I.S:誰だったかは覚えてる?
S.M:全員覚えてるわ!確か、その頃は、ツィギーやヴェルーシュカ 、ジーン・シュリンプトン がスターだったから。ハイスクールのときはもうみんなに夢中だった。
I.S:その後で、あなたはパーソンズ(*1)へ行ったのよね?そしてファッションイラストレーターになって。
S.M:そう、始めの年は全然違う方向に進むか決めなきゃいけなくて、でもよくWomen's Wear Daily(以下WWD)を読むのが好きだったから「オーケー、ファッションイラストレーターになるわ」って思ったの。
I.S:パーフェクトな道筋みたいね。
S.M:実際、イラストレーターとしての初めての仕事はホルストン・ヘルテージとだったの。
I.S:そして当然そこでは最高のモデル達とも会えたんでしょう?
S.M:そうね、でもそれは少し先の話よ。
I.S:それはどうやって?
S.M:そこでね、小学校の頃のストーリーについてもう一度考えてみたの、当時魅了されたものについてね。たまに雑誌がモデルの名前を載せてくれることがあるでしょ。でも当時はもっとアンダーグラウンドなものだったし、女の子達の名前は書かれていなかったの。きっとこの業界の人たちもドヴィマ(*2)について、ジーン・パチェットが誰なのか、50年代の女の子達のことを知りたかったはずだと思う。でも彼女達は有名でもなんでもなかった。だから時々名前を知ることがあったり、「あぁ、この子Vogueで見たことある」って見覚えがあることがあったの。それがモデルについて色々学ぶようになった始まり。当時はMTVなんてなかったし、情報も何もないから自分で全て集めるしかなかったのよ。
それでエージェントっていうものがあるって知って。12歳くらいの頃だったわ、大人っぽい声の女友達を使って、彼女達を秘書に成りすませて電話を掛けさせてたの。“ハロー、こちらリチャード・アヴェドンのオフィスの者でございますが。これからあなたの写真を取りにこちらの者を向かわせますので”って。それで私はモデル達を迎えに行くの!どうしてみんな来てくれたのかわからないけど、ちゃんと来てくれたのよ!
I.S:あなたの運命だったのね!
S.M:そうね。彼女達に私が不審者に映らなかったのが不思議なくらいだけど、みんな写真をくれたわ。まぁ、最終的にモデルキャッチは終わらせたんだけど、それも少し経ってから。とにかく写真は沢山手に入れても、その女の子達が誰なのかはわからないままだった。
あなたに送った1966年のヘッドシーツは見たかしら?
I.S:えぇ、見たわ。
S.M:12歳の頃に持っていたものよ。
I.S:信じられない!それと写真にはこんなことも書き添えられているわね、“初めての。12歳。”女の子のオレンジ色のポートフォリオね。これがマイゼルの始動って感じ。
S.M:モデル事務所やフォトグラファーの周りをうろついていた時期のものなの。電話帳でリチャード・アヴェドンの居場所を調べたこともあったわ。当時彼は57番街に住んでいたの。それにバート・スターンとか色んな人の後を追っかけてた。でもこのままずっと事務所やフォトグラファーの周りをうろついていたら、モデルを眺めるだけで終わってしまうって気付いたの。それで自分のインスタントカメラでちょっとした写真を撮るようになったわ。
I.S:これ大好きだわ、惹きつけられる何かがあるもの。
S.M:そう、そうなの!私がしてきたこと全てなの。今のスタジオPier59みたいなのとは違って、みんなが同じビルにいたの。それぞれのフォトグラファーが自分のエリアを持っていて、それもすごく狭い範囲なのよ。私なんてそこら辺をうろついてるたかが子供だったわ。でも自分のインスタントカメラで写真を撮って、ヘッドシートを撮ったりして、天国にいるような気分だった。
I.S:物語から抜け出てきたような写真よね。ウィノグランド の写真に少し似ているけど、それよりも色が明るい。
S.M:そう、そうなのよね(笑)
(*1)パーソンズ・スクール・オブ・デザイン
NYにある芸術系大学。世界3大アート校のひとつ。アレキサンダー・ワンやトム・フォード、マーク・ジェイコブスなど数あるデザイナー達が卒業している。ちなみにアナ・スイとマイゼルは同期。
(*2)ドヴィマ
1950年代のトップモデル。リチャード・アヴェドンのミューズであり、「ドヴィマと像」は最も有名なファションフォトである。