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 ものづくりにとって重要なイノベーションとして、三次元CADの重要性が記述されている。近年の製造業にとっては、既にCADは不可欠であるらしく、この10年間ほどにCAD自体、かなり進化してきているらしい。 2001年12月初版。
とは computer aided design すなわち “コンピュータを用いたデザイン:設計” のこと。は、マニュファクチャリング:製造は、テスト:検査のことである。
 
 
【景気のよかった頃、利益を何に使っていたか?】
 高い付加価値の製品をもっている2社の事例が記述されており、いずれも、技術開発、設備投資、教育に時間と金を惜しまなかった企業であったことが書かれている。
 これを読んで、読者の中にはお怒りになる方もいらっしゃるでしょう。金も人もないから苦労しているんだ。あったらそんなこと、とっくの昔に実行していると。
 ではお聞きします。景気のよかった頃、あなたは将来に備えての戦略なり投資を考えましたか、あるいは社員に対して新しい教育などを実施しましたか。売り上げ、配当を自分の贅沢な生活に、あるいは社員と共に福利厚生と称して海外旅行、遊行費に充てませんでしたか、実は、倒産、廃業した多くの企業にこのような共通点が見受けられます。(p.29)
 「今更、こんなシビアなこと言われても・・・」 と思う。
 企業の場合ばかりではない。
 個人においても、この指摘は鋭く核心を突いている。

 

 

【エンジェル:日本IBM】
 設立後の最初の仕事は、日本IBMの依頼による自動車のデザイン用CADの三次元自由曲面モデラーの開発でした。このシステムを用いて設計された車はその年のカー・オブ・ザ・イヤーを受賞しています。その技術を基盤に、様々な企業に対し、「形状処理」 に関係するコンサルティングや、汎用三次元CADではできないモデリング機能を備えた専用システム=インハウスCADの開発を行っているのです。現在では内外の自動車、電気、メーカーや研究所など、クライアントは多岐にわたっています。(p.47)
 IBMの依頼で作ったシステムのユザー元は三菱自動車だったらしい。幸先がよかった著者の会社は、ベンチャーキャピタルや政策的な支援をほとんど受けないまま、ここまで来ることができたという。それも外資のIBMあってのことと、著者は書籍の終盤で改めて記述している。
 あえて言えば、最初の仕事をいただいた日本IBMが外資企業であり、アルモニコスが大手企業ではないという理由だけで発注候補から除外するようなことはなかったのが、一番の支援だったと思います。おそらくその仕事が日本IBMではなく非常に日本的な会社のものだったら、「生まれたての小さすぎる会社に仕事を出して失敗した時の責任」 に対してのエクスキューズが不可能なため、仕事を発注していただけなかったでしょう。日本IBMのその当時の担当者が、仕事の内容をしっかり判断して自分でリスクをとる 「リスクテイカー」 タイブだったのが、ベンチャー企業アルモニコスのエンジェルだったような気がします。(p.256)
 日本的風土の中にあっては、小さく無名な会社を救いあげるエンジェルは存在しないのだろうか。アルモニコスにとってのエンジェルが日本IBMであったように、シコー技研のエンジェルも外資のインテルだった。
   《参照》   『誰もやらない。だからやる』 白木学 (祥伝社)
              【インテルが驚いた二つのポイント】

 

 

【2次元CAD】
 いまどき、製図板で図面を描いているような工業高校はないだろうけれど、そんなものを用いているようなら、完全に生徒を軽んじ、日本国家の将来を疎んじる、最悪の教育ということになるだろう。
 されど、企業においては2次元CADですら、もはや時代遅れである。
 二次元CADの最大の利点はこの慣れ親しんだ仕事の流れをあまり変えることなくコンピューター化を進められることにあります。 ・・・(中略)・・・ 。(二次元CADには)利点がありました。例えば、「大量の図面の検索が楽で、管理のために場所をとらない」、「類似設計、編集設計時などにデータの二次利用が可能」、「遠隔地へネットワークを使って送ることができる」などがあります。 ・・・(中略)・・・ 。ただし、二次元CADシステムには大きな限界が存在しています。「慣れ親しんだ仕事の流れ」 を継続できることが、「大きな生産性向上」 を阻むことになります。(p.76-77)
 生産性の向上は、従来通りの延長的手法ではそれほど効果があがらない。
 まだPCが今日ほど一般的にはなっておらず、オフコンと呼ばれるような高額商品であったころ、事務員が多量の伝票を処理していた企業の社長さんが導入を決意したのに、事務員がコンピュータを断固拒否したため導入に至らなかったということもあった。この会社が現在どうなっているのか分からないけれど、慣れ親しんだ仕事をリセットしてスタートする意志がないと、変化の激しい時代には、生き残れない。
 二次元CADと三次元CADでは、地上を高速で走るのと、空を飛ぶのかのような生産性の違いがある。製造業にとっては死活問題である。
 (二次元CDAの場合は)常に 「製図法の分かる人間」 が介在していないと、情報を伝達して次の作業へ進むことができません。
 コンピュータ導入のメリットを享受する事、つまり、「上流の情報を後工程に流す」 ことで後工程の自動化を進め、「人間の介在を減少させること」 や 「同じ情報の再入力によるケアレスミスを減らすこと」 などの効率化につながる展開を見込めないのです。(p.77-78)

