《前編》 より

 

 

【中国人の海外旅行】
 日本のあちらこちらで中国人の観光客を見ることはしばしばである。豊かになって人々は誰でも海外旅行に行けるようになったのだろうと思っていたら、事情は違うらしい。
 今でも日本など先進国への旅行は、海外での逃亡を防止するために、預金の残高証明等が必要になるという。つまり 「担保=人質」 を中国国内においておくことが条件なのである。普通の人々にとって、海外旅行は、まだまだ実現する事のない夢なのだという。
 つまり、われわれが中国国外で出会う中国人というのは、海をボートに乗って渡ってくる人々以外は、中国の 「支配者階級」 に属する人々だということです。(p.64)

 

 

【驚くべき納税の実態】
 中国の農村の恐るべき実態 ――― 所得が少ない農村居住者の納税額のほうが、都市居住者よりも高いのです。
 2002年に発表された報告によると、農村居住者所得税額が90元であるのに対し、都市生活者のそれはたった37元です。しかも、地方政府は、財政が都市に比べて苦しいことから、通称 「乱収費」 と呼ばれる、中国政府が認めていない勝手な費用の徴収を行っているのです。(p.87)
 中国の都市と農村を分かつ戸籍制度は国内差別として有名なことだけど、その上まだ収入の少ない農民の方が都市住民より苛烈に搾取されるというのはこの上なく悲惨である。でもまあ、中国という国の実態は昔からこのようなものである。農民は都市の住民より多く払わされていることさえ知らないのだろう。
 なお、「乱収費」 は住民ばかりではなく、外資系企業に対しても任意に名目をつけて課税されるメチャクチャ税のことでもある。

 

 

【中国のリスク指標】
 一定単位のGDPを生むのに日本で必要な原油などのエネルギー量を 「1」 とします。するとアメリカではその倍の 「2」、韓国では 「3」、そして中国ではなんと 「6」 あるいは 「7」 という値になります。(p.89)
 石油価格の高騰によるダメージは、中国の場合、日本の6~7倍ということになる。
   《参照》   『日本と世界の大潮流』 長谷川慶太郎 (PHP研究所)
            【エネルギー消費の比較】

 

 

【中国の貯蓄率】
 驚くべきことですが、中国の主要紙や米系証券会社のレポートによれば、中国の可処分所得に対する貯蓄率は46%に達しています。日本の貯蓄率の過去最高が40%近くであり、近年では一桁台の前半まで落ち込んでいることを考えると驚異的な数字と言えるでしょう。(p.90)
 マカオのカジノ収入がラスベガスのそれを上回ったという事実の一方で、この貯蓄率は妙であるけれど、カジノで遊んでいる人々は、いわゆる特権階級(党幹部)のような強大な利権をもつ人々なのである。カジノの主体と貯蓄の主体は違うのである。
 一般の中国人にとっては、国営企業が解体されて生活の保障がなくなり、それに変わる社会保障が未整備なのだから、自ら溜めて将来に備えるしかない。しかし、これらの貯蓄は、採算割れしている国営企業の焦げ付きに回されてしまい、経済を活性化させる生きた資金としては供されないのだろう。

 

 

【生産コスト】
 海外で生産する場合と、国内で生産するコストを比較した場合、輸送などのコストを補うためには、一般的ケースで、海外での生産総コストが国内より7%ほど安くなければなりません。つまり、総コストのうち15%が生産コストだとすると、海外で生産する場合はマイナス7%で、8%に抑える必要があります。両者の間には50%の格差がなければならないのです。海外の従業員の賃金が日本の賃金の半分であるときに、初めて海外と国内の総生産コストが同じになるということです。(p.140-141)
 これはあくまでも一般的なケースであるけれど、具体的に考えるとき、これらの数値は役に立つ。
 でもって、実際に進出した日本企業はどうなったかというと・・・。

 

 

【日本企業、中国進出の実態】
 私は、周辺の経営者にも中国株投資は勧めましたが、中国への直接進出は、一貫して 「やめたほうがいい」 とアドバイスしてきました。
 残念ながら、私の周辺で、意気揚々と中国へ進出した企業が儲かったかという話は聞きません。コストの面や納入先の企業からの要請で仕方なく移転した企業も、経営の悪化を防いだだけで、成功しているとはとてもいえません。
 中国で成功しているのは、結局、いわゆる国際的大企業に限られます。
 ・・・(中略)・・・ 。そう、まるで大負けを認めたくなくて続けるパチンコのようです。
 日本企業は、夜逃げというような思い切ったことがなかなかできないのでしょうか。(p.164)
 こういった企業に対して、日本政府は助けてくれるどころか、氷水を浴びせる。
 いいたいことがあっても、中国政府にはいえないし、助けてくれるはずの日本政府は、中国政府の非合理なシステムのために高いコストを払ったあと、ようやく撤退した企業を狙い撃ちして、さらに税金を払わせます。(p.198)
 お気の毒に。
 と書きつつ、日本国内で起業した場合の、法人住民税のことを思い出してしまった。
 なんと、年度末決算において、赤字決算であっても、法人住民税(県に2万1千円+市町村に5万円=7万1千円)を支払わなければならないそうである。個人の住民税なら、収入ゼロの場合、徴収はされない。しかし、法人の場合は、赤字決算であっても7万1千円徴収される!のだという。

 

 

【巨象が倒れるとき】
 このように、うんざりするほどたくさんの問題を抱えた中国ですが、WTO加盟による中国崩壊論がまだ盛んだった2003年の1月から、私が中国株への投資を始めたのは、すでにお話したとおりです。そのときの中国には、問題を解決あるいは回避する可能性が残されていたのです。
 しかし、2007年秋に中国株をすべて売却したときには、「中国にはもう問題解決の時間が残されていない」 と判断しました。中国政府は、未曾有の高成長を実現した4年間を無為に過ごしたわけです。
「立派なビルを建てた会社の経営は傾く」 と、私はよくお話しします。バブル期に立派なビルを建てた大手銀行などのその後は、読者もご存じのとおりです。(p.200)
 “中国は、よくもっているなぁ“ というのが、おそらく大方の見方なのだろう。巨象倒壊の予測のトリガーとして考えられることはいくらでもあるけれど、著者は、インフレによる貧しい人々の生活難を予想(p.202) している。
 
<了>