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 日本は “ものづくり” で経済一流国家としてやってゆくという主旨の著作。この書籍は、2008年8月初版だけれど、基本的なことは、日本のことを知りたがっていた留学生用にと2000年頃に書いて渡していた 日本経済産業 のフォルダー内に納められているものと内容は殆ど同じである。

 

 

【自動車産業】
 ハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車による乗用車の変身的な進化において、日本が世界をリードするのは間違いない。環境保全のための軽量化でも、材料産業とともに日本のメーカーが先頭を走るのは確かである。 ・・・(中略)・・・ 安全性の向上でも、電器産業と一緒になって着実に進めていくだろう。
 最も巨大な自動車産業において日本が強い時代はなおも長く続くのであり、製造業全体としてたいへん心強いことである。(p.89)
 自動車業界の世界のナンバー1企業となったトヨタだから、トヨタ関連のビジネス書はいっぱいあって、経営陣の 「現在順調だからといって安穏とはしていられない。常に危機意識を持って・・・」 という発言がどの書籍にも記述されていた。
 ところが、その “危機意識” は、未来の技術革新の方面にばかり向けられていたらしい。ブレーキなどというあまりにも基本的な性能において世界中でリコールというのだから唖然とする。
 世界の優良企業であるトヨタを日本の象徴として見るならば、ブレーキが利かなくなったまま、何も決められないで何カ月も空費する現在の民主党政権に比定できそうである。ちょっとお寒い日本の未来。

 

 

【航空産業】
 国産初のジェット旅客機MRJ(ミツビシ・リージョナル・ジェット)のJAL、全日空による購入に期待をかけたいのだが、70~90人乗りの旅客機の需要は国内では少なく、期待は薄い。(p.43)
 国内は期待薄であっても、海外に市場はいくらでもある。
 トヨタが資金面で参入することを決めており、100億円を拠出する。これは 「MRJ」 にとって朗報である。 ・・・(中略)・・・ 。燃費のよさが最大の武器であるので、三菱重工業は 「航空機のプリウス」 にするのだと意気込んでいる。(p.133)
 三菱はブレーキまでプリウスの真似しては困るよ~。飛行機のオーバーランは絶対に洒落にならない。
 MRJは、競合する世界中の他社のジェット機に比べ、3割も燃費がいいのだという。MRJのように燃費のいいジェット機を作る日本のメーカーは、三菱だけではない。

 

 

【ホンダジェット】
 ホンダは、世界でただ一つの航空機メーカーである。それは、エンジンと機体の両方をつくるという意味でだ。大型旅客機からセスナまで、航空機は、エンジンメーカーと機体メーカーは別である。ホンダが初めて、エンジンも機体も開発し、生産するメーカーとして登場してきた。(p.136)
 ホンダジェットは6~7人乗りで、主翼の上面にエンジンを搭載するユニークな機体なのだという。
 2006年に米国で発表したが、たちまち100機を超える受注があったと書かれている。
 日本製の優れた部材はいくらでもあるけれど、アメリカで生産するには、米連邦航空局(FAA)の認定が必要で、それほど需要の多くない日本メーカーは、ホンダジェットのために、多くの手続きを要するFAAの認定をわざわざ取得することまではしないらしい。よってホンダジェットの部材の多くはアメリカ製である。

 

 

【鉄道】
 (国鉄)民営化の大きな成果は、技術向上への懸命な努力が生じたことであり、重量半分、寿命半分、価格半分の革新的な車両をつくるなどの成果があったが、それによって車両メーカーの国際競争力が強くなったことの意義が大きい。日立製作所は、英国への鉄道車両の大量の輸出に成功し、メンテナンス拠点を開設してさらに本格的な輸出に乗り出す。(p.43)
 電車の車両を輸出したのは、英国ばかりではない。
   《参照》   『お父さんの技術が日本をつくった』  茂木宏子  小学館

            【明石大橋:日本の国力の象徴】

 

 

