貧困の悪循環 | 鈴木いつみ ♨️

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貧困の悪循環

経済学の用語で、一度入ってしまうと外部からの介入がない限り継続する貧困の要因・事象のこと

 

貧困の悪循環は、貧しい家族は少なくとも3世代以上の貧困状態の罠に陥るという事で定義された。そういった家族には貧困脱出の助けとなる知的・社会的・文化資本をもつ祖先がいなくなっているため、貧困から脱出するのには長い時間がかかる。

このケースの家族は持ち合わせる資源が限られているか、まったくない。多くのディスアドバンテージがあるため循環プロセスに乗るのは困難であり、個人がこの悪循環を脱するのは事実上不可能である。

これは、貧困層は貧困から脱出するための金融資本・教育・コネクションを持っていないために起こる。言い換えるならば、貧困にあえぐ人々はその貧困の結果によりディスアドバンテージが発生するため、貧困が更に貧困を引き起こす。これは貧しい人々は生涯に渡って貧しいままであろうということを意味している。この循環は簡単には変更できない行動、状況のパターンのこともそう呼ばれる。

 

同じ問題が国家に対して起こる場合は、開発の罠と呼ばれる。

日本においては、所得移動の観点から全国調査データを用いた分析によると、現実に生じているのは 「貧困の連鎖」よりも「富裕の連鎖」とも言うべき現象だとの指摘もある。教育水準と親の年収の関係も深く、2007年の東京大学の学生調査によると、東京大学生の親の年収950万円以上の割合は52.3%を占めている。

日本財団が2015年に行った試算では、子どもの貧困を放置した場合、わずか1学年(現在15歳の子ども(約120万人)のうち生活保護世帯、児童養護施設、ひとり親家庭の子ども(約18万人))あたりでも経済損失は約2.9兆円に達し、政府の財政負担は1.1兆円増加するという推計結果が得られたとしている。

生活保護の貧困の連鎖

厚生労働省は2011年7月公表「生活支援戦略 中間のまとめ」において、貧困の連鎖の防止として「社会の分断や二極化をもたらす貧困・格差やその連鎖を防止するために、生活困窮世帯の次世代支援や、高齢や障害等により受入先がない矯正施設退所者の地域社会への復帰を支援することにより、安心・安全な社会の実現を目指す」と明言した。また取り組むべき課題として、生活保護世帯の子どもが大人になって再び生活保護を受給するという「貧困の連鎖」の解消を掲げている。

これには、生活保護世帯の4割(25.1%)は出身世帯でも生活保護経験を持っており、生活保護における貧困の連鎖が確認された調査結果が背景としてある[8]。中でも母子世帯では、出身世帯で生活保護歴のある割合が3割以上となり、特に母子世帯における貧困の連鎖が強い上、母子世帯生活保護受給率(13.3%)は他の世帯(2.4%)と比較して高い。2008年比)

 

福岡県田川地区調査では親子や兄弟姉妹など親族の受給の連鎖も47.8%となっており、昭和40年代生まれ以降の世代ではさらに高く約57%になることが確認されている。貧困の連鎖は世代間のみならず、親族間にも広がっている場合がある。

福祉現場では子どもの頃に生活保護を受けていた母子家庭の娘が成長し、自分も母子家庭となり生活保護を受けて生活しているという親の生活様式の踏襲が見られるなど、生活保護の制定以来60年近くが経過し、3世代、4世代の受給世帯が現れている[10]。 厚生労働省児童部会ひとり親家庭への支援施策の在り方に関する専門委員会では全国母子寡婦福祉団体協議会理事が「母子世帯は自立した方がよいと思います。なぜならば、生き方が違ってきます。自信を持って生きられる。子どもがその姿を見ているので、一生懸命生きなければいけないという姿勢が。子ども自身もそうやって育ってくる。生活保護自体が悪いとは思いませんけれども、見ますと2代3代続いています。祖母が生活保護だと母親もまた生活保護。だんだん子どもたちもそれが当たり前のような回転をしているような気がします。2代3代続く人が何人もいます。」と発言している[11]

貧困世帯の性行動は活発で、最近は中学へ進学する頃から性行動が始まり、不特定多数の相手との性交渉も多く、避妊しないことによる性感染症の問題や10代の出産となり、それを防ぐ総合的な貧困対策が必要である。

イギリス政府が1999年に出した政府の調査報告書『10 代の妊娠』の調査では、10代の妊娠の多い地域はほとんど例外なく貧困地域だということが明らかになっている。

アメリカのhoganの調査では、独立した女性世帯主家族で成長した若年女性が未婚の母になる可能性は、夫婦そろった家族で成長した若年女性や祖父母の家で暮らす母親のもとで成長した若年女性より大きかった。

東京都町田市調査では、十代の若者による出産は、家族構成に関しては母子世帯の子どもによく見られ、荒川区の分析では「若年出産の場合、その親も若年出産のケースが多い」と指摘がある。

また、生活保護母子世帯は中卒、高校中退同士が離死別した場合が多く、その後非婚のまま出産する婚外子の出現率は25.7%と高い。前夫との問題との関連性や、その子どもも同じライフコースをたどる連鎖も指摘されている。

