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 日本がバブル絶頂期だった1980年代の後半、旦那様の赴任先であるニューヨークとパリで生活し体験したことを元に、いろいろなことが書かれている。料理研究家の著作なので、明らかに女性向けである。1997年12月初版。

 

 

【ホワイトセール】
 アメリカのデパートでは、夏の終わりにいっせいに「ホワイトセール」が行われる。ホワイトとはリネン全般のことで、テーブルクロスやランテョンマット、ナプキンなどキッチン周りのもの、シーツやピローケースなどベッド周りのもの、タオル類など浴室関連のものなどが、ひとまとめに値下げされ、それに準じて他の商品も安くなる。だからバーゲン全体のことを“ホワイトセールに入る”という言い方をする。
 リネン類は消耗品である。何も新柄である必要はないので、日常使いのおのはホワイトセールを待って購入するという人が多い。(p.23)
 リネン類は消耗品であると書かれているけれど、何故に白いテーブルクロスなど使うのかを考えれば、純白の白布を造れるようになったのは近代になってからのことなのだから、白布が高価だった当時、それは貴族たちしか用いなかったはず。つまり高貴さの象徴。その中古品を一般に安く放出する機会が、ホワイトセールのもとになっていたのだろう。
 味だけでなく、食事関連全般に心を配るのは、女性特有の食への向かい方なのだろうけれど、一面ではハイソな貴族生活羨望家ともいえる。パリに憧れる人って大抵このタイプの人々なのだろう。
 文化というのは、いつの時代も富裕層によって牽引されるものだけれど、白布とは一切関係ない美味しいB級グルメだってテンコ盛りある。

 

 

【タルト生地、作り方の神業】
 コツは材料(粉も溶かしバターも塩も砂糖も)全部蓋付のタッパーウェアに入れて、トントンと強く打ち付けるだけ。タッパーウェアを振り回しているうちに、材料がまとまっているのだ。(p.25)
 このやり方なら、両手をベトベトにしなくて済むし、材料のロスもないからということで、
 私たちにとっては目から鱗が落ちるような神業が披露された。(p.25)
 などと書いている。
 焦げ付かない深めのフライパン鍋に、粉類(強力粉・ゴマ・黄な粉など)を入れて混ぜ、それが適度な水分量になるよう、黒砂糖を溶かした紅茶を入れて混ぜ終わったところで、そのまま焼けばいいだけじゃん。チャンちゃんが薄焼きを作る時は、いつだってこう。ロスはゼロ。
 タッパーを使ったそんなのが神業なら、フライパン鍋のみのこれって何業?

 

 

【“ベーゼ“と“ビズ”】
 恋人同士がする唇と唇のキスがベーゼで、頬への軽いキスのことをビズという。
 ビズはなぜだか二度続けて行う。親しい友人同士は女性でも男性でもよくこのビズをしあうし、一歩踏み込んだ親しさを表して「あなたとはビズの関係ね」という言い方をしたりする。 (p.36)
 繊細な感性と霊性を持つ本来の日本人は、肉の接触という低次元な挨拶形態など全く必要としない。言霊だけとっても、“ベーゼ”とか“ビズ”って、かなり不快な響きである。

 

 

【“バゲット”と“バタール”】
 パンの話にひっかけて、“バゲット”はきちんとしたパンだから正妻の子供のことだけど、長さが足りない“バタール”と言ったらお妾さんの生んだ子のこと、などという俗語も (p.40)
 パンの違いを知らない普通の日本人に、フランスの俗語の問題として出したら、大抵、音(言霊)のイメージから逆に思うだろう。

 

 

【ピエノワール】
 三代以上モロッコに暮らす生粋のフランス人のことを“ピエノワール”というそうだ。
 最初のうち、肌の黒いことをそう呼ぶのだと思って、この言葉を使うことにためらいがあったのだが、フランス人がモロッコでは黒いブーツを履いていたことに由来するのだと教えられた。(p.43)

 

 

【ワインの添加物】
“白ワインには添加物が入っているので、たくさん飲むと頭痛がする。その点赤ワインは体に良くて(動脈硬化の予防などに)悪酔いはしない”と信じている人が多いとか。これも受け売りなので真偽のほどは保証できないが・・・。(p.64)
    《参照》   誰も知らないワインの罠!!

 

 

【犬のトイレ】
 ふと立ち止まった歩道のところに白いペンキで犬の絵が描かれているのを見て、住んでいたころ娘とこの絵はなんだろうと話したことを思い出した。・・・中略・・・。
 実はその絵がある溝の所が犬のトイレで、ここにさせれば後で専門のお掃除隊が綺麗に始末してくれるのだ。(p.105)
 フランス人は、ワンコを人間並みに扱っているから、このような配慮がされている。

 

 

【パリのスタンド売り】
 ヌーヴォーワインが出荷される11月、街角のあちこちに焼き栗売りが出る。天津甘栗のような艶もないし、形も不揃いな栗を無造作に新聞紙に包んで渡してくれる。(p.109)
 “ヌーボー”は、“新しいもの”の意味。
 ワッフルとクレープは、季節に関わりなくスタンド(屋台)売りされているけれど、11月頃、パリに行く人は、スタンド売り(屋台)の焼き栗を体験できる。
 因みに、2月2日は“ジャンデュルール”(クレープの日)。宗教的には生後40日のイエスが、エルサレムの神殿で洗礼を受けた日ということらしい。