【日本は、世界の工場の工場】
 日本の工作機械産業は、1982年に米国を抜いて生産高で世界のトップに立った。その後は25年のあいだ一度も譲ることなくトップを続けている。(p.103)
 工作機械はいまは先進工業国の需要が多いが、これから新興工業国での需要が急拡大していく。(p.99)
 いうまでもなく日本は、早くからロボット王国といわれるほど開発と実用化が進んでいて、ロボットの生産量でも、工場へのロボット導入量でも世界で断然トップである。世界の産業用ロボット全生産量の7割を日本が占めており、世界の工場で稼働するロボットの5割が日本製である。(p.100)
 ロボットは、数値制御しやすい作業や、人間には困難な、精密すぎ・重すぎ・熱すぎ、というような作業分野で必要不可欠なものとして開発されてきた。精密な半導体とか、熱い環境で生産される重い鉄鋼などは、殆どすべての作業をロボットがやっている。
 ロボット化してこなかった分野は、雇用もあるけれど対費用効果の観点で人間に残されているだけである。しかし、それらの分野が、人件費の安い発展途上国家に奪われてしまっている昨今である。近年はロボットの開発費用も多少下がっているので、日本国内でロボット生産する方が、人件費の安い海外より効率よく生産することが、本当は可能である。
 しかし、仮にそのようにして日本に生産を取り戻し、完成品の輸送コストまで含めてメリットがあったとしても、日本に多量の雇用が生まれるわけではない。
 やはり、大局的には “世界の工場の工場” としての選択しかなさそうである。そして、それが世界を豊かにする日本人の役割なのだろう。
 日本は、ロボットを有する企業や、ロボットを生産する企業ばかりが富むのではなく、全ての人々が生活できるよう、遠からず経済構造を抜本的に変容させねばならなくなることだろう。端的に言うなら「ベーシックインカム」の導入である。

 

 

【日本のエネルギー開発を支える経済産業省】
 日本がエネルギー分野の研究開発で世界をリードしているのは、この政府の研究開発投資によるところが大きい。
 経済産業省は、エネルギーばかりではなく、製造業全般つまり、モノづくり全体で、企業をよく支援している。それは、行政の対象である産業における国際競争の激しさ、危機意識を企業と共有しているからだ。
 経済産業省の前身である、かつての通産省で、大阪万博やサンシャイン計画の推進者として活躍していた堺屋太一さんの、官僚当時のエピソードが下記の書籍に書かれている。
   《参照》   『「抜く」技術』 上原春男  サンマーク出版  《後編》

              【予算獲得折衝での、ある官僚との出会い】

 

 

【半導体】
 日立製作所とNEC(日本電気)がDRAM部門の事業統合をして設立されたエルピーダメモリ ・・・(中略)・・・ 、DRAMのなかでも高速で消費電力が少ない高度な製品に集中すれば、日本の高い技術力を活かして、サムスンに充分に対抗できると意気軒昂であった。坂本さんの非凡な経営手腕によって、日本のDRAMは見事に復活した。日本で一社のみにするという大激変によって可能になったのだ。(p.200-201)
 こう書かれているけれど、昨年(2009年)の秋頃(だったか?)、エルピーダメモリは経営難から、台湾企業に買収される寸前までいったというニュースが流れていた。日本の技術を守るために政府が介入して買収は行われなかったけれど、この書籍が出版された2008年8月から、経営状況はかなり変化しているらしい。
 半導体産業は、巨額の投資を要する割には国際価格競争の激しい分野なので、日本は優良企業がいくつもありすぎた故に投資を集中できず、アメリカや韓国や台湾に先を越されたまま今日まで来てしまっている。

 

 

【コンテンツ産業は教育を目指すべき】
 ゲームソフトで、コンテテンツをつくる優秀な若者は大勢育っている。そうした人たちを教育に誘い込むのは可能だろう。ゲームよりは、教育のほうが社会的な意義ははるかに大きく、コンテンツ産業はその方向を目指すべきである。(p.240)
 まったく。
 若者たちがゲームに費やしている膨大な時間を、面白く作成された教育ソフトに向けられたら、大層な成果になることだろう。私立高校などは当たり前にやっていることだけれど、公立高校は今でも手を拱いているだけなのだろう。モデル校くらいはあるのかもしれない。
   《参照》   『江戸取流「学力革命」』  高橋鍵彌  サンマーク出版

              【ネット授業】

 地方自治体レベルなら、私立と公立の提携プロジェクトとして起動させることも可能なのではないだろうか。既に公共へ開放されている教育コンテンツがあるなら、それを活かそうとする取り組みがあってもよさそうだけど、多分何もやっていないのだろう。
 県庁の教育課の職員は、IT技術者を呼んで講習を受け教育コンテンツ作りに精を出せばいいのである。何もすることがなく椅子に座ってボーッとしているだけの毎日より、遥かに社会に役立っているという意識が持てて幸せなことだろう。 「そんなことはいやだ」 という公務員は窓際か他の課に移動してもらえばいい。民間の中には、2年後までに社員の8割をIT企業の社員に入れ替えると宣言し、IT技能の取得ないし希望退職を募って、その通りに実施してしまった企業もあるのである。
 単なる生活費支給場所としての意識しかない怠惰な公務員が屯しているような地方は、本当に世界から取り残されるだけである。
 
<了>