2001年夫婦世界旅行のつづきです。7月20日。パリ2日目。いい宿を紹介してもらうべく、観光情報局 () らしきオフィスを目指してメトロに乗り込み、ポンピドゥ・センターまでやってきました。





part142 ポンピドゥ・センター前のツーリストオフィス(≠ⓘ )


具体的に! 限定的に! 非妥協的に! ・・・そして優雅に








北駅から4番のメトロで一本。シャトレ (Châtelet) 駅で降り、東へ少し歩けば、見えてくるG・ポンピドゥ・センター (Centre G. Pompidou) 。ぎんぎんに光りながら空を背にどーんと現れるので、すぐにそれとわかる。





そのポンピドゥ・センターの建物と同じくらいの敷地面積がある “公開空地” (広場) に面した通りに、我々の目指す小さな観光情報オフィスはあった。





Touriste」 という表示はあるが、 「」 のマークは見当たらない。いわゆる観光情報局ではないらしい。





外からガラスドア越しに中を覗くと、オフィスの中にはバックパックを背負った白人の若者たちがひしめいていた。みな貧乏旅行者にしては、小奇麗である。さすが、パリ? とにかく、みんなが利用しているのだから、問題なかろう。 





――私たち夫婦の間では “日本一” のガイドブックと認定された、我らが旅人の味方 『地球の歩き方』 にも紹介されていたオフィスだしね。――





オフィスの中には小さなツアーや催し物などのパンフレットが並んでいたが、バスの路線図など、公共の交通手段についての詳しい情報や、シティマップもなく、やはり 「」 とは言えないものだった。 ――― ちぇ。だめじゃん。





さて、順番を待って、ようやく窓口で安ホテルの紹介と予約を頼む。窓口のお姉さんは若くて素人臭く、学生のバイトか? って感じだ。とてもプロの事務員には見えない。大丈夫か? ちょっぴり不安がよぎる。





こちらの不安などどこ吹く風。若い分、 “生き” がいい。早口の英語でまくし立てる、まくし立てる。 ――― こりゃ、たまらん。





 「あ~、お嬢さん? お嬢さん。すまんがのぉ、もう少しゆっくり話して下さらんかのぅ。わしら、うまく聞き取れませんのじゃ。ごほごほごほ……。」 と言うと、お嬢さん、一瞬、一呼吸置いてゆっくりと話し始めてくれるのだが、次の瞬間には機関銃のごときスピードに戻って、だだだだだだだだーっと話まくるのだった。 ――― ちょっと~。





我々が何度も聞き直し、何度も話す速度をダウンするよう頼んでいると、彼女は露骨に苛々した顔をしだした。 





大体、窓口でホテルの検索や予約を頼むときには、漠然とした希望を述べていてはだめなのだ。 「なにか適当なホテルがあるかどうか、リストアップしてもらおう ♪ 」 という曖昧な意識でいてはだめなのだ。





窓口での作業。それは文字通り、「検索」 なのだ。窓口の係員は、まさしくホテルを 「検索」 するだけなので、こちらが中途半端な条件を言っていては不興を買う。





だから、窓口では、我々がインターネットで検索するときのように、 「明確なキーワード」 や 「きっちり限定された情報」 を相手に伝えるのがコツだ。





そうしたことになかなか気づかず、我々はなんとも曖昧な要求を出していた。 「え~と、できるだけ長く滞在したいんですぅ。」 などと間抜けたことを言っていたものだ。ここはきっちり日にちを限定して言うべきところだ。





「場所は中心街に近くてぇ、それでいて、値段が安いところがいいんですがね~。」 なんて虫のいいことを言っていたら、即、叩(はた)かれる。 (いや、実際叩かれはしなかったが、そのくらいの勢いで睨まれる。) 





ここは、 「場所は●▽地区。その地区で一番安い宿はいくらですか? 」 とか、 「値段は一泊○※以内で、場所は●▽地区、もしくはその近辺がいいのです。」 などとすべきところだ。要求は徹底的して、具体的に! 限定的に! 非妥協的にっ! 提示されなければならない。





しかし、交渉の際はつい、あれやこれやと定まらない条件をぐずぐず並べ立ててしまった。





「値段が安いことが基本だけれど、トイレ・シャワーは部屋に付いていなくてはだめ! しかしまぁ、安くて部屋がきれいで感じのよい宿ならば、トイレ・シャワーが共同でも妥協しよう! でも、それなら、できれば朝食付きがいいのだけれど。」 





横から夫。 「朝食なんて、別についてなくていいんじゃない?」 「あ?そぉ? 要らない? 要らないか……。じゃ、 “朝食なし” でもいいです。」 「でも、安かったら朝食ついてたって、いいよね。付いているに越したことはない。」 と、夫。 「でも、まずい朝食なら、要らないね。」 と妻。係員のお姉さんの眉間が寄ってくる。





足回りのよい街の中心街はホテル代が高い。ちょっと不便な所はホテル代が安い。しかし毎日の交通費を考えると、どっちが得か、一概に言えないのである。





宿代は安くとも、あまりに居心地の悪い宿なら、もっと高くても居心地のいい宿の方が、よっぽどお得なのである。





我々の提示する条件も、状況次第でころころ変わる微妙なものだったので、窓口の彼女も相当うんざりしたことだろう。





「も~、これでいいわねっ! 」 と耳の遠い老人を追い立てるように、彼女は 「ホテルの予約の控え」 を封筒に入れてよこしながら、きっぱり彼女の視界から我々を追い出し、次の客を呼んだ。





さ~ぁ、とっととお退(の)き! と言わんばかりである。 ――― こ~の機関銃娘がっ。この親不孝者奴がっ。 (いつの間にか、 “出来の悪い娘を持ったふがいない親” 気分である。) 





若い “人いきれ” に押し出されるようにオフィスを後にした。まぁ、感じは悪いが、とにかく明日から5泊できるホテルが予約できた。





北駅をもう少し南西方向に移動したカデ (Cadet) というメトロ駅の近くにあるホテルだという。地の利も悪くない。





今は7月後半。夏のヴァカンスシーズンに突入しているらしく、いわゆる「ハイシーズン」 であるらしい。 「この時期は3連泊以上はできない」 とガイドブックにも書いてあった。それが5連泊もできるのだから、ラッキーだ ♪♪♪♪♪





しかも、なんと2つ星ホテルである! それでいて値段は驚くほど安い。シャワー・トイレ付きのダブル、しかも朝食付きで、なんと270フラン (4,600円) ! 





予約手数料に1人40フラン (約700円) ――手数料が高すぎだ! ―― ほど取られたので、それを計算に入れると、1泊286フラン (約4,900円) になる。それにしても安い。





今泊まっている1つ星ホテルの “マッチョマン・ホテル” は、 “朝食無し” の “トイレが丸見え” でも276フラン (4,800円) 取る。





新しい宿の方が 「格」 が上で、そのくせ安い! こんなこともあるのだから、やはり情報窓口では色々粘った方がいいのである。ふっ。





この時期に5連泊もできて、しかも朝食付き! いやぁ。多少嫌な思いはしても、やはりこうした情報オフィスに来てみるもんだね。♪





(追記: 我ながら浮かれておる……この時期に、パリの地の利のよいホテルで、「5連泊できちゃう」 ってことを、しかも 「安い! 」 ということを、もっと疑うべきであったのに……。)





さて、一仕事終わった。両替に行く前に、せっかくだから目の前のポンピドゥ・センターでも見物しましょ。 (追記: ……と、どこまでも暢気なスットコドッコイであった。)


     


         つづく


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