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 2006年6月に出された書籍。その後、日本経済のおかれた状況について、この書籍と同様な内容を記述している書籍はいくつもあり、それらは既に読書記録の中に書いているので、取り立てて記録に残す内容がない。


【日本の景気回復要因】
 戦後第二位となる景気拡大連続記録を達成させた立役者は、小泉首相では決してない。その真の源は、小泉改革とはいっさい関係のないところにあった。
 企業が解雇や経費節減といったリストラの自助努力を重ねたところに、21世紀ニューフロンティアの代表、中国経済の超高度成長という「カミかぜ」が吹き込んだおかげである。 (p.50)
 中国経済の成長に伴い、日本の重厚長大型産業が復活し、中国に作れない高品質な製品を供給する日本企業が莫大な利益を上げているといった大企業中心の経済回復であり、一般庶民は恩恵にこうむれない日本の景気拡大であること等々、この書籍と同様な説明を行っている人々が殆どである。
 《類似》   増田俊男・著

     『日本がアメリカと世界を救う!』

     『そして、日は昇った!』

     『目からウロコのマーケットの読み方(上)』

     『目からウロコのマーケットの読み方(下)』

 

 

【「バンコール」という世界共通通貨】
 イギリスの利益を代表するケインズは「バンコール」という世界共通通貨によって戦後の資本主義経済を動かしていこう、という構想を掲げた。
 ケインズ案による「バンコール」は、マイナスの利子率を持つ通貨だった。マイナスの利子率というのは、預金をすると貨幣価値が減価してしまうことである。つまり、銀行にお金を預けると利息がつくどころか、逆に利息が取られてしまうのだ。
 通貨にそのようなメカニズムを埋め込めば、カネを溜め込んで独り占めしようという輩を排除することができる。そうすれば、世界中の人々が比較的平等に経済成長の恩恵を受けることができるのではないか。ケインズは、そう考えてマイナスの利子率を持つ世界共通通貨の発行を提唱した。  (p.125)

 これに対して、アメリカの利益を代表したのがH・D・ホワイトという人物だった。彼は、ドルに金との兌換性を持たせ、各国通貨がドルと固定的にリンクするというIMF(国際通貨基金)体制の確立を提唱した。
 そして1944年7月、アメリカ・ニューハンプシャー州にある行楽地、ブレトン・ウッズで連合国通過金融会議が開催され、45カ国が参加したが、その席でホワイト案の採用が決められたのである。 (p.126)
 大英帝国凋落の最終段階を生きていたイギリスの経済学者ケインズは、帝国存続のための経済手法を考えていたのだろう。しかし、ケインズはブレトン・ウッズで具体的な技術論に勝っていたホワイト案が採用されてまもなく1946年に亡くなっている。
 金とリンクしたドルを基軸とする固定相場制のIMF体制は、1971年に金とのリンクが切られ変動相場制へと移行し、“ドル支配のシステム” はこの時点で崩れ始めている。
 今日、アメリカの衰退は明白である。基軸通貨ドルに変わって、世界共通通貨構想が再び語られるのだろうか。それとも、EUのように、地域共通通貨がアジアや南北アメリカ大陸地域に出現するのであろうか。いずれにせよ、世界が安定するまでの期間、日本の通貨 “円” の果たす役割は圧倒的に大きいはずである。

 

 

【意欲格差】
 いま、教育の世界では “インセンティブ・ディバイド” が問題となっている。日本語では “意欲格差” と訳されているが、経済的に豊かだったり、社気的地位の高い親を持つ子供は学習意欲が高く、そうでない親の子供との差が目に見えて顕著になっているのである。これは「社会の階層化」へとつながっていく由々しき事態である。 (p.182-183)
 小泉改革でリストラが大いに加速されて、意欲衰退どころか自殺している大人たちは多いという。社会全体の意欲を奪取してゆく今日の経済システムの中で生き残れるのは、意欲を持つ人々だけなのである。例えどんなに格差社会が進行する中にあっても、大人たちは子供に対して意欲を示す範とならねばならない。そうでなければ子供たちの未来に対して余りにも無責任である。
 
<了>