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 『ニッポン人には、日本が足りない』 藤ジニー (日本文芸社) の続編かと思いきや、この書籍は、文化比較的な記述は殆どなく、接客サービス業を生業とするプロフェッショナル女将の視点で書かれた、 “日本のおもてなし心得帖” である。
 アメリカ人である著者にとって印象深いものを記述したであろう “日本のおもてなし心得帖” は、日本人にとってはごく普通のことなので、水際立った読後感は残らない。
 銀山温泉は、「おしん」 のロケ地であったことや、外国人女将である著者の広告効果もあり、今では年間を通じて宿泊客で賑わっているらしい。銀山温泉地域の活性化と並行して、 “おもてなし” をレベルアップすべく研ぎ澄まされた意識で学びつつ向上してきた課程が綴られてもいる。

 

 

【バス停で】
 アメリカではバス停で並んでいても、知らない人と目を合わせては、話しかけて笑ったり、気楽なコミュニケーションがあります。日本人は恥ずかしがり屋のせいか、ちょっとかたい。とくに都会では、知らない人と打ち解けるまでに時間がかかる気がします。(p.22)
 「バス停」 に関する記述で思い出した。もう10年くらい前になるけれど、台北駅近くのバス停で待っていたら、台湾人のお祖父ちゃんが、「君は日本人か」 と話しかけてきて、「昔は良かった、今は治安が悪くなってしまって・・・」 という話をきかされていたことがある。バスが来るまで5分間くらいだっただろうか。今思うと、次のバスまで30分あったとしても、その時、お祖父ちゃんの話を聞いていればよかったと思ってしまう。もしかしたら、台湾版 『フォレスト・ガンプ』 みたいな面白いストーリーが聞けたかもしれないのだから。

 

 

【銀山温泉のおもてなし】
 うちは山奥の宿。ゆっくりのんびり温泉につかり、地元の人と触れ合いたいというお客さまが多くお見えになるところです。東京の格式あるホテルなら、敬語や接客態度はきちんとしていた方がいいと思いますが、銀山ではあまり格式ばったおもてなしは似合わないと思います。サービスは、完璧なものがただ一つあるわけではなく、その場に合ったやり方で、ほどよくするのがよいようです。 (p.143)
 んだ。

 

 

【着物生活】
 宿へ出る前の着付けは、髪の毛を整えた後ならいまは十分くらいで終わります。以前は一から姑に教わりました。着物の着方や帯の結び方はもちろん、色や模様の合わせ方も、自信がなくてアドバイスしていただきました。着物は、形は同じでも、素材や色柄が本当にたくさんありますし、帯や小物などとの組み合わせもいろいろ考えられます。いまではそれが楽しくて仕方がありません。(p.176)
 着物の生活は楽しいです。着ることを楽しみつつも、まわりから見てもすがすがしく気持のよい美しい所作を身につけられたらいいなと思います。(p.179)
 日本人で、ジニーさんと同じように思って行動している人って、どれくらいいるのだろうか?
 ジニーさんは、 “たおやかなる日本の美の世界” に釘みたいに完全に嵌ったらしい。 

 

 

【茶道の所作】
 お茶を覚えると、まず日本の作法がすべて入っているのがわかります。たとえば部屋への入り方やおじぎの仕方、立ったり座ったりという動きを美しくする仕方を教わることができます。礼儀もそうです。お茶席に入ったとき、禅の言葉などが漢字で書かれた掛け軸を拝見しますが、書いた人に対する感謝の気持ちを込めて一礼します。
 お茶をいただくときは隣の方に、「お先にいただきます」 と気づかってあいさつをしますし、花入れと花を拝見するときは季節感を楽しみます。お茶だけでなく、日本人の感性をも理解できるような気がするのです。
 銀山に来て十三年になりますが、もっと早く覚えた方がよかったなぁといまごろになって思います。宿でのおもてなしに生かせる部分もあることに気づきました。たとえば、以前より物の扱いがていねいになったと自分でも思います。きれいに見せたり、美しく運んだり、ていねいに物をお出ししたり、一つ一つの所作が良くなってきたようです。覚える前には一つ一つの面倒な動作ばかりに目がいき、自分にプラスになって返ってくるとは思いもしませんでした。
 日本の若い人たちはこうした作法を知らない人が多く、もったいないと感じることがあります。(p.173-174)
 ホント、もったいない。
   《参照》  日本文化講座 ⑥ 【 茶道 】
           【 茶室の掛け物(掛軸) 】
 やはり、 『ニッポン人には、日本が足りない』 らしい。
 
 
<了>