イメージ 1

 タイトルに「新しい中国」とあったから、中国国内のビジネス環境が世界標準に近づいたのかと思ったら、そうではなかった。相変わらず法治国家ではなく人治国家である。人治国家・中国で勝ち組になったダイキン工業の中国部長さんが、そのノウハウを具体的に記述している。実体験の書なので面白い。2007年5月初版本。

 

 

【著者のスタンス】
 拙著におけるわたしのスタンスだが、中国脅威論でも、楽観論でもない。 “嫌中” でも “反中” でも “迎合派” でも “親中” でもない。あえて言うなら “現実派” である。 (p.5)
 現在形、過去形、未来形という時制のない中国語を話す中国人は、全て “現実派” である。つまり、著者は、中国において中国人がやるようなビジネスを敢行して勝ち組になったということである。日本的経営が実を結んだという結果では、決してない。

 

 

【ブランド名を悪用する中国企業】
 ダイキンの中国における名称は「大金」だ。しかもわれわれは中国への本格進出に当たって「上海大金協昌空調有限公司」という製造・販売会社を設立している。 (p.30)
 これに対して、上海大金科技という空調設備会社が手の込んだ情報操作をしたのだという。
 02年10月のことだが、「上海大金科技が 『日本大金株式会社』 を買収した」 との記事が 『中国工商報』 という由緒ある経済新聞に掲載された。
 上海大金科技は、自らが日本で会社登記したペーパーカンパニーを 「買収した」 ように装い、これによって 「われわれは日本と関係の深い企業です」 と主張しようとしたのだ。そこまで用意周到にやるか・・・。(p.32)
 最近ニュースで、「讃岐うどん」 という日本の確たる国民的ブランドを、台湾国内で登録しておいた台湾企業が、日本から進出した本物の讃岐うどんに対して 「商標をとりさげるか、商標の使用料を払え」 と要求したことが報道されて、日本人は大いに呆れたけれど、中国大陸内では、そんなの、当たり前すぎて数えていたらきりがなかったようである。
 それほどに、日本ブランドは人気が高いということではあるけれど、だからといってそれで満足していては商売にならない。著者は、類似ブランドに対抗しつつ、あらゆる方面の人脈・人材を活用して、最終的に自社ブランドの登録 <著名商標の取得> を何年もかけて漸く成し遂げたそうである。
 いくら中国政府が 「国際的な基準に合わせる」 と言ったって、このような実状であることは変わらない。日本人の商業道徳など中国には、最初からありえない。戦って勝つしかないのである。
 ヤマハ発動機、日本ペイント、・・・(中略)・・・。ソニーやホンダ、松下電器産業、トヨタもニセモノ業者を相手に裁判で争った。いずれも中国ビジネスの勝ち組と呼ばれる日系企業だ。  (p.51)

 

 

【中国の公安と日本の警察】
 あまり知られていないことだが、上海の公安部は日本の大阪府警と協力関係にある。北京の公安は、警視庁と関係が深い。 (p.43)
 上海と大阪の関係は、中国に最も古くから進出していた企業が松下電器だったからなのだろう。
   《参照》   『大創運』 深見東州 (たちばな出版) 《前編》
             【松下幸之助さんを守った守護霊団】

 

 

【カントリーリスク:浙江省】
 2005年秋、ソニーの販売するデジタルカメラに・・・(中略)・・・浙江省工商管理局が販売停止令を出した。
 かわいそうなくらいソニーは叩かれた。まさに一罰百戒的な摘発である。
 なぜソニーが標的になったのか?
 ひとつに浙江省の工商行政管理局は、中国国内ではもっともきつい取り締まりを行う局として知られている。浙江省は、あまり外資にたよらず、ローカル企業が主体となって成長を果たした数少ない地域なので、省内の地場産業育成・保護にとくに熱心なのだ。だから、ライバル関係にある外国系企業はかなり厳しい目で見られている。 (p.83)

 浙江省に関するこの特徴は、記憶しておいた方がいい。

 

 

【陰徳あっても陽報なき現在の中国】
 「陰徳あれば必ず陽報あり(人知れず良いことをすれば必ず目に見えてよいことが返ってくる)」 というのは中国前漢時代の哲学書 「淮南子」 の人間訓にある言葉だが、現代中国人にはあまり通用しない。陰徳よりも 「陽徳」(目に見えるかたちの良い行い)、不言実行よりも有限実行が中国人に喜ばれるし、企業としてのメリットにもなる。社会貢献はただ黙々と人知れず行うのではなく、しっかりと 「見せる」 仕掛けが必要。  (p.98)

