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 建築関係の書籍。全く本を読む気になれないときは、めったに読まないジャンルの本を手にすると、読書ではない感覚で本が読めるもの。2003年初版。
 タイトルに関わる著者の思想は、第1章の30ページまでに全て記述されつくしている。それ以降は、建築に関わっての具体的な所感が記述されている。例えば、お役所の “頭の固~い(悪い?)融通のきかなさ” とかも・・・。


【TM3の概念】
 建築業界では、Mを米(メーター)、M2を平米(へいべい)、M3を立米(りゅうべい)と、それぞれ長さ、広さ、体積の単位を漢字で書き慣わしています。
 これになぞらえて、私は立体に時間軸を加えた単位について、時立米(じりゅうべい)という日本語をあみ出しました。単位的に表記するなら、M3にTIME の T を掛けて、TM3(ティ・エム・キュービック)です。
 広さに高さを掛けて、つまり階高を入れた立体として計算し、さらに何年そのまま使えるかを分母にすると、年当たり価値が割り出せます。50年使える空間が1立米100万円だとしたら、1年当たりの金額は2万円。これを1時立米2万円、1TM3 2万円と表記したいのです。・・・(中略)・・・。時間軸を入れることによって、その空間の時間当たりの価値比較が容易になります。 (p.19)
 この概念を実現するためには、スケルトンとインフィルを分離して考えると分かりやすい。

 

 

【スケルトン・インフィル工法】
 「スケルトン・インフィル工法」と呼ばれる工法があります。構造躯体(=スケルトン)部分と内装・設備(=インフィル)部分を極力分離して建築する工法です。そうすることにより、構造躯体を痛めることなく、耐用年数の短い内装や設備部分の改修工事、さらに間取り変更を行うことが可能になりました。 (p.23)
 数十年先のライフスタイルや生活のあり方を考えて、つまり時間軸を考慮して、空間をフレキシブルに有効活用できるように設計しようとすれば、スケルトンとインフィルを分離して設計することがどうしても必要になる。
 『劇的ビフォー・アフター』 という改築を扱ったテレビ番組を見ていると、最近は殆どの改築に、程度の差こそあれ(小規模ではあるけれど)、時間軸を考慮した内装可変の仕様が取り入れられているようだ。
 著者は、子供が独立した老人の場合は、個室に籠るより、壁を取り払って広い空間に居住できるようにすれば、大勢の人々が集まりやすく孤独を防げる、という事例も記述している。
 商用施設専門の空間であるならば、テナントに合わせて仕切り位置を任意に変えられる仕様は、現在では当然なのであろう。しかし、こういった考慮をしていなかった場合、かつての韓国のデパートのように崩壊するという事態が起こってしまう。あの崩壊は、売り場を広くするために、支持力を荷っていた内壁まで取り払ってしまったことによって起こっていたそうである。

 

 

【地球環境に貢献できるTM3の思想】
 一般の人にTM3の思想が浸透してはじめて、建築が日本のストックになり、省資源・省エネルギーという観点から地球環境に貢献できるようになるのだと思います。 (p.21)
 新しく建築する場合は、TM3の思想によるべきなのであろう。しかし、20年・30年前に作られた空間固定型の箱物建築物は、有効利用されないまま現在でも数多残存しているはずである。人口の減っている地方の学校などの公共施設には、デッド・スペースがかなりあるはず。
 こういった取り壊せないデッド・スペースを活かす方法はないものなのだろうか。
 もっとも、怠惰なお役所が具体的に何ら努力しなくとも、温暖化で海面が上昇してくれば、首都圏などの人口が、標高の高い地方へ還流してくるだろうから、その時は、デッド・スペースを全て活かしても足りなくなるのは明白である。予兆段階など完全に通り過ぎている現時点ですら、地球規模の人口動態の変化を予測できないお役所とは何なのか。最も、全ての人々がその認識を共有するには、あと10年かかるらしいけれど。

 

 

【システム化の意味を考える】
 私が設計したお宅の奥様が、鏡面仕上げの美しさに惚れ込み、どうしても鏡面仕上げのキッチンをご要望なさいます。
 揚げ物がお好きなご家庭とうかがって「清掃が大変ですよ」と反対したのですが、どうしてもということで、採用することとなりました。
 竣工後、何年かしてお邪魔した際、奥様がこうおっしゃいました。
 「あの時、守田さんが鏡面仕上げを反対されたわけが分かりました。夕飯に天ぷらを揚げると、次の日は、油のはねを拭いて鏡のようにきれいにするのに一日かかってしまいました。今では揚げ物はよほどのことがない限りしません。 『キッチンはお前の城だから好きなようにしていいよ』 という主人の言葉に甘えて高価な鏡面仕上げにしてもらったのですから、今さら不便だなんて口が裂けてもいえませんけど」 (p.82)
 アイランド型のシステム・キッチンも美観を保とうとすれば実用的ではないという。キッチンは美観より実用性を優先しないと本来の目的を果たせずに後悔することになる。
 
<了>