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 関西人お二人の対談。 『ナニワ金融道』 という経済マンガで知られるようになった青木さん。国際的な「マネー」の感覚ではなく、関西的な「ゼニ」 の感覚で経済を見る視点が面白い。
 日下さんの数ある著書が面白いのは、普通のエコノミストよりはるかに広い世界を体験して知っているからこそ語れる、独特な歯切れ良い切り口にある。
 このような語りは、机上で経済学を学んでデータだけを元にしているだけの人々にはとうていできないこと。

 

 

【弁護士の選び方】
青木: 『だから、あなたも生きぬいて』 (講談社刊)という本がベストセラーになっている。この著者で大平光代さんという、極道の女から中卒で司法試験に一発で通った、ごっつい女の弁護士がいるでしょう。ああいう人が一番力がある。暴力団のこともよく知っているし、自分も入れ墨を入れておる。でも、一発で司法試験に合格しているから、そうとう勉強しているわけです。普通の大学を出て司法試験に落ちるやつよりもよっぽど力があると見ないといけない。そういう選び方の方が正しいと思いますわ。  (p.41)
 この文章に先行して、テレビに出ているのはロクでもないのが多いから、その弁護士に頼んだら安心というのは、とんでもない間違いですよ。(p.40) と書かれている。弁護士でも分野によりけり強い弱いがあるから、事件によっては極道の方がよく知っている場合もあるそうである。

 

 

【国家公安委員会の給料】
青木 : 警察を監視する公安委員会があるでしょう。あれは週に1日、1~2時間出てきて、年収が2600万だという。とんでもないことだけれども、なぜか日本国民は怒らない。
日下 : 東京都や県の公安委員会は年収300万円ぐたいです。国家公安委員会だけがむちゃくちゃなんです。
青木 : その予算は警察庁が取るわけですね。「高級を払うのだから、ワシらの悪口やアラ探しはするんじゃないぞ」というわけですね。   (p.46)
 被監視者が、監視者の給料を・・それも破格の給料を払っている!!! 馬鹿げた冗談にも程が・・・と思うけれど、これが冗談ではないから、日本は素晴らしい国家であると皮肉のひとつも言いたくなる。けれど、言いたくなる皮肉も数が並びすぎると、北京ダックのこげた皮肉のように見えてくるのであろうから・・・これも立派な日本国の有様か・・・などと、どうしようもない自虐ギャグで解消したくなってくる。


【鉄道の枕木の数だけ中国人の死骸がある】
日下 : 『上海時代 ジャーナリストの回想』 (中公新書)という本が上・中・下3冊あるんです。著者は松本重治という人です。・・・(中略)・・・。スタンフォードという親分がいて、あの人は大学をつくった以外のことは、全部、刑務所行きの悪いことをしたと言われています。・・・(中略)・・・。鉄道1メートルごとに一人ずつ、中国人が死んだという表現がある。(p.120)
 以前、読書記録に書いたことがあるけれど、出典が書かれていたので書き出しておいた。
   《参照》  『ニューヨークの台湾人』 田中道代  芙蓉書房出版
              【台湾からの移民】  

 

 

【資本主義か社会主義か、連帯保証人をめぐって】
青木 : 資本主義では連帯保証人は必要不可欠な制度となるじゃないですか。連帯保証人がこれだけひどいものかということをみんなが知ったということは、社会主義への一歩前進じゃないかとぼくは思うんですけどね。
日下 : いや、そうじゃないんだよね。資本主義がうまく行くためには、一人ひとりが賢くなくてはいけない。十把一からげに連帯保証はいいとか悪いとかじゃないんですよ。全部賢い人ならそれでいい。だから、みんな賢くなれ、ということですね。
青木 : そんなことは不可能でしょう。
日下 : とはいっても、逆に国民は全部バカだからお上が面倒見てやると言うと、スターリンになってしまいますよ。それもよくないわけでしょう。国民は息が詰まる。だからそう急には賢くなれないけれど努力しなさい、隣近所で教えてやれ。青木さんのマンガを読みなさい、ということですね。   (p.131)
 マンガの著者(青木さん)と読者(日下さん)が、同じマンガから異なる意義を導き出しているところが面白い。

 

 

【ロレックスは労働者階級の時計】
青木 : ロレックスなんて日本人はうれしがって買うとるけれども、ロレックスは水が入らん労働者階級の時計なんですよ。時計で言うたら、ランクは小結ぐらいのものです。
日下 : もっともっと偉い人は時計をもたない。
青木 : 資本家に時間なんて関係ないからね。(笑)     (p.174)
 時計のみならず、服や靴の具体例も記述されている。このような具体的な事実から、経済・文化・歴史を見る楽しさは、この本の著者のような方々の著作でなければ、なかなか味わえないものである。
 
<了>

 

  青木雄二・著の読書記録

     『世直し道』

     『「マネー」より「ゼニ」や!』

 

  日下公人・著の読書記録