なお、生活保護受給者数は史上最高]となっているが、同時に2011年では10年前に比較して妊婦加算受給者は3倍、産婦加算では2倍と増加傾向にあり、毎年推定で約2千人の子どもが生活保護二世として出生しているため、貧困の連鎖を防止することが必要である。なお、生活保護受給者は他法優先のため児童福祉法を利用してほぼ無償]で出産するが、その出産数は公表されておらず加算数から推計する他は無い。

2011年被保護者全国一斉調査では、生活保護の0~17歳の子どもは285,624名となっている。

ひとり親家庭の貧困

2012年度厚生労働省白書では、2000年代半ばまでのOECD 加盟国の相対的貧困率について日本が加盟国中大きい順から4位であったこと、うち子どもの貧困率は13.7%と30か国中ワースト12位であると記載されている。特に働いているひとり親家庭の相対的貧困率は加盟国中最も高くなっており、働いていない同家庭では28か国中ワースト12位と中位なものの6割が貧困と確率が高くひとり親が貧困に陥りやすいことが分かる。

 

2003年以降のひとり親家庭の相対的貧困率は低減してきているが、子どもの貧困率はやや上昇傾向という状況にある。一方、父子世帯とふたり親世帯の貧困率については、母子世帯に比べると低いものの、税込所得ベースに比べて可処分所得ベースでは貧困率が逆に上昇している。子どものいる世帯には、社会保険料や税負担は重くのしかかり、所得再分配による貧困軽減は、十分に機能していない可能性が高い。

 

諸外国と異なり、日本のひとり親家庭の貧困については、働いている世帯58%、働いていない世帯60%と貧困率が殆ど変わらない。

税等による所得の再分配機能後の方が分配前に比較して、高齢者では4割以上貧困率が減るのに対し、20歳未満ではわずか1%程度しか削減しないという再分配調整機能問題に加え、多くの無職世帯が受給しているであろう生活保護では、諸外国に比較しても高額であり30代単身者の試算でスウェーデンフランスに対しては約2倍の所得保障水準となっておりカップルと4歳児の家族世帯においても各国より高額という生活保護費支給額の影響の可能性がある。

 

児童扶養手当の増減は生活保護受給の動きと似通っていることが分かっているが不況に加え、離婚及び未婚の母の増加により、児童扶養手当の受給者は100万人を突破しており、新たな貧困層が増加している可能性がある。児童部会ひとり親家庭への支援施策の在り方に関する専門委員会で「未婚の母の娘さんがまた未婚となって親子2代にわたって児童扶養手当を受けるケースもございます。」と自治体職員が発言し、「未婚の母親の子どもがまた未婚になり児童扶養手当を申請に来るということがありましたが、子どもに対する支援策をきちんとしていくことが非常に大事だと思います」と母子家庭の連鎖や支援について審議されている。

 

なお、母子世帯の学歴はふたり親世帯の学歴より低く、中卒は同世代女性の約3-4倍となっており、母子世帯の貧困や諸困難の背景に低学歴という問題がある。学歴が低いほど就業率が低く、正規雇用率が低い。非婚(未婚)世帯は中卒割合が22.5%で、同世代女性の6倍強で、増加傾向にある。

生活保護を受給している独立母子世帯の数は、1997年以降に増えており、2000年代に入ってからは概ね7-8世帯に1世帯の割合で生活保護を受給している。生活保護を受給したシングルマザーは非受給者より正社員希望の確率が14.0ポイントも低いことが分かっている。生活保護期間中にできたキャリアブランクが長ければ長いほど、子供が成人した後も、母親が生活保護に頼らざるを得ない可能性は高くなる。

母親の就労別分析では、母親が 家族従業員、自営業(雇用人なし)の貧困率は男性と同様に突出して高く、母親が非正規雇用である場合に比べても二倍近くとなっている。利益の出ていない自営業者については、他への適正就労に転換させることが有益な可能性がある[38]

なお、養育費の不払いによるひとり親の困窮に対して行われる行政の福祉給付受給については、アメリカでは納税者に遺棄して去った父親の代わりを負わせることへの議論が高まったことにより、1975年社会保障法改正によって、子を監護していない親の養育費支払義務を強制することになった経緯があり、未払いの場合州によっては裁判所で拘禁まで課されることがある[39]。イギリスにおいてもサッチャー政権下に母子世帯の福祉依存と父親の養育費不払いへの批判が高まった結果、ひとり親が所得補助等を利用している場合には1993年から導入された養育費制度の利用が義務付けられている。

日本においても、生活保護において非監護親が養育費支払い能力を有する場合でも、監護親世帯が生活保護を受給することにより養育費受給が低減するという研究結果があり、またひとり親に給付される児童扶養手当では、費用負担は国が3分の1、都道府県、市が3分の2であるが2010年の国庫負担分の予算案が1678.4億円、都道府県、市等併せると年間約5,035億円となる。

養育費未徴収の福祉給付受給者が増加することが福祉費増大の一因となるため、養育費徴収の実現は財政健全化にも寄与する。