《前編》 より

 

 

【予算獲得折衝での、ある官僚との出会い】
 海洋温度差発電の研究費用をお願いするために、お役所へ出向いたのだという。
 私が、さあ、これから説明を始めようとしたとき、その担当者はおもむろに椅子に背をもたせかけたかと思うと、あろうことかテーブルの上に靴を履いたまま両足を乗せたのです。
 ・・・中略・・・。
 しばらくがまんしましたが、私はとうとう腹にすえかねて立ち上がり、だまって彼の両足を持ち上げると、それが本来あるべき場所 ――― 床の上に戻しました。
 そんなことが2、3度繰り返されたでしょうか、もちろん内心、はらわたが煮えくり返る思いでした。なんと無礼なふるまいだ、中央の高級官僚というのはこういうものか。しかし、私は説明を続けました。(p.155)
 これを読んだら、誰だって、「ムッカーー、嫌な奴っーーー」 と思わずにはいられないだろ。
 この担当者の方は、かつて少壮官僚として大阪万博のプランを練り、当時は、新エネルギーの技術開発計画であるサンシャイン計画を指揮しておられました。 (p.158)
 ここまで読んで、「ま・さ・か・・・・」 
 その後、役所を辞められて、評論家や作家として活躍し、 『知価革命』 『峠の群像』 といったベストセラーを出し、経済企画庁長官も務められた経験もあります。と書けばおわかりのように、通産省時代の堺屋太一さんだったのです。 (p.159)
 そのマサカの方だった!!!!
「最初のとき、なぜテーブルに足を上げたんですか」
 答えはこうでした ―――― あれは山ほどある陳情を断るための戦術です。真剣でない人を追い払うための儀式のようなものです。あれをやると、たいていの人は腹を立てて二度と来ない。学者はプライドが高いからなおさらそうです。しかし先生は腹を立てながらも何度もやってきた。計画中の中身もさることながら、その熱意に私はゴーサインを出したんですよ―――。 (p.158)

 

 

【人間力】
 手助けや力添えをした人は、うまくいかなかった結果を本人以上に心苦しく思っているものです。それに対しては最後まで礼を尽くす。成否の如何を問わず感謝の念を忘れないことが大切です。
 失敗したときにどう振る舞うかで人間の器量が測れるし、人はそれをよく観察しているものです。(p.167)
 研究成果が表れるまでの途中段階では、そうとう苦吟していたのであろう。そういった過程を見越して助言してくれていた方々がいる。
 土光敏夫さんは、「この研究をやり抜くためには、100人中99人を敵に回す覚悟がないとダメだ。先生、その覚悟がおありですか」 と励ましてくれました。
「予算を出すにあたって条件があります。誰が何と言おうと、途中でこの研究をやめないこと。それから、どんな場面であっても、会う人ごとに海洋温度差発電の話をすること。しつこいくらいにPRしてください」 と、そう助言してくれたのは堺屋太一さんでした。 (p.168)

 

 

【海洋温度差発電の副産物】
 海水面付近と深海の温度差によって発電する海洋温度差発電は、エネルギー生成過程で様々な有用副産物を生みだすことが可能であるらしい。
 例えば、深層水の中に含まれるミネラル。この深層水は魚の養殖などにも効果的らしい。豊富な海水から水素を取り出せるし、そのまま淡水化して飲料水もできる。もちろん農業用水・工業用水は言うまでもない。海洋諸島の国家にとっては、死活問題となる飲料水の供給が確実になるというだけで素晴らしい技術であるけれど、
   《参照》   『マーシャルの奇跡』 三枝篤夫  蝸牛新社
これに発電その他を伴って可能になるなら、まさに一石二鳥いや三鳥以上である。
 インドでは1000キロワットのプラント建造が既に行われています。その他、計画中の国も含めれば、パラオ、フィリピン、モルジブなど環境やエネルギー問題、水や食料不足などに悩まされている国を中心に100カ国くらいでプロジェクトが検討されています。(p.197)
 広く世界に貢献してくれそうな素晴らしい技術を携えた日本人技術者がここにもいる。
 
 
<了>