 

 

【ショコラとショコラ・ショー】
 ショコラは大きく二種類に分かれる。“ショコラ”とだけ言ったら、これは固形の食べるチョコレートのことで、“ショコラ・ショー”のほうが液体の飲むチョコレート。いわゆるココアで、必ず温めて飲む。(p.113)
 チョコレートもココアも、同じカカオが原料ということを知らないと、「えっ!」と思ってしまう。
    《参照》   『チョコレートの文化誌』 八杉佳穂 (世界思想社)

 

 

【「ノワール」と「カフェオーレ」の中間】
 朝飲むことが多いのはミルクたっぷりの「カフェオレ」か、それよりやや少なくミルクを入れた「カフェクリーム」。また、カフェオレやカフェクリームよりさらにミルクの少ないコーヒーのことは「ノアゼット」と区別している。ヘイゼルナッツのような茶色なので、ノアゼット(はしばみ色)と呼ぶそうだ。そして食後には、たいていミルク無しの「ノワール」を飲む。(p.128)
 「ノワール」は、フランス語で「黒」の意味。
 ミルク基準で並べると、「ノワール」<「ノアゼット」<「カフェクリーム」<「カフェオレ」。

 

 

【年間5週間の休暇】
 フランスの企業は、年間5週間の休暇をとることが法律で決められている。しかも1回の休暇は1週間以上まとめて取らなければいけない。春や秋にも遊ぶことを考えて、夏のヴァカンスは平均2週間以上まとめて取る人が多いようだ。(p.143)
 みんなあまり大げさにお金をかけずに上手に休暇を楽しんでいる。(p.144)
 ヴァカンスはフランスに限らずヨーロッパの常識。
 過労死なんていう“素っ頓狂”なことをやっている日本人は、世界の非常識であり、完全に異常である。
    《参照》   『イタリア人のまっかなホント』 マーティン・ソリー (マクミラン・ランゲージハウス) 《前編》
              【これぞまさしく人生だ】

 

 

【オンフルールの舌平目のムニエル】
 粗削りな海岸線で知られ、アヌーク・エーメが主演したフランス映画『男と女』の舞台になったオンフルールのシャトーホテルも忘れられない。ドーバー海峡は舌平目が有名だが、ここのシャトーホテルで食べた舌平目の味が忘れられず、・・・中略・・・二度訪れている。
舌平目の味を楽しむには、ムニエルに限る。(p.147)
 画家たちが好んで描いたオンフルールの街並みのことは、何も書かれていない。さすがは料理研究家。

 

 

【クシャミと鼻かみ】
 フランスではクシャミを人前でしないように家庭で厳しく躾けられている。・・・中略・・・。その反面、人前で鼻をかむことには寛大で、みなさんハンカチを出して盛大に「ブン、ブンッ」と大きな音をさせて平然としている。(p.163)
 フランス人に限らず、欧米人はたいていこうである。
 知的労働者の場合、鼻が詰っていたら仕事にならないし、ズルズル吸い込む音を何度も聞かされるのは絶対に勘弁してほしいから、チャンちゃんは、その場でとっとと「鼻をかむべき」と思っている。この点は、日本人が変更すべきだろう。
 ハンカチはフランス語で「ムーショワール」と言う。これはムーシェ(鼻をかむ)の動詞からきた言葉なので、まさにハンカチ=鼻をかむものなのだろう。(p.164)
 ハンカチで鼻をかむ習慣の欧米人は、「日本人は紙を使いすぎる」と思っているけれど、日本人の常識である携帯用ティッシュペーパーが世界に普及する過程で、欧米人の方が変わってゆくだろう。

 

 

【トレードマック(商標)の色彩変更】
 マクドナルドの赤字に黄のマークも、シャンゼリゼ大通りではパリの美意識に合わないと白いネオン灯に変えさせるなど。他国の文化流入に激しい抵抗を示している。(p.182)
 これについては、フランス人の考え方が、世界の常識になるはずである。
 日本の裏磐梯桧原にあるセブンイレブンだって、赤や緑の原色は自然の景観を損なうからということだろう、茶色と深緑になっている。

 

 

【フランス人のプライド】
 フランス人には、与えるものはあっても他国から得るものはないというプライドがあって、それが他所の文化や風習を侮蔑することにつながるもかもしれないが、そういう態度を、ある一定以上の階級の人は表面に出さないところがすごい。ある種の優越からか、すべてを包むような態度が目立ち、どうかすると慇懃無礼に見えることもある。私も何度かそうした慇懃な態度であしらわれたことがあるが、これって逆差別の人種偏見ではないのかと深読みをしたことさえある。(p.182-183)
    《参照》   『フランス人のまっかなホント』 ニック・ヤップ/ミシェル・シレット
              【西洋の中華国家・フランス】

 経済的な先進国の人々は、発展途上の国々の人々に、この記述と同様に思われてしまう傾向がある。日本人だって、アジア諸国の人々から、著者がフランス人に対して書いているようなことを、思われている可能性はあるのである。


 

<了>