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 タイトルがややこしいと思う人は、横帯にある「悲観論を越えた未来予測対談」という内容に則して読んでみるのもいい。長谷川さんの本を読んだのは6年ぶりで、語られている内容に大きな変化はないけれど、それは重厚長大型産業分野の実態を知悉した方の語りだからなのだろう。2010年7月初版。

 

 

【ロシアに進出したトヨタ】
日下  ロシアのサンクトペテルブルクに工場を建てましたが、プーチン大統領(当時)の親戚が関係しているというのが理由だとすれば、失敗するのは無理もありません。
長谷川 ロシアの工場は2007年に完成し、完工式にはプーチン大統領も来ました。しかもその席でトヨタ幹部は、プーチン大統領に頼まれて第2工場をつくることを約束したそうです。結局、稼働した工場は赤字で操業は一時停止となり、また新工場の建設工事も中止になりました。このようにトヨタの経営に関する失敗例はたくさんあります。(p.24-25)
 アラマア。失敗していたとは知らなかった。失敗の理由は明確に書かれていないけれど、4割もの生産余力をもつ工場を建設したこと、つまり設備投資過剰による経営悪化だったらしい。そうでないなら大統領の親戚が貪欲すぎたんだろう。
   《参照》   『ロシア人のまっかなホント』 エリザベス・ロバーツ (マクミラン・ランゲージハウス)
             【サンクトペテルブルグ】

 トヨタはこの本の初版当時、アメリカでもブレーキの不具合とかで苛烈なバッシングを受けていたけれど、アメリカ国民はトヨタの高い品質を知っていたので結果的に何の問題もなかった。今やトヨタはアメリカの企業といってもいいくらいアメリカに浸透している。

 

 

【日本製工作機械の市場占有率】
長谷川 2005年の数字ですが、世界の工作機械の市場占有率は、日本が27%でした。 ・・・(中略)・・・ これは凄い数字です。(p.36)
 2位はドイツで12%です。日本が1位でドイツが2位という状況は変わっていませんが、日本とドイツの開きが拡大してきました。(p.153-154)
 2005年でそれなら、8年後の現在、市場占有率は40%以上になっていることだろう。日本の工作機械なくして世界の工場は何も製造できないという状況はますます進行して行く。
 工業技術において、日本が世界経済の支配者であったことは、3・11東日本大震災で証明されている。
   《参照》   『勃発!サイバーハルマゲドン』 ベンジャミン・フルフォード(KKベストセラーズ)《3/4》
             【震災後の影響】

 

 

【日本の製鉄業の実力と、ミタル・スチールの実態】
長谷川 その新型圧延機一基にかかる投資額は、なんと800億円。この勢いは日本独自のものといっても過言ではなく、アメリカにも韓国も中国にも真似はできません。
 これに対して、インド(合併後はオランダ)のミタル・スチールの製鉄所は、日本でいえば四流の設備ですよ。それをいっぱい買い集めて、従業員を減らして利益を出してきた。
日下  派手にM&Aを進めて、派手にぶち上げて、お金を集めようという魂胆でしたね。
長谷川 そうです。だからこの経済危機で生産量がいっぺんにガタ落ちです。もともと品質がよくないので、せいぜい売れるのが建築用の資材ぐらいで、高品質の鋼板を必要とする自動車メーカーはミタルの製品を買いません。(p.167)
 ミタルが世界一の規模になったというニュースを聞いた当時は、少々ビビッタものだけれど、実体はこのようなものだった。「なぁ~んだ」という感じである。
 

 

【汚れないニューヨークの地下鉄車両】
長谷川 ニューヨークの地下鉄は落書きが多いことで有名でしたが、現在は全くなくなりました。その理由は川崎重工業の車両が入ったからで、川崎重工の車両は、モップで拭くと簡単に落書きが消せてしまう。だから落書きする人も、やり甲斐がなくなってしまったのでしょう。(p.52)
 ジュリアーニ市長の政策が功を奏して綺麗になったのだとばかり思っていた。日本の工業技術力が“壊れ窓”の発生抑止にも貢献していたのである。
   《参照》   『極』 室館勲 (リーダーズクリエイト)
             【落書きなどを・・・】

 消す技術に関しては、金属材料に薬品などで表面処理をすることで落書きがしみこまないという技術らしい。また、消せるボールペンという日本製の優れた文房具があるけれど、もともと鉛筆ではなく万年質を使う習慣のあるフランスの学生たちに近年バカ売れしているという。
 

 

【100円ショップ商品の仕入れ先】
長谷川 日本の100円ショップがどこから商品を仕入れるか見ていると、大まかに日本企業の進出先の見当がつくのです。いまはすでに賃金の上がった中国から、バングラデシュに移っています。(p.55)
 今、日本企業は、再び民主政治に戻ったミャンマーに再進出しだしたけれど、西隣にはミャンマーより膨大な人口を擁するバングラデシュがまだある。インド経由で進出する企業もあることだろう。

 

 

【これからの百年】
長谷川 私は1996年に出版した著作『これまでの百年、これからの百年』(講談社)の中で、「これまでの百年はインフレの時代。これからの百年はデフレの時代になる」と述べた。繰り返すが、その理由は戦争の不在である。
「インフレは戦争の産物、デフレは平和の産物」である。インフレやデフレは、金融政策をゆるめるか、引き締めるかによって生じるものではない。金融をどんなに引き締めてもインフレはおさまらず、同様に金融をどれほど緩めても、デフレを終息させることはない。(p.63)
 この論に従えば、安倍政権のインフレターゲット政策は空しいことになる。大局は長谷川さんの言っている通りだろう。超高額な戦争兵器価格に引きずられることのない平和基調下の経済ということのみならず、先進国以外の、巨大な人口および国土面積を持つ国々がほぼ同時に経済発展を始めたのだから、先進国は、人件費の安いこれらの国の経済価格に引きずり込まれて、世界的な経済平準化という趨勢に支配される。
 さらに、脱石油・脱原発のフリーエネルギー開発が完了すれば、世界はインフレをまったく必要としなくなるだろう。日本にとっても世界にとっても本質的な問題は、所得格差である。