 

 

【3次元CAD】
 3次元CADには、ワイヤーフレーム方式、サーフェス方式があるけれど、視覚的に理解しやすく、実際の解析に有効なのは後者である。
 表面の座標が自由に計算できれば、物体の表面に網目をつけることができますが、これは解析の分野で、格子点あるいは表面格子と呼ばれるものです。これらの点ごとの関係を式で解くことにより、有限要素法(FEM)やコンピュータによる流体力学(CFD)などのシミュレーションが具現化し、試作時間や費用をかけずに設計の検証が可能となる利点が生まれます。 ・・・(中略)・・・ 
 三次元CADにおける最大の効果がこのシミュレーションといえるかもしれません。(p.85)
   《参照》   『キヤノン現場主義』 御手洗冨士夫  東洋経済新報社
            【3D-CADの効果】

 自動車メーカーが、かつてないユニークな形状の飛行機を生産できるようになったのも、三次元CADによるシミュレーションがあってこそである。
   《参照》   『日本はこれからも経済一流国だ』 森谷正規 (PHP)
               【ホンダジェット】

 

 

【CADからCAMへの自動化】
 製品を表す、サーフェスモデル表面の座標とその垂線が分かるとCAMシステムに連繋し、加工データを作ることにより、試作及び生産までの時間や費用を削減する効果が生まれます。 ・・・(中略)・・・ 。
 一方、サーフェスモデルのデータがあれば、三次元の形状の上をどんな方法で加工していくかを指定しておくことで、システムが面の上の座標を順次自動計算し、NCマシンの制御コードを生成します。もし、5軸の加工機を持っていれば、垂線が分かるので常に面直にNC加工をすることも可能となります。また、ソフトウエアを目的に合わせて開発することでロボットにその情報を渡し、磨き加工や組み立て、検査などにも自動化することが可能となります。(p.86-87)
 NCマシンとは、numeric control:数値制御によって加工する工作機械のこと。
 これを手作業でやっていたら、熟練者がそろっていても、少なからぬ時間が必要である。
 このようなデジタルプロセス・イノベーションが実現しているのだから、並みの部品製造など、日本から工作機械を購入することで、容易に中国などで生産されるようになってしまうわけである。

 

 

【プロセスコネクタ】
 プロセスがデジタル化されたとしても、システムを連結すると技術的にトラブルが生じることもある。
 システム間の精度の違いによる問題が多く見られます。ちなみに精度が異なれば、あるシステムではフェース(面)の境界線として認識されていたカーブが、別のフェースに乗っていないと判断されるケースが出てきます。乗っていなければ当然、境界線にはなりえず、エラーの扱いを受けてしまいます。(p.179-180)
 なわけで、プロセスコネクタに問題を吸収させる技術が必要になる。

 

 

【ソリッド方式のCAD】
 このようなサーフェスを扱うCADシステムは、実は1980年代前半に登場していたという。ワイヤーフレームという 「線」 から、サーフェスという 「面」 へと進化してきたCADは、次に 「立体」 をダイレクトに扱えるソリッド方式へと進化する。CADがソリッドをサポートするようになったのは1995年以降のことだという。
 三次元CADシステムがソリッド技術によりパラメトリックにモデリングできるようになると大きな変化がありました。三次元ソリッドシステムなら、部品の形状を考える時、一枚一枚曲面を外周線から定義したり、面同士の関連(位相)を気にすることなく設計できます。 ・・・(中略)・・・、直方体から円柱を切り取るといった 「ブーリアン演算」 で設計が可能となったのです。こうしたことにより、製造業の現場に変化が起こります。これまでは特定の人のためだけにあった三次元CADと、大多数のためにあった二次元CADが融合の機会を得たのです。「ボディだけでなく、すべての部品が三次元モデルで設計できる」 という機運が生まれてきました。(p.116)

 

 

【CAT】
 三次元CADと三次元計測機を用いた製品検査システムです。工業製品の製品検査では接触式計測器を使用するのが主流ですが、膨大な工数を必要としています。(p.235)
 現在は、部品であれ人体であれ、非接触によって立体を計測しコンピュータに取り込む計測器が開発されている。これを三次元CADと組み合わせない手はない。
 すでに製造業の分野では、多くの人手を必要としなくなっている。雇用を守ってデジタルプロセス・イノベーションを導入しなければしないで、海外製品に太刀打ちできなくなってしまう。
 
【技術革新と社会進化のあるべき姿】
 畢竟するに、高機能・高付加価値の機器が導入されれば、世界全体で雇用が失われて行くのは定めであり、これを変えることはできない。社会全体が、「労働時間を短縮させ、富を分配し、余暇時間を増やす側へシフトさせる」 という明確な概念で進むしかないのである。そして、それこそが正当な社会進化のあるべき姿である。
 
<了>