 日本も同じだろう。

 

 

【笑っちゃう収益:リベートの嵐】
 たとえばダイキンの場合、傘下の販売代理店の粗利率はだいたい14から15%というところが妥当なラインだが、プロジェクトの発注主や口利きをしてくれた紹介者をはじめ、あまたの介入者にそれそれ1から2%ほどの販売手数料を支払うと、残りはせいぜい4%程度ということも少なくなかった。これを嫌がったり、面倒がったり、ケリったりしたら、北京でのビジネスはなりたたない。 (p.114)
 これが中国ビジネスの実態である。

 

 

【広東人がこだわる数字】
 何につけても融通無碍な広東人だが、唯一こだわっているのが数字である。
 とくに、六、八、九への思い入れは強い。六は中国語読みで「リュウ」となり、隆盛、興隆の 「隆」 につながる。八は 「発展(ファッテン)、九は永久の 「久」 に通ずるというわけだ。風水や昔ながらの迷信への信奉もかなり厚く、縁起を担ぐこと他地域を圧倒している。  (p.118)
 台湾には、近年になって中国大陸から流入してきた中国人を "外省人" と言って "本省人" と区別しているけれど、外省人で最も多いのは広東省や福建省といった華南地域からの人々である。

   《参照》  『台湾人のまっかなホント』 宮本孝・蔡易達 (マクミラン・ランゲージハウス)

            【 「八」 】

 日本人も「八」を好む人は少なくないけれど、それは「末広がり」だからだろうし、数字を横にすれば「∞:インフィニティ:無限」を意味するからだろう。「発」と同系統の意味合い。

 

 

【これこそ中国!!!】
 中国の税制はころころ変わる。このため、こっちに悪気など毛頭なくとも、税務調査が入るとごっそり追徴金を持っていかれるケースが少なくない。  (p.126)
 10年以上前から指摘されている中国の悪しき税制であるけれど、現在でも何ら改善されていないらしい。
 裁判においても、誰が裁判官かをしらべて、偶然を装って面会するという手口が紹介されている。
 徹底的に人事国家・中国である。

 とはいえ、日本の裁判所が法治に即して公平かといえば、ぜんぜんそんなことはない。

 日本も、ウルトラ酷いものである。

   《参照》  "裁判所"に関する引用一覧

 

 

【栄宝斎文具店】
 この便箋で手紙をもらった相手は、まず間違いなく 「あの栄宝斎!」 と喜び、さらに 「高橋基人用箋」 との印刷を見て、「わざわざ自分用の便箋を作ったのか」 と感心する。わたしは 「栄宝斎文具店の素晴らしさがわかる日本人」 イコール 「中国文化を解する日本人」 というありがたいレッテルを貼られる次第となる。   (p.140)
 栄宝斎文具店は、日本で言うと東京銀座の鳩居堂や伊東屋のようなもの、あるいはそれ以上の格式があるところ、と紹介されている。チャンちゃんには、銀座の鳩居堂や伊東屋といわれても、それが果たして何屋なのかすらわからなかったけれど・・・・・。

 

 

【R&D誘致に懸命な中国政府】
 最近の中国政府は、研究開発(R&D)センターを中国に持っているか、あるいは持とうとしているかどうかを、外資系企業を許認可する際の判断基準としている。日系企業で中国本土にこれを持っているのは、松下電器やソニーなどのごく一部。   (p.165)
 経済は、生産者優位ではなく、書い手(市場)優位で動いてゆく。オリンピックと上海万博を終え、中国市場が安定した購買力を今後とも保てるかどうかが第一の課題だろう。
 その次に問題なのが、中国が覇権主義=共産主義を維持するかどうかである。これが変わることはないだろう。
 企業にとって、中国は優れた市場であっても、優れたR&D環境ではない。世界を混乱させかねない覇権主義国家であり続けるのであるなら、そこにR&Dを置く事は世界の安定に与しない。ましてや法治国家どころか、人治国家の様相が全く改まっていない中国である。                           
 
 
<了>