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 書店で著者の書籍を目にすることは多いけれど、ゼニ金的なタイトルから、その露骨なリアリズム傾向にちょっと忌避sしたい感がある。そもそもチャンちゃんは実生活上のお金の話が好きではない。瞳の中に少年や少女を住まわせている人々とファンタジーの世界を生きていたいようなタイプの人間なのである。
 とはいえ、異質も若干ではなく大そう懸け離れた世界であるならば、かえって覗いてみたくなるもの。
 背表紙に書かれているフルのタイトルは、『世直し道「悪徳日本に翻弄されない知識教えたる!」』である。資本主義社会とそれを維持している人々のありさまが、短い文書の中に記述されている。

 

 

【公務員の好き放題】
 地方の裁判所にもおかしなことはあるで。それは、書記官を10年勤続したら司法試験を受けなくても裁判官になれるっていう制度や。でも、こういうおかしなことは裁判官だけではないで。公認会計士も税務署の勤続年数で無試験でなれる道があるんや。いかに公務員ちゅうのは、己の好き放題にしてるってことやな。(p.115)
 書記官で実務を経験している間に、裁判所の腐敗の実態を学ばせておけば、強要せずとも権力者の忠犬になっているはず、という目論見制度だろう。

  《参照》 『大崩壊渦巻く[今ここ日本]で慧眼をもって生きる!』増川いづみ×船瀬俊介《前編》

            【裁判所の実態】

 もうひとつ、納得いかんことがある。裁判官、弁護士、税理士、司法書士、行政書士、医者。この連中は収入印紙がいらんいうことや。つまり、己のもらう報酬に対して領収書を切る際に、いっさい収入印紙を貼る必要がないのや。平等の精神からいうたら、そんなアホな話はないやろ! (p.115)
 へぇ~、初めて知った。
 でも、まあ、お上の世界なんてこんなもんでっしゃろぉ。
 💩リーグそのもの。
 ビックリせーへん。

 

 

【誰でも頑張れば成功できる?】
 がんばったヤツがみな出世しとったら 『成功するための方法は?』 なんて取材が、こうひっきりなしにワシのところに来るわけないやんか。 (p.118-119)
 資本主義社会の苛烈さを身をもって体験してきた著者なので、「誰でも頑張れば成功できる」という固定的なフレーズがアホ臭くも出鱈目であると感じられるらしい。
 露骨な格差社会が実現している今日、著者の見解に対して、「そんなことない」と思える人は、よほど恵まれた境遇にあるか、ウルトラ世間知らずのお目出度い人なのだろう。生徒ならば、公務員である学校の先生が教えることだからと、はなから信じちゃうのだろうけれど、その公務員という特権階級は、民間人が生きている資本主義社会の実社会の苛烈さを知らないのである。
 公務員なんて民間の僅か3分の1くらいの仕事量で、失業することもなく、給料という名の生活給付金を優雅にガッポリせしめているのだから、全然頑張らなくても優雅な生活ができるのである。こういった公務員の言う「誰でも頑張れば成功できる」っていうのは一体全体どういう意味なのか? 
 

 

【あとがき】
 あとがきを先に読んでおけば、この著作に興味がもてるかもしれない。
 ワシは底辺の暮らしが長かった。
 いずれこの世界から脱出しようと強い意志をもって日々を過ごしていたから良かったものの、もし流されていいたら、今ごろは、どこかの路頭で野垂れ死にしていたかもしれん。
 社会のエリートは、大企業や官庁に就職して、自分勝手の生活ができるけど、クラブのボーイやキャバレーのキャッチなんかをしているヤツは、極貧の中で制約された生き方しかできん。
 底辺の暮らしいうのは、考えてる以上に厳しくて、そいつの人間性まで変えてしまうんや。
 自分の仕事にプライドももてんし、いつもピーピーしているフトコロ具合では、女もできん。
 いつの間にか自分の心の中に、社会に対する憎しみが増幅してくる。こうなると、もう手遅れや。
 結局、その場しのぎの快楽に浸ってしまい、自分を見失っていく。あるもんはパチンコ競馬に明け暮れ、あるもんはホステスのヒモとなる。

 自分の住む世界と、他の人間が住む社会を別次元のものと捉え、社会人としての自覚がなくなっていくんや。
 ワシは、自分がそういった底辺でうごめいている人間を、この目で見てきたからいえるんやけど、そら地獄や。生半可な気持ちでは、そこからの脱出は不可能やと思う。
 逆に言えば、そういう経験をしながらも、そこから脱出できた人間いうのは、大学出のエリートよりも何倍も凄いということもできるやろ。
 ワシの描く金融の世界は、非情にリアリティーがあるといわれとる。
 もし、ワシが普通の生活しかしてへん人間やったら、ここまでリアリティーのある世界は描けへんかったと思う。
 この世のものとは思われん底辺の生活の中で見聞きしたことが、ワシの創作の血となり肉となってるっていうんは事実や。
 結局、人間にとっていちばん大事なことは、どんな立場にあろうとどんな環境にいようとつねに社会というものを念頭において、自らを社会人として律していくということやろう。
 どんな金もちであろうと、どんな天才であろうと、社会とのリンクをなくしては、絶対に大成せえへん。
 人間いうのは、社会の中で、人と人とのつながりをもって生きていく存在であるんや。そのことをちゃんと把握せんとな。(p.156-158)
 最後の記述に、著者の良心が顕れている。
 露骨なリアリストである著者は、この書籍の中で共産主義に言及しているけれど、それは実体験を通じて資本主義社会の悪辣さを知悉した者の結果的認識なのであって、机上の理論や空想的理想論に導かれて言及しているものではないことはよくわかるから、あえて反論しない。
 それにしても、日本は役人天国化しているからこそ苛烈な格差社会へと加速しているともいえるのに、その資本主義格差社会を変革しようとする先が、全員公務員社会のような共産主義社会というのは、大層な皮肉である。つまり、公務員の先生が 「誰でも頑張れば成功できる」 というアホ臭いフレーズを、決して生徒に語る必要がなくなった時が、理想(共産主義?)社会実現の時なのであろう。
 
<了>
 

  青木雄二・著の読書記録

     『世直し道』

     『「マネー」より「ゼニ」や!』